さまざまなブランドを展開するアパレル大手のユナイテッドアローズ。 EC運営やデータ活用、アプリのリニューアルなどのデジタル施策に取り組む同社は現在、オンラインとオフラインを統合する「OMO戦略」を進めている。

ただし、OMOにおいて同社がもっとも重要視するのはオンラインではなくオフライン、すなわち店舗と店舗スタッフの存在だ。

なぜユナイテッドアローズは店舗を軸としたOMOを推進しているのか。

10月21日に開催された「TECH+セミナー CX Day 2025 Oct. 顧客に選ばれるためのCX戦略」にユナイテッドアローズ OMO本部 本部長 岩井一紘氏が登壇。「“感動”を全社で届けるCX設計 ~ヒト・モノ・ウツワが連動する組織づくりと実践~」と題した講演を行った。

理念を定義するのは、顧客と従業員の価値観

大手アパレル企業のユナイテッドアローズは、「UNITED ARROWS」や「BEAUTY & YOUTH」、「UNITED ARROWS green label relaxing」をはじめとする30以上のブランドを展開している。

OMO本部 本部長を務める岩井氏によると、同社が掲げる長期ビジョンは「美しい会社 ユナイテッドアローズ」であり、これは「真善美を追求し続けることでサステナブルな社会の実現に貢献し、お客様に愛され続ける高付加価値提供グループになる」ことを指しているという。

ユニークなのは「美しい」の定義だ。

「お客さま、そして約3,000人の店舗スタッフそれぞれの異なる価値観や伝え方が融合することで、『美しい』を価値として提供できるようになると考えています。つまり、(会社としての)パーパスというよりも、個人のパーパスをより生かしていくという理念が強い会社なのです」(岩井氏)

ユナイテッドアローズの事業領域についても押さえておこう。

同社が主戦場としているのは主にミッドトレンドマーケット、またはトレンドマーケットと呼ばれる中価格帯だ。この領域で自社が展開する各ブランドをいかに横串で連携し、顧客体験を最適化していくのかを担っているのが、同氏率いるOMO本部なのである。

「実は当社のOMO本部は間接部門ではなく事業本部です。約130名規模の組織で、広報PR統括、顧客管理、EC統括、オペレーション統括など、ECだけでなく店舗も含めたお客さま軸での事業展開を、横串で見ている部署となります」(岩井氏)

ECが大幅な伸びを見せる中、実店舗を起点としたOMOを促進

ユナイテッドアローズの事業は店舗・EC共に好調を維持している。岩井氏によれば、昨年の売上は前年比113%を達成。中でも自社ECサイト「UNITED ARROWS ONLINE」は前年比127%と大きな成長を見せており、会員による売上も前年比116%に伸びたという。

そんな同社が注力しているのが、中期経営計画でもうたわれている「感動提供」という方針だ。そのために、顧客と深く広くつながることを重視しており、「とくに店舗による体験を大切にしている」と同氏は話す。

  • 感動提供を実現するための3つの主要戦略

    感動提供を実現するための3つの主要戦略

ECの売上が顕著に伸びている中、なぜ店舗なのか。

「売上の7割は依然として実店舗であり、感動提供の起点はお店という前提で考えています」(岩井氏)

同社が創業時から掲げる販売基本政策には「お客様の満足が伴わない利益や売上を求めてはいけません」と明記されている。さらに、もう一つの基本的な思想には、「従業員が積極的にコミュニケーションを図り、個人の思考と強みを尊重し、理解し合う」というものもある。

つまり、従業員が個人の強みや思考を尊重し、お互いの弱さを補い合いながら、適材適所で活躍することが、「お客様の満足」そして「感動提供」につながるというわけだ。

だからこそ、同社は依然として顧客接点の多くを占める店舗を重視しているのである。ただし、だからといってECを軽視しているわけではない。

むしろ、店舗(オフライン)とEC(オンライン)の融合であるOMOを今後の最重要戦略と位置付けており、最短で効果を出すための施策に取り組んでいる。

店舗スタッフの存在こそがユナイテッドアローズ最大のアセット

OMOにおいて鍵を握るのは、実店舗のスタッフの存在だと岩井氏は説明する。

全国のアパレル販売スタッフ8.5万人がエントリーし、“令和のカリスマ店員”を決めるイベント「STAFF OF THE YEAR」では、ユナイテッドアローズのスタッフが2年連続でグランプリを獲得。業界の中でも、同社のスタッフの優秀さは際立っており、ユナイテッドアローズにとって“最大のアセット”と言える存在なのだ。

そんなスタッフの強みを生かす取り組みが、ECで展開する「スタイリングコンテンツ」である。これはスタッフのスタイリングを写真付きで紹介することで、売上促進につなげる施策だ。

注目すべきは、ECのコンテンツから実店舗への誘導にも成功していること。同氏によると、スタイリングコンテンツを見て来店した顧客の実店舗における売上構成比は25%にも上り、さらにECで商品詳細を見た顧客の実店舗売上構成比は36%にも上るという。

「店舗でアプリを見せながら『この商品を探しているんです』というお問い合わせも非常に増えています。つまり、お客さまはすでにOMOを実践されていると言えるのです」(岩井氏)

店舗とECの両方を利用する「クロスユース」の顧客は、店舗のみまたはECのみ利用のユーザーと比較して、一人あたりの売上単価が3~4倍以上高いというデータもある。

今後、さらに事業を成長させるにはクロスユースの顧客を増やすことが重要であり、そのためにも、店舗で接客を行うスタッフが「感動接客」を起点にOMOに対応していくことは必須と言えるのだ。

  • 店舗スタッフのOMOへの対応の必要性

    店舗スタッフのOMOへの対応の必要性

機能的価値×情緒的価値がOMO戦略を成功に導く

同社におけるもう一つの大きなトピックがポイントプログラムのリニューアルである。

これまでのポイントプログラムは、顧客が商品を“購入”した際にポイントが付与されていた。そのポイントに応じて顧客はランク分けされ、特典が受けられた。一方、リニューアル後の会員プログラムでは、購入だけでなく顧客の“行動”に対してマイルを付与する「アクションマイル」という仕組みになっている。

この施策により、30%程度だったF2以上の転換率(2回目以降の購入に至る率)が50%に向上。さらに、アプリのリニューアルも行い、経由売上が142%に成長しただけでなく、アプリのストア評価も2点台から4.5点以上に伸びたという。

この他にも、同社ではさまざまなデータやマーケティングオートメーション、AIなどの活用など、多くのデジタル施策を進めている。

ただし、「データ分析や、そこからの施策生成、アクションといった機能的価値は、“どれだけコストをかけられるか”という世界でもあり、限界も見えている」と岩井氏は言う。

そこで重要なのが、前述した店舗における体験だ。店舗体験(SDX)とスタッフ体験(EX)こそが、同社のCX(顧客体験)を支える中核なのである。

  • CXを支えるのはSDXとEX

    CXを支えるのはSDXとEX

CXはSDXとEXの上に成り立っているという考えの下、同社はアナログ施策も含めた多様な取り組みを行っている。

例えば、EC在庫の「即配カート機能」だ。店舗を訪れたのに在庫がない場合、顧客にECの在庫を案内し、さらに店舗スタッフがその場で送料無料クーポンを発行できる仕組みのトライアルである。

「在庫切れ」という店舗ならではの弱点をECで補う施策だが、ポイントはあくまでも顧客体験の軸を店舗に置いていることにある。なぜなら、F1(初回購入)からF2(2回目購入)への転換率は、オンラインよりも店舗の方が20%程度も高いというデータがあるからだ。

店舗での良い体験がオンラインにも波及し、さらにそれが店舗に戻ってくるという好循環をつくることが、LTV(顧客生涯価値)を最大化するポイントなのだと同氏は話した。

デジタルの重要性を認識し、デジタル施策に取り組む企業は増えている。一方で、デジタルと店舗の体験が断絶されてしまっているケースも少なくない。 店舗を軸にOMO戦略を展開するユナイテッドアローズの取り組みは、アパレルに限らず小売業におけるデジタル施策のお手本となるだろう。