ネットワークを主戦場としてきたシスコシステムズ(Cisco Systems)がセキュリティへのフォーカスを打ち出して数年、同社の製品戦略はセキュリティ抜きに語れなくなった。それは、AIが注目を集めている今も同じだ。11月初めに発表したエッジ向けの新製品「Unified Edge」は、エッジで行う推論のための機能に加えてセキュリティも重要な特徴に掲げている。
同社が11月9日から13日まで、オーストラリア・メルボルンで開催した「Cisco Live 2025 Melbourne」において、アジア太平洋、日本、中国地域でネットワーキングとソリューションエンジニアリングのバイスプレジデントを務めるRaymond Janse van Rensburg氏に最新のトレンドを中心に話を聞いた。
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米Cisco Systems アジア太平洋・日本・グレーターチャイナ(APJC)担当ネットワーキング・ソリューションエンジニアリング担当バイスプレジデント Raymond Janse van Rensburg氏
AIがネットワークにもたらす変化とは
--APAC地域におけるネットワーキング分野のトレンドについて教えてください--
Rensburg氏: 大きくは3つあります。1つ目はセキュリティです。リスクや悪意のある攻撃者への対策として、自社の環境をいかに保護するかを考える顧客が増えています。ネットワークからセキュリティへのアプローチとして、アイデンティティ管理、共通ポリシー、セグメンテーション、そしてインフラ全体の可視性などの技術が話題に挙がります。
2つ目はモダナイゼーションで、Wi-Fi 6からWi-Fi 7への移行、SD-WAN、SASEでエッジのセキュリティをどう組み込むかなどがトピックとなります。
3つ目は製造業です。日本の自動車製造の現場ではロボット技術の導入が進んでいますが、オーストラリアの鉱業では自動運転トラック、インドのある塗装工場ではAGV(無人搬送車)による完全自動化が実現しています。プロセス製造や組立製造などさまざまな製造現場で最新技術の導入が進んでおり、エッジAIの活用機会が広がっています。品質管理のためのコンピュータビジョン、予知保全、物流、製造後のライフサイクル管理などのニーズが生まれています。
--AIの利用が広がっていますが、これはネットワークインフラにどのような変化をもたらしていますか--
Rensburg氏: 先ほど挙げたトレンドの一つであるモダナイゼーションの一環として、将来をサポートするインフラの導入が始まっています。チャットボットとエージェントではネットワークへの負荷が異なります。Ciscoはこれをサポートする拡張性のあるネットワーク機器を展開しています。
現在、AIではトレーニングに多くの重点が置かれていますが、推論とエッジのユースケースが増えてきています。そこで今年11月、「Cisco Unified Edge」を発表しました。これは分散型のAIワークロード向けの統合コンピューティングプラットフォームで、ショップのフロアなどデータが生成されるエッジでリアルタイムのAI処理を実現します。ポリシーベースの保護や多層セキュリティ、SplunkとThousandEyesのオブザバビリティなども備えます。
エッジでの推論ユースケースが増加するにつれて、AIアプリケーション、AIエージェント、エッジに配置されたAIの持続的需要が高まっていくでしょう。
--エッジ推論へのニーズはすでにあるのでしょうか?--
Rensburg氏: 潜在性の大きな市場です。多くの顧客が現在、AIのユースケースを定義し、トレーニングを検討していますが、より小さなモデルと推論を推進する段階に移り、エッジへの展開が進むでしょう。
この動きを推進する要因はいくつかあります。1つは、データとデータのプライバシーに関するもので、パブリッククラウドに置きたくないという事情です。
また、製造のユースケースを考えると、エッジで生成されたデータをパブリッククラウドに送り、決定を下すために(エッジに)戻すことは望ましくありません。遅延を抑え、生産工程で問題が発生した場合に迅速な応答を得るには、ローカルでデータを処理することは当然の流れです。
シスコが進めるネットワークとセキュリティの統合
--Ciscoは現在、ネットワークにセキュリティを統合するという戦略を進めています。一方で、顧客の多くはすでに大規模なセキュリティ投資を行っています--
Rensburg氏: 家を守るという例えを使うと、まず柵を立てますがそれだけでは不十分です。そこで電気柵を追加し、さらに窓には鉄格子をつけて、警報システムを設置し、武装警備も手配します。
セキュリティ投資として柵と電気柵に投資している顧客がほとんどですが、残りはどうでしょうか。ここがCiscoが差別化を推進している部分です。
まず、デバイス自体を保護する必要があります。ルータ、スイッチ、ワイヤレスアクセスポイントが侵害されていないことを確認し、その上で、アイデンティティ検証、ポリシーとセグメンテーションによるアクセス制御を行います。当社は、セキュアなサプライチェーンに焦点を当てています。さらに、デバイス起動時にはセキュアブートプロセスがあり、新しいポートフォリオでは量子セキュアブートを実装しています。つまり、量子コンピュータ時代のセキュリティに備えることができます。
さらに、サイト間のデータ送信をIPSec、MACsec、WAN MACsecで保護し、ポスト量子暗号のサポートも組み込みます。
セキュリティはポイント製品ではなく、デバイス、トランスポート、ユーザー層にわたる連続体です。境界セキュリティデバイスを購入して「完了」とは言えません。ネットワークのすべての層を見る必要があります。
--製品側ではネットワークへのセキュリティの統合が進んでいますが、組織ではネットワークの運用担当とセキュリティ運用担当の連携は進んでいるのでしょうか?--
Rensburg氏: 組織によりレベルは異なりますが、Ciscoはそれを支援するために「Security Cloud Control 」を提供しています。セキュリティオペレーターがポリシーを定義し、ファイアウォール、データセンター、セキュアルータなど、さまざまなセキュリティデバイスに展開できます。ネットワークオペレーターはネットワーク要素にフォーカスし、セキュリティポリシーはSecurity Cloud Controlで展開することができます。
Security Cloud Controlはサードパーティのデバイスとも統合できるため、既存のセキュリティ投資がある場合でも、すべてのセキュリティデバイス全体に一貫したポリシーを展開できます。
Wi-Fi 7製品の最新動向は?
--Wi-Fi 7アクセスポイントを1年前に発表しました。その後の経過について教えてください--
Rensburg氏: 2024年、4-ストリーム 4×4 MIMOに対応するハイエンドの「Cisco Wireless 9176」と同9178をリリースしました。その後、米国でイーサネットポートを搭載し、ホテルなどに適した同9172とスタジアム向けの同9179を発表しました。
先に、ローエンドの同9171(2x2、商業セグメントと小規模環境向け)と、外部アンテナバージョンを含む同9174を加え、ポートフォリオをほぼ完成させました。
この製品は、Cisco CatalystとCisco Merakiで分かれていたライセンスとサポートの統一という点でも重要です。
Wi-Fi 7はさまざまなユースケースがあります。例えば、AR/VRのような帯域幅集約型アプリケーションにも対応しますし、家庭でのゲームだけでなくメディアを使用する環境にも適用されます。また、レイテンシの改善にも貢献します。
アジアでは、シンガポールの複合スポーツ施設Singapore Sports Hubが我々のWi-Fi 7アクセスポイント導入を発表しています。中心のスタジアムは5万5000人を収容するという巨大な施設ですが、Taylor Swiftのコンサートにはスタジアム外にも、万に達する人が集まったと言われており、堅牢なWi-Fiを求めていました。APACでは、ニュージーランドのオタゴ大学も早期の事例となっています。
日本市場でもWi-Fi 7の採用は良好です。
--MerakiとCatalyst Centerの統合について教えてください--
Rensburg氏: クラウド管理であるMerakiと、オンプレミスのCatalyst Centerの統合を進めています。だが、オンプレミスのニーズは規制業界など一部の分野で続くため、Catalyst Centerは今後も維持します。
ネットワーキング分野における3つの柱
--今後、ネットワーキング分野でどのような強化が期待できますか--
Rensburg氏: 3つの主要なテーマがあります。
1つ目は運用の簡素化。オンプレミスとクラウドの間のプラットフォーム統合を継続し、AI支援ネットワーク運用「AI Canvas」とAI エージェントの使用を通じて全体レベルでの自動化を推進します。
2つ目はセキュリティです。ネットワークへのセキュリティ統合を継続し、ポスト量子暗号(PQC)対応の実現を含め、顧客が必要とするものを提供します。PQCは、まずは金融サービスや政府部門などの規制市場で重要視されると予想しています。量子の時代に向け、「今収集して後で暗号化する」攻撃からの保護と準備、この両方が重要です。
3つ目はハードウェアの拡充。Wi-Fi 7アクセスポイントはほぼポートフォリオが完成しましたが、セキュアルータは今後も強化します。クラウド管理とオンプレミス管理の両方、そして産業用でポートフォリオを継続して拡大します。AI時代に提供するための最適化されたハードウェアへの継続的な投資が大きな焦点になります。
