OpenAIは12月9日、都内で「AIインフラ」をテーマにトークセッションを開催した。トークセッションでは、来日したOpenAI CSO(Chief Strategy Officer)のJason Kwon(ジェイソン・クォン)氏、三菱UFJ銀行 シニア・フェロー、ソリューション本部ソリューションプロダクツ部長の藤木正行氏、村田製作所 上席執行役員経営DX本部 本部長兼同本部 経営管理統括部 統括部長の須知史行氏が議論を交わし、モデレーターはOpenAI Japan 公共政策・パートナーシップ担当の大久保和也氏が務めた。以下から対話形式によるトークセッションを紹介する。
日本のAIインフラ構築に必要な要素と海外の動向
--日本のAIインフラについて、どのように構築していくべきなのか?他国の状況や現トレンドをどのように見ていますか?
クォン氏(以下、敬称略):まず「AIインフラ」という言葉が何を意味しているのかを説明することが有益だと思います。これを理解することで、特に他国のインフラについて話す際に、議論がより分かりやすくなるでしょう。
最初に取り上げるべきなのは、インフラの物理的な構成要素です。これは土地と電力に関係します。なぜなら、データセンターには土地が必要であり、GPUクラスタを稼働させるためには電力が不可欠だからです。
次に、実際のデータセンターと、AIサービスの学習や推論に必要なGPUクラスタがあります。そして、インフラのもう1つの重要な要素は「データ」です。大規模モデルを訓練するためには、公開されている大量のデータが必要です。言語や世界に関する知識を学習するには膨大なデータが不可欠です。
最後の要素は「エコシステム」です。これは人材、資本、そしてAIスタックの上に構築されるアプリケーション開発者を含みます。インフラを成功裏に構築するには、これらの要素が包括的に連携する必要があります。
これは過去の技術インフラ、例えば電力網、道路、空港など、経済活動の基盤を形成するものと同様です。これらは単一の要素だけでは成り立ちません。道路だけ、電力だけではなく、複数の技術や多様なプレイヤーが協力して初めて機能します。
他国の状況についてですが、いくつか例を挙げます。このテーマの本質は、国家レベルのアプローチが必要である一方で、相互依存の要素も不可欠だということです。
米国の場合、土地と電力はありますが、GPUクラスタを構築するためには、論理・メモリ両方のチップを海外から輸入し、NVIDIAのような企業がGPUクラスタに組み立てる必要があります。また、研究人材や資本流入、アプリケーションエコシステムも米国にはあります。
ヨーロッパも同様の要素を持っていますが、特徴は異なります。電力コストは地域によって差があり、制約を受ける場合もあります。チップの供給は可能ですが、基盤モデルのトレーナーや資本・人材のエコシステムは米国と同等ではなく、改善に注力しています。
日本の場合、成功に必要な要素の多くを備えています。産業基盤は多様な分野で発達しており、AIインフラの物理的構築に参加できます。また、GPUの供給国との強い関係もあり、GPU調達に問題はないでしょう。土地と電力については、政府や国家戦略の観点から、エネルギー消費や供給計画をどう整合させるかが重要です。
日本にはアプリケーション開発の人材もおり、資本力も世界有数です。したがって、日本におけるAIインフラ戦略を国家戦略として設計することが重要です。さらに、インフラにはGPUだけでなく、サーバラックや光ファイバーケーブルなど、システム全体を構成するハードウェア部品も必要です。日本はこの供給網で重要な役割を担っています。
--AIインフラの整備で来年以降、特に日本に期待することは?
クォン:国家戦略レベルでの取り組みが不可欠です。これは過去のインフラプロジェクト同様、官民協力で実現され、医療や教育など生活を支える基盤となります。
日本での協力において重要なのは、未来を見据えた投資です。これはロボティクスなど、物理世界での効率化を目指した日本の過去の取り組みと同じく、デジタルの世界でも必要です。
OpenAIが各国政府と提携し、AIインフラの構築と民主的なAIの導入を支援する新たなプログラム「OpenAI for Countries」は、単なるビジネス拡大ではなく、各国の優先事項に沿った形で技術・パートナーシップ・事業を展開することを目的としています。
AIインフラ投資における金融機関の視点と課題
--AIインフラに対する投資が必要ですが、金融機関の観点から日本にとって、どのようなAIインフラのモデルが現実的でしょうか?
藤木氏(以下、敬称略):土地や資本、データセンターに関して日本の金融機関は、米国を中心に長期的かつ安定的にファイナンスを提供するスキーム、いわゆるプロジェクトファイナンススキームが確立されています。日本のデータセンター向けにプロジェクトコストの7~8割ほどの資金を金融機関として拠出するスキームがあります。
こうしたスキームを活用しつつ、日本のデータセンターやAI、デジタルインフラなどの発展に寄与していきたいと考えていますが、日本は特有の問題があります。日本にデータセンターに適した土地があるかといえば、自然災害などもふまえると難しいです。また、データセンターは大都市に集中しており、いかに地方に分散していくかについても民間だけでは課題もあります。
日本のAIとデジタルインフラの普及には、官民の適切なリスクシェアにもとづいて長期的な資金を提供していくことが重要です。とは言え、建設資材費や人件費などが激しく変動する中で建設コストが従来比1.5倍~2倍に拡大しています。
そのため、多額の資金を賄うためには国内の投資家だけでなく、海外の投資家も誘致するかが鍵を握ります。そのようなことから、日本の金融機関が海外投資家を誘致するための仕組みやリターンを構築する必要があります。
また、デジタルインフラには電力が欠かせないため電力供給も必須です。電力については2050年のネットゼロに向けて、再生可能エネルギーが中心になる中で限られた土地で普及させていくのかという問題もあります。
風力や太陽光など常に一定の発電がない状況においては、蓄電池の併用なども想定されています。こうした点についても海外における知見をもとに、サプライチェーン全体を金融機関としてサポートし、日本のデジタルインフラの発展に寄与できればと考えています。
-- どのような観点で金融機関がAIインフラの構築で役立つのでしょうか?OpenAIの見解を教えてください。
クォン:AIインフラを構築するには、小規模な資本プロジェクトではなく、大規模なものが必要です。そして、さまざまな国において、土地の取得自体も政府と調整しなければならない課題です。
次に、電力計画の策定も複数の当局と協力して進める必要があります。そのうえで、データセンターをどのように建設するのか、どれだけの容量を持たせるのか、どのような需要に対応するのか、そしてその需要がどれほどあるのか--。こうしたすべてを含む経済的な計画を立てる必要があります。
計画は必要な資本と一致しなければなりません。なぜなら、インフラ構築に資金を提供する人々が、満足できる経済的リターンを得られるようにする必要があるからです。さまざまな要素を結集してインフラを構築するためには、非常に綿密な調整が求められますし、われわれは調整を支援することができます。
AIインフラを支える国内製造業の強み
--AIインフラにはハードウェアも重要となります。その点について村田製作所さんはどのようにお考えですか?
須知氏(以下、敬称略):ジェイソンさんが話したように、AIインフラが発展していく条件の1つとして電力が挙げられます。GPUの処理能力が高まる中で電力消費をいかに効率化、低消費電力化していくかということは、あらゆる階層で重要になってくると思います。発電から半導体につなげるところまでを効率的にするために、さまざまな部品が必要になります。
たとえば、GPUを正確に動かすために多くのMLCC(積層セラミックコンデンサ)が必要になることに加え、段階的に高電圧化していくためのデバイス技術などが重要です。また、蓄電池のバックアップも高出力で安全なものが必要となり、さまざまな要素で高性能な部品が求められています。
また、高性能な部品だけでなく、関連する材料や設備をはじめとした産業の裾野が鍵になります。日本は産業が集積していることから、世界でAIがどのように進化していくかについて、大きな貢献はできると考えています。
日本に限定すれば、どのように計算資源を価値に転換できるのかについてタイムラグが出てくると想定しています。そのため、どのようなユースケースが出てくるのかが肝要です。
--今後3年を見据えて、日本がAIインフラを構築するうえで物理的な制約(土地など)に対する村田製作所さんの強みは、どのようなものがありますか?
須知:当社としては、いかに高い効率で電力消費を削減して高いパフォーマンスを出すかが問われています。そのような観点で部品を提供することで貢献できると考えています。
また、日本の産業エコシステムとして先端半導体を開発する流れになっていますが、日本としてAIインフラを構築するための部品やデバイスなどのエコシステムがつながるようにしていくことに貢献できればと感じています。
--インフラ構築において製造業をどの段階で巻き込む必要があるとOpenAIは考えていますか?
クォン:これには2つの要素があると考えています。1つ目は、実際にインフラを構築する段階です。製造業の企業はその一部になります。なぜなら、先述したように必要なのはGPUだけではなく、データセンターを構築するためのさまざまなハードウェアだからです。そうした製品や材料の一部は、日本にある企業から供給されることになるでしょう。
もう1つの要素は新しい視点かもしれませんが、AIのアウトプットが製造業を支援できるという点です。具体的には、最新のモデルの能力を見てみると、産業タスクにおいてAIモデルを新素材、新しいプロセス、設計の研究開発に活用できるようになっています。これにより、開発プロセス全体を加速させることができます。また、新しい方法を発見することも可能です。こうした応用は、製造業や素材産業にも広がります。
つまり、AIのアウトプットがさまざまな企業や産業に対して効率化をもたらし、新製品やブレークスルーの実現を支援できるということです。これが、製造業とAIが結びつくもう1つの側面だと考えています。
日本が世界で信頼されるAIインフラ国家になるための要件
-- 仮に日本が世界で最も信頼されるAIインフラ国家を目指す場合、金融、製造業の立場から外せない要件はどのようなものでしょうか?
藤木:金融機関がデータセンターを含めたデジタルインフラに対してファイナンスを検討する際に、さまざまな側面のリスクを考えます。たとえば、建設のリスクやオペレーターのリスク、キャッシュフローのリスクなどを鑑みます。そのため、政府側からのサポートが今後3~5年は必要になると感じています。
民間の金融機関として永遠にサポートを受けたいわけではありません。特に今後発展が必要なプロジェクトに関しては、まずは政府側からのサポートを手厚くしてもらいたいです。どうしても民間の金融機関や投資家がリスクプロファイルの比重が重くなることもあるため、官民の連携という意味では長い時間軸で比率を変えていくべきです。
リスクの観点で重要なことは事業者のリスクが挙げられます。経済的にプロジェクトを完遂する能力、知識、意志があるかを重要視しています。
須知:一言で言えばパートナーシップが重要になると考えています。AIインフラのエコシステムには、さまざまなプレイヤーが存在します。エコシステムとしてパートナーシップを組みながら、グローバルに戦っていけるように武器を一緒に作れればと思います。
そのためにも目的をどこに置き、共有するのかということが重要です。製造業の立場からすれば、日本のものづくりをAIを活用して強いものに変えていけるのか、ということに強く関心を持っています。
日本のものづくりは、暗黙知や現場の工夫があってのものですが、労働人口の減少や経験者が退職するなどリスクになってきています。しかし、AIの登場により自動化ではなく、協働することで暗黙知を次のレベルに発展できる可能性があります。
これにより、製造力を一段高いものに引き上げることで、日本の競争力の向上、ひいてはグローバルのマーケットに対しても貢献できることを期待しています。
--AIについて最後に一言お願いします。
クォン:AIは現代において私たちが扱うことのできる最も強力な技術の1つだと思います。そして、これはOpenAIだけの話ではなく、誰にでも利用可能なものです。AIは多くの用途に使えます。なぜなら究極的には「知能」であり、さまざまな問題を解決するために活用できるからです。教育などにも使えます。
私がAIをどう捉えているかというと、これは私たちの生活に組み込まれていくツールの1つになるということです。将来、私たちはAIが人間の生活を本当に改善するために役立ったことを理解するでしょう。
もう1つ重要なのは、AI技術を責任ある方法で採用し、適切に普及させることです。技術に伴うさまざまなリスクに対処しながら、その恩恵を最大化し、リスクを最小化することが必要だからです。
藤木:3~5年後、AIにより日本がどのような姿になっているか想像もつかないという不安もある一方で、少子化などの社会課題に対してAIを活用することで輝きを増すのではないかと期待しています。今後、発展していく姿を見たいですね。
須知:AIは人や組織の潜在能力を引き出すためのパートナーと感じています。日々、使う中でそのようなことを実感しているため希望であると思います。一方でAIを考えることは人に向き合うことであり、人間自身がどうあるべきか、どこに向かいたいのか、どのような能力を身につけたいかを考えることが求められます。AIの登場で逆説的に人に向き合っているのではないでしょうか。



