多くの企業がDXを推進するなかで、深刻な課題として立ちはだかるのがデジタル人材不足だ。これに対し三菱電機は、人と人とのつながりや想いを重視したユニークなアプローチでこの問題に挑んでいる。

11月18日~19日に開催されたウェビナー「TECH+セミナー デジタル人材不足の処方箋 2025 Nov. 変革を止めない組織へ」に、同社 DXイノベーションセンター 副センター長 兼 戦略企画部長 竹田昌弘氏が登壇。「人が人を育て、人がつながり、人が価値を創造する」という思想に基づいた、三菱電機の先進的な取り組みを解説した。

日本の製造業が直面する、デジタル競争力の課題

竹田氏は講演冒頭で、国際経営開発研究所(IMD)が発表する「世界デジタル競争力ランキング」に触れ、「日本の製造業は高い技術力を持つ一方で、デジタルの競争力という点では課題を抱えている」と、厳しい現状を指摘した。特に「デジタル/技術スキル」や「企業の俊敏性」「グローバル対応力」といった項目で低い評価が下されており、これは日本全体、そして三菱電機自身の課題でもあると危機感を示した。

この課題を克服すべく、同社は2023年にDXイノベーションセンターを設立。CDO(Chief Digital Officer)とCIO(Chief Information Officer)を兼任する役員がトップに立ち、社内ITとデジタルビジネスを融合させ、全社的なDX戦略をリードする体制を構築した。同センターは、各事業本部と連携しながら、IoTやAI、アジャイル開発などを通じて顧客の課題を解決し、新たな価値創出を支援する役割を担っている。

目指すは「循環型デジタル・エンジニアリング企業」への変革

三菱電機が目指すのは、データの力やデジタル技術を活用した「循環型デジタル・エンジニアリング企業」への変革である。竹田氏はその実現に向けた、次の4つのステップで構成されるプロセスを提示した。

まず、顧客に納めたハードウェアやシステムから得られるデータを集約。そして、それらのデータを分析し、定量化・数値化することで新たな事実や課題を発見する。それを基に同社の製品やサービスを組み合わせてその課題解決を図り、新たな価値として顧客に還元する。

  • DX推進の根幹となっている統合デジタル基盤・Serendie

    DX推進の根幹となっている統合デジタル基盤・Serendie

この変革を加速させるため、同社は3つのマインドセット変革を強力に推進している。それは、ハードウェア中心のプロダクトアウトから顧客の課題解決を目指すマーケットインへの転換、ウォーターフォール型から俊敏なアジャイル開発への移行、そして機器販売モデルから継続的な価値を提供するサービス販売モデルへの変革だ。

この戦略を技術的に支えるのが、統合デジタル基盤「Serendie」である。Serendieは、技術基盤、共創基盤、人材基盤、プロジェクト推進基盤という4つの要素で構成され、同社のDX戦略の根幹を支えている。

中でも、技術基盤としては、従来、業界や顧客ごとにサイロ化されていたクラウドシステムやサービスを統合し、社内のデータやサービス機能を相互に利用できる環境を整備。これにより、新たなソリューションをスピーディーに開発することを目指している。

  • 三菱電機が目指す、循環型デジタル・エンジニアリング

    三菱電機が目指す、循環型デジタル・エンジニアリング

デジタル人材不足への特効薬その1:共創を加速するオフィス「Serendie Street」

続いて竹田氏はデジタル人材不足という本題に入り、2つの“特効薬”を提示した。

1つ目が、共創活動を加速させるオフィス「Serendie Street」だ。2025年1月に横浜に開設されたこの拠点は、開設以来すでに1万人以上が来場するなど、デジタルビジネス推進のハブとして機能している。「Serendie Streetは、お客さまとの共創、社内外のコラボレーション、そして人材育成と採用を一体的に推進する拠点」だと同氏は強調する。

横浜という立地も戦略的だ。デジタル人材の約6割が集中すると言われる首都圏に拠点を構えることで、優秀なDX人材の育成や採用を有利に進める狙いがある。

約1700坪の広大な空間には、イノベーションを誘発するための工夫が随所に見られる。可搬式の大型モニターや什器、壁一面のホワイトボードなどを配置し、集中作業からカジュアルな打ち合わせ、大規模なワークショップまで、多様なワークスタイルに柔軟に対応可能となっている。

特に目を引くのが、顧客との共創を促進するために設けられた共創エリアだ。このエリアは、目的の異なる4つのゾーンで構成されている。

  • Serendie Streetの共創エリア

    Serendie Streetの共創エリア

中でもGARAGEゾーンでは、金属製のフレームやパネルを組み替えて柔軟に展示スペースを変更できる設計になっており、顧客に実際の製品やサービスを体験してもらいながらフィードバックを得る、といったアジャイルな改善サイクルを実践している。

「物理的な空間が、私たちの共創活動を支える特効薬なのです」(竹田氏)

  • GARAGEゾーンでの展示の様子

    GARAGEゾーンでの展示の様子

デジタル人材不足への特効薬その2:人が人を育てる「コミュニティ活動」

2つ目は、コミュニティ活動だ。その中核をなすのが、クラウド技術者のコミュニティ「MAWS-UG(MITSUBISHI ELECTRIC AWS Users Group)」である。同社内約600名のAWSユーザーが中心となり、社外の著名なエンジニアや他社コミュニティと積極的に連携。共同での勉強会やイベント登壇などを通じて、学び合いと成長の機会を創出している。

  • 「MAWS-UG(MITSUBISHI ELECTRIC AWS Users Group)」集合写真

    「MAWS-UG(MITSUBISHI ELECTRIC AWS Users Group)」集合写真

こうした社外との連携は、3つの大きな価値をもたらすと竹田氏は分析する。それは最新情報の獲得、認知度の向上、プレゼンス強化だ。

  • 社外コミュニティとの連携がもたらす3つの大きな価値

    社外コミュニティとの連携がもたらす3つの大きな価値

「イベントでは有名な技術者と直接話せる機会も多く、普段は聞けないような話の中から学びを得ることもあります。このような生きた情報交換が、人材を強くするのです」(竹田氏)

この成功モデルは、アジャイル開発やソフトウェア品質に関するコミュニティにも展開されているという。社内の専門家が中心となり、外部組織や異業種の企業とも連携を加速。戦略的に社外コミュニティとの関係を構築し、知見の共有や開発手法の展開を進めている。

デジタルビジネスの成否を左右するのは、“人”というアナログな要素

三菱電機の挑戦は続く。2026年初旬には、学びの拠点となる「DXイノベーションアカデミー(通称:DIA)」を横浜にオープンする予定だ。事業部門と密に連携した育成プログラムを提供し、多様な学びの文化を醸成する人材交流の拠点を目指す。

講演の最後に、竹田氏は自身の気付きをこう語った。

「デジタルビジネスに携わって気付いたのは、デジタルという名前が付いていながら、その成否は非常にアナログな“人”という要素に左右されるということです。人材不足への特効薬は、結局のところ、同じ場所で一緒に働き、カルチャーや考え方を変革し、組織の壁を越えていくといった、人中心の活動に他なりません」(竹田氏)

デジタル人材不足という困難な課題に対し、“人”の可能性を信じ、そのつながりと成長を促すための"場"と"仕組み"を戦略的に構築する——。こうしたアプローチで三菱電機は、新たな価値を創造し続ける組織へと変革を遂げようとしている。