NTTは11月19日~21日および25日~26日の5日間、最新の研究開発の成果を披露する「NTT R&Dフォーラム2025」をNTT武蔵野研究開発センタ(東京都 武蔵野市)で開催する。イベントの開催に先駆けて、11月18日に代表取締役社長CEOの島田明氏が基調講演のステージに登場した。
同氏の講演では、IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)光コンピューティングと光量子コンピュータを中心に、光技術の開発状況が紹介された。
IOWNをAI時代を支える低消費電力なインフラに
AIの高性能化を背景に、その利活用は急速に進んでいる。ChatGPTはわずか5日で100万ユーザーを獲得したとされ、2カ月目には1億ユーザーに達している。総務省の予測によると、世界のAI市場規模は2030年に1.8兆米ドル(約270兆円)まで成長する見込みだ。
AIの利用拡大に伴いAIの開発や運用に用いられるコンピュータの規模も拡大しており、Epoch AIの試算では、年に1.8倍の勢いで成長している。OpenAIが2020年に発表したGPT-3ではGPUを約1万枚、2022年のGPT-4では約2.5万枚を搭載し、直近ではxAIが20万枚のGPUを搭載したAI用コンピュータを構築したと推定されている。
しかし、多数のGPUを用いるAI処理では、チップ間で頻繁にデータ通信が発生する。最新の機種(GB200)では、GPU間の通信は映画のブルーレイディスク72枚分のデータを1秒で転送できる速度(14.4テラビット / 秒)に達するという。
このような大容量通信では、従来の電気を用いる通信の場合は、伝送距離に伴って消費電力も飛躍的に増加する課題が生じる。現代の大容量化した通信では特にその影響が大きく、コンピュータ内の数十センチメートルほどの距離でも大きな電力を消費する。
これに対し、光による通信では、伝送距離が伸びてもほとんど消費電力が増加しない。そのため、コンピュータ内の通信の大容量化によって消費電力や発熱の問題が顕在化する中、光による通信が求められている。NTTは40年以上にわたる光通信技術の研究開発と実用化を強みとしており、光通信による低消費電力インフラの実現を目指す。
同社が開発を進める「PEC(光電融合デバイス)」は、光信号と電気信号の相互変換を行うための機能をパッケージ化して提供する。コンピュータ内の接続を光化するためには、このPECをいかに小さくして、さらに電力効率を上げられるのかがカギとなる。
IOWN構想においては、2023年にPEC-1として中継装置やデータセンター間・サーバ間などネットワークを接続するデバイスが商用化された。2025年はボード間を接続する「PEC-2」が実現され、2026年度中に商用提供を開始する予定だ。
目下開発中のPEC-2(光電融合スイッチ)は、総通信容量102.4テラビットを達成。光エンジン部を取り外し可能としたことで、故障時の修理コストなどを削減している。大阪・関西万博のNTTパビリオンでは、ソフトウェアやアーキテクチャとの組み合わせにより消費電力8分の1を実現している。
PEC-2は、従来はスイッチ内で300ミリメートルほど離れていた光通信部品と情報処理用部品を、同一の台座の上で実装している。情報処理用チップと光エンジンの間の電気配線を30ミリメートル以下としたことで、消費電力を削減した。
IOWN 3.0の実現に資するPEC-3は、ボード内部のCPUやGPUといった半導体パッケージ間の光接続を実現する。パッケージから直接光で伝送することで、さらなる低消費電力が可能となる。さらに、独自の薄膜化(メンブレン化)構造により、パッケージに直付けできる規模での小型化も可能とのことだ。2028年度中に商用サンプルを提供開始予定。
島田氏は「IOWN 3.0の後もIOWNは進化する。2032年頃に実現予定のIOWN 4.0ではパッケージ内部の配線も光化し、最終的には電力消費100分の1を目指す。IOWNは40年以上におよぶNTTの光技術の研究開発の成果であるが、今まさに昔ながらの通信の世界から、コンピュータの世界に広がっている」と説明した。
低消費電力の光量子コンピュータに期待
NTTが取り組む光関連技術の2つ目の柱は、低消費電力での計算が期待される光量子コンピュータだ。光に限らず量子コンピュータは、その計算処理能力の高さによって複雑な社会問題の解決に寄与すると考えられる。
従来型の古典コンピュータに対し量子コンピュータの特徴をもたらすのは、量子ビットの存在だ。量子コンピュータは量子ビットを用いて多数の状態を同時に持つことができるため、多くの状態を処理できる。量子ビット数を増やすことで、指数関数的に多くの状態を表現できるとされる。
量子ビットの数が多いほど複雑な問題にも対応できるが、最適化計算など中小規模の問題に対処するためには1万量子ビット程度が必要となる。流体計算など複雑かつ大規模な問題に対処するためには、100万~1000万、場合によっては1億量子ビットの規模が必要。
従来の量子コンピュータには、超伝導方式や中性原子方式、イオントラップ方式などがあるが、いずれの方式も極低温や真空など特殊な環境が必要であり、設備や消費電力の制約からスケーラビリティに課題があった。
対してNTTが着目している光量子方式は、常温・常圧化で動作するため、省スペースで済む利点がある。その他にも、光の周波数を利用するため高速な点や、NTTが持つ光通信技術を応用するため低投資で開発できる点などが利点となる。これにより、他の方式と比較して量子ビットを増加させやすいのだという。
「NTTの量子光源は従来よりも良質な量子の性質を持つ光を作り出せる。言うなれば量子の歩留まりが良いので、さらなるスケーラビリティの向上に寄与している。ここには、NTTが光通信の領域で培った、光の増幅技術や光の性質を変化させる技術が貢献している」(島田氏)
NTTは11月18日に、東京大学における光量子コンピュータの基礎研究を土台として設立されたスタートアップ企業であるOptQCとの連携協定を締結した。
両社は今後、光量子方式のスケーラブルな性質を生かして、2030年までに100万量子ビットの実現を目指すとしている。さらに将来的には、他社に先駆けて1億量子ビットの達成を目指す。
島田氏は「NTTは光技術を用いて、エネルギーの限界や従来の計算処理の限界を超えてコンピューティングの革新を実現していく。現在世界ではAIの進展によってかつてない変革を迎えているが、NTTはAI時代を支えるインフラを提供するだけでなく、さらにその先の量子コンピューティングの革新を通じてサステナブルな未来の実現に貢献していく」と述べ、基調講演を結んだ。








