オリンパスは2024年4月、東京・八王子にグローバル本社を新設した。これは従来、新宿にあった本社と八王子にあった技術開発センターを一か所に集約したもので、新しい本社では「三位一体の働き方改革」によって新しい働き方を推進している。
11月5日に開催された「TECH+セミナー ワークプレイス改革 2025 Nov. つながりを生む、ワークプレイスの最適解」に、同社 人事 働き方改革推進 シニアディレクターである中村隆志氏が登壇。働き方、オフィス、制度はどう変わったのか、新たな本社における働き方改革の取り組みについて説明した。
サイロ化構造からの脱却を目指し、本社とR&Dを八王子に集約
オリンパスは2020年、“アフターコロナ”を見据えて「AWC(After/WithCovid-19)プロジェクト」を立ち上げた。在宅勤務を基本とする新しい働き方、5割以下の出社率を目安とした新しいオフィス政策、在宅勤務を前提としたITインフラの整備、そしてエンゲージメントの向上という4つを柱とする働き方改革を推進するためだ。
この背景には同社の特殊な事情もあった。新宿の本社と八王子技術開発センターは、同じ東京にありながら機能が違うためカルチャーも異なっていて、あたかも別の会社のようだったと中村氏は言う。とくに八王子では、部署ごとに設けた実験室はクローズ化され、実験中は居室に人がいなくなることも多いなど、働き方に課題があると感じていたそうだ。そこで本社を八王子に移転して機能を集約することで一体感を生み、働き方改革とあわせて生産性の向上を目指すことにした。
「グローバルの約3万4000人の従業員(外部委託従業員を含む)のうち、約8700人が八王子と新宿にいます。この東京地区全員の結束が、会社全体にとって重要だと考えました」(中村氏)
事前の経営層へのインタビューでは、サイロ化構造が深く根付いていることが課題として挙げられた。人や金、情報、スペースなどを部単位で抱え込むクローズドな状況になっていたのだ。そこで働き方改革プロジェクトの第一のコンセプトは「Open!」にすることと決めた。プロジェクトの名称もOlympus Open Officeを表す「O3(オーキューブ)プロジェクト」と改称し、エンゲージメントの向上や脱サイロ、組織や個人の生産性と創造性の向上などを掲げたプロジェクト憲章も作成した。
ABWと自律性を基本とする「三位一体」の新しい働き方
オリンパスではこの改革を「三位一体の働き方改革」としている。これは、新しい働き方の推進、最適なオフィス環境の構築、そして新しい仕組みの整備という3つの要素がどれも欠かせないものであり、それらが一体となって初めて有機的に機能するという考えを示すものだ。その中でも「新しい働き方の推進がもっとも重要」だと中村氏は話す。見栄えのするオフィス環境を整備するのは難しくないが、その前にそこでどんな働き方をするかを考え、それに基づいてオフィスを構築しなければ意味がないためだ。
新しい八王子のグローバル本社において、働き方の根幹となるのは業務目的やその内容に応じて働く時間や場所を選べるABW(Activity Based Working)である。経営陣からの指示は、「対面コミュニケーションを通じた新たな視点と多様な意見の共有、相互理解の強化に向けて、週1回以上を推奨する」ということだけであり、最適な働き方は自分たちで考える必要があった。そこで企画されたのが、チームごとに自律的な働き方を考えるABWワークショップだ。会社から指示されるのではなく自分たちで考えるべきことだと強調したうえで、ワークショップで働き方を検討してもらい、社員は最終的に交わした合意書に基づいて働いている。現時点の出社率は、本社機能と開発機能を平均して約3割、社外に借り受けたシェアオフィスは従業員の1割が利用し、平均利用時間は月10時間となっている。
新しい働き方を促進するための活動は、ABWの促進、社員と改革推進プロジェクトとの双方向のコミュニケーション、そして交流を促すコラボレーションという3つの軸で行っている。実際に働き方が変わっているかどうかの意識調査も年2回実施しており、サイロ化の打破についてだけは従来から肯定回答率が横ばいであるものの、健康度やエンゲージメントの向上については上昇しており、全体としては徐々に改善傾向となっているという。
自由でオープンなオフィスを構築
オフィスについては、いつでも変更できる“フレキシビリティ”、可能なものは共有化する“シェア”、そして“コミュニケーション”の3つをキーワードとし、隣で何をやっているかが分かるオープンなラボを導入して脱サイロ化を図った。具体的には、建物内を周回するように誰でも通ることができる楕円形の通路を配置したり、会議や執務、イベントもできるオープンな共有スペースをつくったりした。
「Smart Office Navigator」と呼ばれるシステムを導入した。PCのWi-Fiアクセスポイントの情報から誰がどこにいるのかを把握できるシステムだ。このデータを分析することで、フロアごと、エリアごとの交流状況を可視化できる。とくに開発業務においては、さまざまな部署が集まって同時並行に開発を進めることが重要になるため、それができているかどうか、つまり組織多様性が実現できているかをモニタリングすることで、サイロ化の打破とイノベーションが起こりやすい環境構築を促すのが狙いだ。
ABWや組織の生産性向上を支える仕組みとして新設したのがコンシェルジュ機能だ。共有される設備や備品などのリソースをコンシェルジュが一元管理し、庶務業務や付帯業務を全て引き受けることで、各部が本業に集中できる環境を整えた。特徴的なのは、コールセンター業務でもABWを実践していることだ。新型コロナウィルス感染症の流行時にリモートワークを併用するチャレンジをした結果、可能であることが分かったためだという。
制度やルールも大幅に改定
新しい働き方を推進するために、人事制度や就業規則も改定した。ABWで働く場所を自由に選べるようテレワーク勤務制度を拡充しただけでなく、働く時間についてもコアタイムの無いフレックス勤務制度へ拡充。テレワークについては職種や日数に制限を設けず在宅勤務を可能とし、社内サテライトオフィスや社外のシェアオフィスでの勤務も可能とした。2024年にはモバイル勤務の適用可能な事由や期間を拡大するなど、ワークライフバランスを考慮した制度となった。
秘密情報管理区分の設定についても、ルールを正しく運用できるように取り組んだ。とくに開発業務には秘密情報がつきものだが、従来は安全側に寄せ過ぎていて社内での情報共有もできなかったため、共有しても問題のない情報を明確にした。
「それまでは“何でもかんでも秘密”でしたが、社外秘であっても社内ではオープンにできる情報もあります。それはできる限り共有していけるルールであることを改めて社内に周知しました」(中村氏)
試行錯誤の中で見えてきた課題
こうした改革プロジェクトを進めることで、見えてきた課題もある。その1つが格差の拡大だ。自律的に働ける社員や組織も増えている一方で、それがなかなかうまくできない社員や組織もあることが分かった。また働き方が多様化する中で、改革プロジェクトがそのような社員や組織をどうサポートしていくかも課題だ。例えば深夜や早朝に海外とのリモート会議が頻繁にあるような社員にとっては、オフィスに出社することが本当に効率的であるのかどうかを見極める必要がある。さらに、ワークプレイスの整備に巨額の投資を行ったが、その効果に対する説明責任を果たす必要もある。
この5年間、試行錯誤の連続だったという中村氏だが、見学に行ったある企業の総務部長の「一歩先を行くのではなく、半歩先を行くくらいならみんながついてこられる」という言葉を常に胸に留めているそうだ。
「働き方改革、オフィス改革は2歩、3歩先を行きたくなるものです。しかしこれは行動変容ともいえる、会社や従業員全体で成し遂げるべき大きなことです。みんながついてこられるようにすることを念頭に、今後も進めていきたいと考えています」(中村氏)

