日本IBMは11月19日、都内でメディア向けにIT戦略施策の策定アプローチ「Hybrid by Design(ハイブリッド・バイ・デザイン)」に関する説明会を行った。
ハイブリッド・バイ・デザインの背景と5つの基本方針
冒頭、日本IBM 技術理事 コンサルティング事業本部 ハイブリッドクラウド&データの前田幸一郎氏は、ハイブリッド・バイ・デザインが求められる背景について以下のように説明した。
「ハイブリッド・バイ・デザインとは、限られた予算と人材を、ビジネス目標に沿って最適に配分する計画を立案することだ。投資だけでなく、ビジネス価値を実現するための施策に対して優先度を付けて、アーキテクチャや組織の次世代像を描き、そこに至るための経済合理性のある施策選定と実行計画の策定を行うアプローチだ」(前田氏)
こうした概念を持つハイブリッド・バイ・デザインだが、その対比にあるものが「Hybrid by Default(ハイブリッド・バイ・デフォルト)」となる。長期的な視点がなく個別最適化によるサイロ化に加え、不十分な要件検討で効果の低い技術活用となり、成果に向けた包括的な計画ができないことから、ビジネス効果が得られないものと位置付けている。
日本IBM プリンシパル・アーキテクト コンサルティング事業本部 ハイブリッドクラウド&データの松本龍幸氏は「ハイブリッド・バイ・デザインが意図的かつ目的を持つものであり、ビジネス目標を実現するサービスを開発・運用するための全社最適化された基盤を目的を持って構築する。それに対して、ハイブリッド・バイ・デフォルトはそのままの状態で意図を持たず、場当たり的な対応となる」と話す。
ハイブリッド・バイ・デザインでは、以下の5つの基本方針を据えている。
1. プロダクト中心の考え方を推進していくことでビジネスの優先事項を実現する
2. ビジネス能力の加速と拡大のために意図を持ったアーキテクチャを構築
3. 適材適所で複数のプラットフォームを利用しつつ、プラットフォームを意識しない開発・運用DXの提供
4. プロダクトチームがハイブリッドクラウドや生成AIを活用できるように強化
5. すべてのデータを活用して生成AIの適用を広げていく
IBMが提案する2つのフレームワークと4ステップ
IBMでは、ハイブリッド・バイ・デザインの基本方針に沿って、次世代像やロードマップ策定のための2つのフレームワークとして「ケイパビリティフレームワーク」と「バリューツリーフレームワーク」の2つを用意している。
ケイパビリティフレームワークは、プロダクトとインテグレーション、テクノロジーの3分野を12のドメインで定義。各ドメインの成熟度を(1)試行的利用、(2)戦術的利用、(3)ビジネスに沿った活用、(4)一貫した適用、(5)広く定着、の5段階で評価(1~2はハイブリッド・バイ・デフォルト、3~5はハイブリッド・バイ・デザインの状態)し、ビジネス成果実現のための目標を設定する。
バリューツリーフレームワークは、売り上げやコストといった財務的価値、リスク、環境、市場心理、企業能力をはじめとした戦略的価値をどこのタイミングで高めるかなど、ビジネス目標の明確化に加え、ROI(Return on Investment:投資利益率)の算定により優先度を付けてマッピングする。
これら2つのフレームワークを用いて、次世代像やロードマップの策定を4つのステップで進めていく。
ステップ1ではケイパビリティフレームワークにのっとり、ビジネス目標の理解として各ドメインの成熟度判定ガイドをもとに組織の現状のケイパビリティを5段階で評価し、実現に必要となるドメインを検討するとともに各ドメインの目標と達成時期を設定する。
ステップ2では、目標に対するギャップを埋めるためにイニシアチブを識別。ソリューションのリストを参考に現状と目標のギャップを埋めるための取り組みを検討し、リファレンスアーキテクチャで目標とするアーキテクチャの実装製品・サービスの検討を進める。
ステップ3については、バリューツリーフレームワークをベースに各取り組みが、どのようなビジネス価値を向上させるのか対応付けし、迅速にROIの算定を行い、実現性などのリスクを加味して優先度付けを実施。ここでは、バリューツリーフレームワークに取り組みのマッピングとROIを主体とした優先度を検討する。
最後のステップ4に関しては、ステップ1~ステップ3の結果をまとめてロードマップとして作成する。IBMは顧客の目標や課題を踏まえ、依存関係や相乗効果を考慮した最適なロードマップ策定を支援する。
ハイブリッド・バイ・デザインの導入事例
ここで松本氏は事例を紹介した。A社ではサイロ化したシステムとデータを抱え、技術負債の蓄積、定期的なサポート切れ対応やITが活用できてないと感じているという課題があった。まず、A社はハイブリッド・バイ・デザインにおける5つの基本方針に沿って取り組みの内容をマッピングした。
そのうえで、次世代像としてシステム間データ連携の促進に加え、データとアプリを独立並行してモダナイズできるプラットフォームの整備、また全社データを利用した新たなビジネス価値の創造を目標に掲げ、段階的なマイルストーンを策定。
最初のステップとして価値や実現性検証のための「PoC(概念実証) 1」を行い、基幹サービスのUXと開発迅速性向上のためのフロント・デジタルサービスの構築を検証。
次いで「PoC 2」では事業部横断のデータを収集・公開するデータサービスの検証を実施し、性能など実現するうえでの懸念点やユーザーによる価値評価を検証した。PoC 1で価値評価と実現性をクリアしたUXと開発迅速性向上のためのサービスを、第1弾リリースとして本番環境に移行すると同時に、開発者教育の実施や利用促進のための社内アナウンスなど体制整備、マインドセット向上施策を行った。
さらに、第2弾リリースではPoCでクリアしたデータサービスを本番リリースし、現在でもPoC 1と同様ぶ教育、体制整備、マインドセット向上施策を継続している。
現時点におけるA社は、第2弾リリースのデータサービスをより活用するために、リリース後も機能拡張を行いつつ、ユーザー主体でデータ分析・活用するためのプラットフォーム構築とデータ提供先の拡張を進めている。
ただ、データサービスの迅速性の向上により、基幹サービス本体のモダナイゼーションは未実施の状態であり、実施にはコストに見合うビジネス価値が期待できる目的が必要とのことだ。
松本氏は「ハイブリッド・バイ・デザインのアプローチで段階的なアーキテクチャの実装が進捗した。ビジネスの継続的な向上や目標に沿いながら、今後のロードマップを適時更新していく」と述べていた。
そして、最後に前田氏は「個別最適にならないよう、全体最適を意図して中長期のゴールを目指し、反復可能で再現性のある体系化されたアプローチでロードマップを描くことがハイブリッド・バイ・デザインの大きな特徴。また、昨今はモダナイゼーションや生成AIの活用などのIT施策についてROIや実現性を鑑みて価値を生み出す実行計画として具体化することは、経営に資するという意味で整合性の取れた手法だと考えている。ただ、ロードマップは中期計画の更新などに合わせて、事業環境をふまえて継続的に見直し、更新していくことが重要だ」と力を込めていた。










