
外務省内で、国家安全保障局(NSS)を巡る人事が波紋を広げている。高市早苗首相は、今年1月に就任したばかりの岡野正敬局長を退任させ、後任に市川恵一前内閣官房副長官補を充てた。NSS局長は最低でも3年務めるのが一般的で、1年にも満たない交代劇は異例。市川氏は10月10日に駐インドネシア大使の人事が発令されたばかりだった。
イレギュラーな人事の背景について、外務省幹部は「高市首相が安倍晋三元首相の手掛けた外交スタイルに強引に戻す布石だ。外務省系の人事の流れもトップダウンで変えた」と驚きながら解説する。
岡野氏は総合外交政策局長、外務事務次官など同省のエリート畑を歩んだが、省内では林芳正元外相と距離が近い一派とみなされてきた。石破茂政権下でNSS局長に就いたのも、官房長官だった林氏の強い推薦が効いたといわれる。
一方、市川氏は外務省時代、安倍政権がアジア外交で基軸とした「自由で開かれたインド太平洋」構想を起草した人物として知られる。インドネシア大使への異動は外務事務次官になるためのステップと評する向きもあったが、「岸田文雄・石破政権下でラインから外された」(同省幹部)という見方が多かった。
高市首相は、この流れを力技で変えたわけだ。高市氏は周囲に「林氏の影響力が強い岡野氏より、対中国政策で毅然と対応できる市川氏に外交・安全保障の司令塔となってほしかった」と打ち明ける。
別の同省関係者は「今後の省の幹部人事にも、今回の高市首相の荒療治は影響を与えるはずだ」と神妙な表情で語る。政権交代に近いインパクトを与えた首相交代劇は、外務省内の勢力図もひっくり返したのだ。