11月26日から29日にかけて、幕張メッセで「鉄道技術展2025」が開催されている。2010年から2年に1度開かれている同展示会は、車両・構造、運行管理、旅客設備、軌道、土木など、鉄道分野の幅広い技術が一堂に会する国内唯一の総合展示会だ。

本稿では、日本製鉄の出展内容を紹介する。同社は、車輪・車軸・台車・駆動装置・連結器といった鉄道車両の“足回り"を支える製品をメジャーシェアで供給しており、今回の展示では4つの主要展示を重点的に紹介していた。また、グループ会社である日鉄レールウェイテクノスの取り組みも合わせて紹介する。

  • 日本製鉄のブース(鉄道技術展2025)

    日本製鉄のブース(鉄道技術展2025)

メンテナンス省力化を実現する「新型緩衝器」

最初に紹介するのは、今回の展示の目玉となっていた鉄道車両連結器用の「新型緩衝器」だ。ドイツメーカーのライセンス製品で、世界各国で6割以上という高いシェアを持つ方式をベースに、日本国内での実装を見据えて開発したものだ。

近年、労働力人口の減少により、鉄道メンテナンスの現場では省力化のニーズが高まっている。従来の緩衝器は、内部に使用されるゴムが摩耗した際、大型設備を使った交換作業が必要になるなど、保守の負荷が大きかった。

同社の新型緩衝器では、この課題を解決するためにゴム部品を着脱式に改善。従来は圧縮・接着されたゴムを専用設備で取り外す必要があったが、新型では手作業で取り外し可能な構造となり、一般的な10両編成の車両であれば、全交換作業時間を約5時間短縮できるという。交換に大掛かりな機器は不要で、汎用的なクレーンがあれば作業できる点は現場にとって大きなメリットとなる。

さらに、従来型ではゴムと鉄板が接着されている設計だったため、交換時にゴムと金属双方が産業廃棄物として排出される課題があった。新型では接着を廃し、部品を分離できる構造としたことで、ゴムおよび金属部分の再利用が容易になり、廃棄物削減にも寄与する。

加えて、緩衝器の先に接続される連結器には、十字継手型密着連結器や球面継手型密着連結器など複数の種類があり、それぞれに異なる動きが求められていた。しかし、新型緩衝器では緩衝装置側でその動きを吸収できる構造となっており、連結器の違いを問わず扱える高い汎用性を備えている。

  • 新型緩衝器 メンテナンスの省力化に加え、環境にも配慮されている

    新型緩衝器 メンテナンスの省力化に加え、環境にも配慮されている

曲線通過性能を高めた「操舵台車」

続いて紹介するのは、急曲線の多い地下鉄など、曲線区間での走行安定性を改善するための「操舵台車」だ。車軸の向きをレールのカーブに合わせて調整する操舵機構を備えており、急曲線でも滑らかに走行できるほか、走行抵抗が小さくなることで消費電力を削減している。

「操舵台車」は騒音を抑える効果も大きい。従来は車内で会話が困難なほど騒音が大きかった路線でも、同製品の導入後は、会話が問題なくできるレベルまで音が抑えられ、乗り心地の面でも改善が確認されている。

地下鉄では東京の銀座線・丸の内線・大江戸線のほか、仙台市の東西線や福岡市の七隈線で採用されている。日本製鉄のオリジナル製品であり、現在この操舵台車を製造しているは同社のみである。

  • 日本製鉄のオリジナル製品である、操舵台車の模型

    日本製鉄のオリジナル製品である、操舵台車の模型

車軸の耐久性を高める「ヤマバ歯車装置」

鉄道車両のモーターから車軸へと動力を伝える“歯車装置"の技術として紹介されていたのが「ヤマバ歯車装置」だ。

この装置の最大の特徴は、歯形に“山型(ヤマバ)"形状を採用している点にある。従来型の歯車では噛み合い時に片側へ力が偏りやすく、軸受に大きな負荷がかっていた。これをヤマバ形状に変更することで、噛み合い時の負荷を分散でき、長寿命化・信頼性・安全性の向上を実現化した。

もともと在来線向けとして広く採用されてきた技術だが、2020年に初めて高速鉄道への搭載が実現。新幹線向けとして本格的に量産されることになり、同社の関西製鉄所 大阪地区(大阪)には専用の加工設備も導入された。この5年間で、日本に約5,000両ある新幹線車両のうち、すでに約1,000両に搭載されているという。

  • ヤマバ歯車装置の模型 山型の歯形が特徴

    ヤマバ歯車装置の模型 山型の歯形が特徴

高耐久・軽量化を両立する「新B形車輪」

最後に紹介するのは、日本製鉄が新たに開発した車輪の最新モデル「新B形車輪」だ。

モーター車用の車輪は、従来品は強度確保のために分厚い設計となり、1枚あたり320キロほどと重かった。新B形車輪では、新たに設計された構造により、約300キロまでの軽量化が実現。1両の車両には8枚の車輪が使用されるため、1両あたりおよそ160キロの軽量化につながる。

この車輪は鉄道車両分野で用いられる技術規格「JRIS」に準拠し、最新規格に沿って設計されている。こうしたシンプルな形状で高い強度と軽量化を両立できた背景には、日本製鉄の圧延技術の進化がある。

同社では2016年から圧延機のリプレースを進めており、今年に入り最大設備である縦型圧延機を最新鋭のものへ切り替えたことで、より高精度な車輪圧延と量産が可能となった。新B形車輪は現在試験段階にあり、今後全国の鉄道事業者へ本格的に提案する予定だ。

  • 新B型車輪(左)と、従来のB型波打車輪(右)

    新B型車輪(左)と、従来のB型波打車輪(右)

日鉄レールウェイテクノス - 検修ラインの省力化と摩耗対策

日本製鉄グループの日鉄レールウェイテクノスは、全国のJR工場に設置され、日本製鉄が製造した部品を検修ラインでチェックする役割を担っている。同社はこの検修設備の次世代化として、これまで手作業で行われていた清磨作業をロボットで自動化し、AI画像処理による自動判定で合否基準の均一化と品質の安定化を進めている。

もう一つの事業として、車輪とレールの摩耗対策となる摩擦調整材の提供を行っている。レール側には、摩擦係数を理想的な0.3〜0.4に調整する調整材を適用し、波状摩耗やキシリ音(列車がカーブ通過時に発生する高周波摩擦音)の発生を抑制する。試験では、摩耗の成長率を約7割抑制できることが確認されている。

  • 摩擦調整材(KELTRACK@)

    摩擦調整材(KELTRACK@)

一方、車輪側には固体摩擦調整材を使用し、フランジ摩耗を抑えることでメンテナンス周期の延伸に寄与する。過去にJR車両で使用した際は、フランジ摩耗を3割程度低減できたとのことだ。いずれも鉄道現場の保守負荷軽減につながる技術として紹介されていた。

  • 固体摩擦調整材(LCF)

    固体摩擦調整材(LCF)

日本製鉄は、材料メーカーとして蓄積してきた設計技術・製造技術を基盤に、新製品開発を通じて高品質な製品・ソリューションの提供を目指している。今回の展示では、信頼性・安全性の向上や、労働力不足が進む鉄道現場においてのメンテナンス寿命の延伸に加え、環境配慮を重視した取り組みを進めていく姿勢が示されていた。