
産業連鎖上で 重要な位置に
─ ABEJAはAI(人工知能)を活用して企業のデジタル変革をサポートしている企業ですが、社名に込めた思いから聞かせて下さい。
岡田 「ABEJA」はスペイン語で「ミツバチ」という意味です。ミツバチは、もし地球上からいなくなると、生命体の7~9割が死に絶えると言われるほど、食物連鎖のコアな位置を占めています。その意味から、我々も産業連鎖上の重要なポイントに位置する会社を目指したいという思いを込めました。
─ AIというと米国や中国が取り沙汰されますが、日本の可能性をどう見ていますか。
岡田 極めて大きな可能性があります。今のAIはそれほど複雑な技術は必要ではなく、きちんと然るべきところに資金を使い、大量の計算パワーをつくることができれば勝つことができる世界観だと思っています。技術的な潜在力よりも、資金の掛け方という問題になるのではないでしょうか。
米国を見ても、株式市場を牽引しているのはGAFAMだけです。これらの企業に投資していたベンチャーキャピタリストたちが莫大な富を築き、それを再配分してAI側にポジショニングしているという構造だと考えています。
経済規模と資金のポジショニングで勝負している状況かと思いますので、政府や大企業などがきちんと資金を出せば、日本も十分に戦うことができます。
─ こうした状況下でABEJAの役割をどう捉えていますか。
岡田 我々は、大企業のミッションクリティカル性の高い分野へのAI導入プロセスを手掛けていることが強みになっています。
先日、マサチューセッツ工科大学などが「95%のAIプロジェクトは失敗している」といった主旨のことを発表していますが、なぜそうなるかというと、「非コア業務へのAI活用ポイントが多すぎる」ということです。
不必要な部分にAIが大量に導入されていて、本当に必要な業務上のプロセスでの利用があまりにも少ない。優れたAIをつくったとしても、アイデア出しや翻訳するだけだったとしたら、費用対効果が合わないという話になってしまいます。
─ ABEJAはコア業務へのAI導入を進めていると。
岡田 そうです。もちろん、コア業務でAIを使うとなると、特有の課題である「ハルシネーション」(生成AIが事実と異なる回答をしてしまうこと)に代表される精度の問題などもあり、企業からすると「本当に使えるのか」という懸念が出てきます。AIはいつまでたっても100%の精度を担保することは不可能ですから。
そうした課題に対して、我々が提供するAIプラットフォーム「ABEJA Platform」を使うと、コア業務でAIを使ってビジネスを変革することができるようになるというのが、我々の大きな強みとなっています。
このプラットフォームは、コア業務で活用いただくものです。我々に対して数億円レベルの投資をしていただいたとしても結果として経営の変革を起こせることで数十億円以上の利益につながる可能性があり、そうした投資効果を期待いただけることも、1つのアピールポイントになっています。お陰様で約300社の大企業に導入していただいています。
ミスが許されない分野で稼働するプラットフォーム
─ 既存のシステム会社などは、同じようなサービスを手掛けられないんですか。
岡田 やろうと思えば、おそらくできると思います。ただ、全てゼロから構築することになりますから、かかる資金の桁が1桁以上違ってくるという話だと思います。 米国でも同じような現象が起きていて、大企業向けのデータプラットフォームとして多く利用されているのが、我々もベンチマークしている米パランティア・テクノロジーズのものです。
大手がつくるとゼロからつくって、テストして、しっかり動くのかという実証実験から始めなければなりませんが、パランティアやABEJAが提供するプラットフォームは、すでに多くのお客様の元で稼働しており、必然的に信頼性もシェアも高まっています。
─ 大企業の生産性向上に貢献していると。
岡田 ええ。正直に申し上げて、我々のサービスを導入するコストはSaaS(インターネット経由でソフトウェアをクラウドサービスとして利用できる仕組み)を提供している企業よりも遥かに高いんです。
ただ、大企業向けに使える同様のサービスを提供できる企業はあまりに少なく、大企業であっても同様の技術を一から構築するのは人的・時間的にもリソースがかかりすぎるため、我々を選んでいただくのが最善であるという状況です。
SaaSでこうしたニーズに応えるサービス提供をしようという企業も多く出てきていますが、大企業の業務プロセスの中で実際に使えるかというと使えないというのが実際です。結果、我々のところに来られることも多く見受けられます。
我々のお客様は約300社ですが、それを爆発的に増やす必要がないと考えています。ABEJAは、大企業から決して安くはない投資をいただいて、例えば1つのミスが爆発事故などの人の生死に直結する取返しがつかない重要度の高い仕事を担わせていただいています。絶対にミスのないような形のプロセスを、最先端の技術や仕組みを統合したソフトウェア上で担保していることが、我々の圧倒的な強みです。
─ AIを活用したデジタル変革支援の需要は、今後も強いと見ていいですか。
岡田 そう考えています。日米を比較した時にも、おそらく日本の方がデジタル化余地は大きいと言われます。
日本は「デジタル敗戦」と言われるように、過去にデジタルで一度負けていますから、そのツケを払ってきました。しかし、生成AIが出てきたことで、飛び越えられるチャンスが出てきました。ここで各産業、各社がしっかり取り組むことで、大きなマーケットになる可能性があります。
ただ、現在、多くの企業が生成AI導入をサブプロジェクト的に取り組んでいますが、私は大手企業での基幹システム、銀行で言う勘定系システムと同じような規模感で取り組む必要がありますという話をしています。
今後、企業が本格的に取り組むと、大半がAIを検討されるはずですから、巨大なマーケットになると思います。
シリコンバレーでAIの可能性に触れて
─ ところで岡田さんは、高校は愛工大名電出身だそうですが、元々プログラミングなどに興味があった?
岡田 そうです。小学5年生からコンピューターに触り、プログラミングを書いていたという背景があります。私は愛知県出身ですが、当時の愛知で情報科学を学べる高校が愛工大名電しかなかったので進学を決めました。
情報科学は新設学科で、私は3期生でした。授業も楽しかったのですが、課外活動で、学校にあるコンピューターで一般的な高校生では買えない価格のソフトウェアに触れることができたのがありがたかったですね。
周囲もモチベーションの高い人間が多く、先輩には有名ゲームをつくった人、後輩にはハリウッドで映画づくりをしている人もいます。
─ コンピューターサイエンスにのめり込んだ結果、起業に至ったと。
岡田 ええ。授業以上に独学でいろいろなことを学んでいました。クラウドの登場で、自分でコンピューターを持っていなくても借りればいいという状況になり、障壁が下がってきました。
それでSNS的なサービスをつくって起業したのですがなかなか難しく、会社を畳んでベンチャー企業に入り、その後に再び起業したという経緯です。
─ どういう会社をつくろうと考えましたか。
岡田 ベンチャー企業に在籍していた時にシリコンバレーに行かせてもらい、「ディープラーニング」(深層学習)が出てきたのを見て、これはAIを活用した事業に可能性があると考えて帰国し、起業しました。
インターネットも革命的でしたが、「できると言われていたものができるようになった」のに対し、ディープラーニングは「できなかったことが急にできるようになった」形でしたから、すごいことが起きたと感じました。
─ 2012年に創業してから13年ですが、これまでの歩みを振り返って思うことは?
岡田 弊社の場合、多くの人たちから「攻めた経営をしていますね」と言っていただくのですが、私の感覚では「耐えている」、「待っている」経営をしてきたと思っているんです。
これまで5年後くらいに潮流に乗るテクノロジーを想定した上で、早期のタイミングで投資するという意思決定をしてきました。そうしたテクノロジーは、ビジネスにおいてはあまりに先見性が高過ぎて全く売れない(笑)。5年くらい経つとようやく「ABEJAさんの言うことがわかってきました」とご評価いただけるという形で投資から回収までのタイムラインが長いんです。
その間、何もせずに待つわけにはいきませんから、しっかりと製品やサービスをつくりながら、社会的に啓蒙もし、挑戦してくださるお客様を見つけながら、一緒に取り組んでいかなければなりません。そうしてタイミングが来た時にリードして突出させるということをやらなければなりませんから、耐えなければいけないんです。
しかし、おそらく米国では10年先を見ている人もいると思いますから、我々もどこまで先を見ることができるか。遠くを見れば見るほど、その間のキャッシュフローをしっかり確保しなければなりません。
─ 米グーグル、米エヌビディアからの出資を受けていますね。これは先方からの話でしたか。
岡田 最終的には、もちろんお互いの合意にはなりますが、先方とお話をする中で、資本の部分も含めて話がしたいと言っていただいたという経緯です。両社からの出資は自信にもなりますし、企業としての信頼度は全く違うものになりました。
これからのAIと 人の関係はどうなる?
─ 改めて、これからのAIと人の関係はどうなっていくと見ていますか。
岡田 一般的に、人とAIの関係は「バディ」(仲間)のような関係になると言われていますが、私はもう少し違うのではないかと思っています。
AIの本質的に重要なポイントは、記憶と思考が、どの位置でも完璧にデジタルコピーできることです。
その意味でAIは組織や社会の中に浸透、染み込んでいる状態にしなければならないだろうと考えています。
今、こうして会話をしている時にも、AIエージェントが必要な情報を話し手に出してくるような世界観になってくると思っています。おそらく、それはバディというより、社会システムへの適合です。
人が情報を取りに行くのではなく、AI側がボールを持っていて、逆に人に聞いてくるような世界です。そして、この時の「人」はおそらく1人ではなく、適切な人をAIが判断して、常に誰かに聞いていくという形になるということが重要だと考えています。
─ 岡田さんは経営者として尊敬する人はいますか。
岡田 経営者で最も尊敬しているのは小林陽太郎さん(富士ゼロックス=富士フイルムビジネスイノベーション=元社長、経済同友会元代表幹事)です。
私は経営者の役割は、倫理的問題で決断をし、リベラルアーツ的観点で経営をすることだと考えていますが、これは効率性では測れない要素が多分にあると思います。
経営者として、そうした分野に注力していた方という意味で小林さんを尊敬しています。もちろん、遡れば日本の資本主義の父を呼ばれる渋沢栄一さんもおられると思いますが、我々の世代からすると、少し遠い時代の方になります。
近現代において、最もそうした倫理的、リベラルアーツ的思考を持った経営者という意味では、小林さんに帰着するのではないかと思います。