「葬儀だけでなく、人生に伴走するライフエンディングパートナーに!」燦ホールディングス社長・播島聡のトータルソリューション戦略

家族葬ニーズの高まり 葬儀施行単価は低下し競争激化

 人と人のつながりが薄れ結婚式がカジュアル化してきたように、いま葬式もカジュアル化の流れにある。

「当社への問い合わせの9割が、家族葬をしたいという言葉。葬式は小型化し、なるべく費用を抑えて家族水入らずの時間を過ごしたいというニーズが圧倒的となっている」と葬儀専門会社最大手の燦ホールディングス(東証プライム上場)社長の播島聡氏。

 同社が手掛ける家族葬に特化したブランド「エンディングハウス」は、家族で家にいるようにくつろげる葬式というコンセプトの葬式で人気を呼んでいる。入口を入ると明るい会場で、セットされている花も結婚式のような白と緑の明るい雰囲気だ。どのような雰囲気にしたいかは、故人もしくは家族の希望に沿いセットできる。

 セレモニーは従来通りにしっかり行った後、別室で家族が家にいるようにくつろぐ空間を用意している。綺麗なキッチン付きのダイニング、寝室、バスルームで2~3日、故人との思い出を偲びながら快適に過ごすことができる。

 キッチンと会場は仕切れる間取りになっているが、仕切らずに祭壇に飾った故人の大切な遺品を眺めたり、ディスプレイに思い出の家族写真やビデオ、思い出の音楽を流したりしながら、故人の好物をつくりお酒を飲みながら過ごすスタイルが好評となっている。

「今までお葬式会館のイメージとは違い、敢えて明るい雰囲気にしている。旅立ちのステージということで、家族が中心になりわれわれは横で見守りサポートする形をとっている」(同)

 コロナ禍以降、5人~10人のお葬式は当たり前となり、多くても30人に収まるケースが大半である。葬儀業界は低単価化の波にもまれ、業界全体の競争は激化。そこで大きな問題となっているのは、安価な葬儀をうたった広告。家族葬の費用相場は105.7万円(鎌倉新書/2024年調べ)だが、昨今テレビCMで約9万円の葬式をうたう広告がある。

 しかし最終的にはオプションをつけると9万円の約10倍の金額がかかることも多い。国民生活センターへのクレームが年1000件ほど寄せられ、その数は毎年増加。関係者は「この金額ではお花代も入っていないのでは」と推測する。

 9万円をうたう企業は実際には葬儀事業を持っておらず、紹介業が主だ。地域にいくつもある葬儀社の低価格プランを掲載し、手数料で儲けるビジネスモデルで運営している。営業ノウハウがなくマーケティングコストをかけられない地域密着の葬儀会社は、こうした紹介会社に高い手数料を払い、安い価格でサービス提供をするしかないのが実態だ。しかしその結果、経営は疲弊し倒産も増加している。

 東京商工リサーチの調査(全国の主な葬儀会社505社)では、2024年の休廃業・解散が66件、倒産が8件で、合計では2013年以降で最多。参入障壁が低く、市場退出を上回る状況が続いている。物価高、生活苦の中で、葬儀価格で事業者を選定する消費者も少なくないため、トラブルは後を絶たない。

トータル提案を行うライフエンディングサポートで売上拡大

 そうしたトラブルの報道から、最近は葬儀に関する事前問い合わせや相談も増え、同社でもライフエンディングサポート事業を強化している。終活に関し最初の窓口となり、葬儀だけでなく、亡くなる前の介護、お墓、仏壇、相続手続きなど多岐にわたる相談を受け付ける。

 近年、亡くなった後に遺族が苦労するのはデジタル遺産。スマートフォンやパソコンでログイン時点でも顔認証ロックがかかる上、本人しかパスワードがわからない電子マネーやネット銀行、ネット証券等の相続にも専門業者と提携して対応する。

「準備をしていないと慌ただしい中で決めないといけないことが山ほどある。事前相談に来られるご本人は皆、口を揃えて家族に迷惑をかけたくないとおっしゃいます。何からやればいいのか、どんなことが必要なのかわからないのが普通ですから、葬儀の事前事後も含め、0から全面的なサポートをしていく」と播島氏。

 終活といわれる諸々の手続きは、個々の業者にそれぞれ相談するのが一般的。同社はそれを1つの窓口にまとめ、顧客の負担をサポート。あらゆる相談をワンストップで解決するソリューション型サービスで差別化し、売上を伸ばしている。25年3月期の連結決算は、営業収益319億円(前期比42.5%増)、営業利益45億円(前期比19.3%増)と増収増益を達成した。

 2040年までは年1.4%で死者は増加する見通しで、市場は拡大傾向。しかし、全国にある葬儀社5000社のうち、7割以上が5億円未満の小・零細企業。同社は上場企業7社のトップとして、人手不足や地場企業の後継者問題など業界が抱える諸問題への解決に、M&Aを通して全国展開を急ぐ方針。積極的に採用を増やし、顧客の要望に柔軟に対応できる人材教育に力を入れる。

 葬儀専門事業を始めて2030年に創業100年を迎える同社。「シニア世代とご家族の人生に伴走する、日本で一番のライフエンディングサポート事業者になりたい」と播島氏は力を込める。高齢化社会の中で、人生の最後をどう締めくくるか自分で考える時代。人々の価値観が多様化する中で、ニーズを素早く汲み変化対応しながらの経営が求められることになる。