富士通は12月2日、メディアおよび投資家向けに、同社の研究開発の現状とテクノロジー戦略に関する説明会を開催した。本稿では、CTO(最高技術責任者)のVivek Mahajan(ヴィヴェック・マハジャン)氏が語ったAI戦略と、それを支える半導体、量子コンピュータ、ネットワークの開発ロードマップをレポートする。
3つの強みでソブリンなAIをエンタープライズに提供
CTOのMahajan氏は初めに、「エンタープライズ向けにソブリンAIプラットフォーム、そしてソブリンインフラストラクチャを提供する」と、技術戦略の方針を語った。ソブリン(Sovereign)は「君主」や「主権」などを意味する言葉で、AIやその基盤を国内で主導的に運用する概念を指す。
具体的には、「セキュリティ」「フレキシビリティ」「ドメインスペシフィック」の3つの領域でソブリン性の特徴を生かすという。特にセキュリティは、企業が持つデータやAIモデル、AIエージェント間の通信を企業内や国内で完結できる仕組みを提供する。
ソブリンなAIの実現に向けて、同社はインフラのレイヤーからAI・セキュリティのレイヤーまで、多様な技術群の開発を手掛ける。AI-RANやAPN(All-Photonics Network)といったネットワークをはじめ、次世代プロセッサ「FUJITSU-MONAKA」や量子などのコンピューティング技術、LLM「Takane」やAIプラットフォーム「Fujitsu Kozuchi」などのAI技術を一貫して手掛けることで、エンタープライズのニーズに沿ったソリューションを提供する戦略だ。
ターゲットとなるのは、防衛、行政、ヘルスケア、金融、製造など、高いセキュリティを要求する業種。これらの業種では、個別のニーズやユースケースに合わせてモデルを提供する生成AI技術と、組織内のデータを構造化して活用するナレッジグラフ技術に対する要望が高まっているという。
続いて、Mahajan氏は2030年までのAI開発のロードマップを示した。このロードマップによると、AIプラットフォーム、セキュリティ、フィジカルAIの各領域で、毎年のように新たな技術を開発しリリースするとのことだ。
狙うは「 AIの世界で一番強いCPU」
同社のAI戦略を支える要となるのが、2027年にリリースが予定されている国産次世代プロセッサ「FUJITSU-MONAKA」。スパコン「富岳」向けに設計されたA64FXの技術を継承しながら、より汎用的なサーバでも利用可能なプロセッサとして開発されている。今後の同社のCPUラインの基盤となるという。
2027年のリリース時点では2ナノメートルの回路線幅となる「FUJITSU-MONAKA」だが、2029年には1.4ナノメートルの「FUJITSU-MONAKA-X」、さらに2031年にはNPUと融合した「FUJITSU-MONAKA-XX」まで実現する予定だ。
Mahajan氏は「FUJITSU-MONAKAはAIの世界で一番強いCPUの位置を狙っている。この(世界一の)CPUとNPUを組み合わせて、全体のAIプラットフォームを構築することを考えている」と語り、意気込みを見せた。
2030年に250論理ビットの量子コンピュータを実現
量子コンピューティングの領域においても、やはり同社が狙うのはメイド・イン・ジャパンでの実現と、グローバルトッププレイヤーとしての地位だ。制御装置や冷却器を含めて国内で提供できる体制を目指すという。
同社は2024年8月にSTARアーキテクチャを用いて実用アルゴリズムを高速実行する方法を確立し、さらに2025年3月には256量子ビットの超伝導量子コンピュータを実現した。
今後の開発ロードマップによると、2026年に1024量子ビットの量子コンピュータ、2030年に1万量子ビット(250論理ビット)を実現する計画だ。さらに2035年には、1000論理ビットの量子コンピュータの実現を目標としている。
「皆さんに想像していただきたいのは、HPCと量子の世界。HPCと量子を合わせるといろいろな演算ができる可能性が広がる。グローバルでHPCと量子をどちらも手掛けている企業は当社だけだろう」と、Mahajan氏は胸を張った。
AI-RANでエッジでのAI活用を促進
AI開発を支えるネットワークでは、「Photonic System」「Mobile System」「Network Orchestration」「Data Centric Infrastructure」の4領域で、それぞれ開発を進める。
特にPhotonic System(光通信)においては、1.6テラビット / 秒のプラガブルモジュール、2028年までをめどに3.2テラビット / 秒のプラガブルモジュールをそれぞれリリース予定。
Mobile System(無線)では、ソフトバンクとAI-RANの2026年以降の実用化に向けたパートナーシップを強化している。AI-RANはAIとRANを統合するアーキテクチャで、RANの高度化による通信体感品質の向上を目指す。
Mahajan氏は「ネットワークの高度化により、エッジでもAIを実現できるようになる。富士通はソフトウェア、ネットワーク、コンピューティングの3つの柱を作っていきたい」と語った。
さらに同氏はプレゼンの最後に、「ここ数年でAIが流行しているが、当社のAI戦略は5年前から変わっていない。AIを中心に、ネットワーク、セキュリティ、コンピューティング、コンバージングテクノロジー(異なる分野の学問を組み合わせた研究開発)で、確実に技術を実現していく」と述べ、プレゼンテーションを結んだ。







