サイボウズは7月15日、ノーコードで業務アプリを構築できる「kintone」のユーザーイベント「kintone hive 2025 tokyo」をZepp DiverCity(東京都 江東区)で開催した。本稿では、爆速で市民開発を成功に導いた味の素ファインテクノの事例を紹介する。
業務改善に迫られた現場でのkintone導入、爆速で進んだ理由
味の素ファインテクノはその名の通り、味の素グループの一社。アミノ酸製造の中間体を利用し、高付加価値なファインケミカル事業を手掛けている。主力商品は「味の素ビルドアップフィルム」(ABF)。ABFは半導体パッケージ基盤の絶縁材料として使われ、グローバルでほぼ100%のシェアを誇る。
家庭で見かける調味料の「味の素」は、サトウキビなどの糖蜜を発酵させたグルタミン酸ナトリウムが原料だ。同社グループが持つアミノ酸に関する技術を応用し、絶縁性のあるエポキシ樹脂の研究開発を進めたことから、1999年にフィルム状の絶縁材料が誕生した。今日では、ABFはスマートフォンやPC、サーバなどのICT機器には欠かせない材料となっている。
情報化社会が進み半導体市場の拡大に伴って、味の素ファインテクノでは10年ほど前から業務量の増大が課題になっていたという。同社の購買部で原材料の安定供給に携わる大野隆之氏は「このままでは将来の変化に対応できなくなる危機感があった」と、以前の社内の雰囲気を紹介していた。
ICT機器の製造に欠かせないシェア100%だからこそ、供給責任のプレッシャーや、何が起こるか分からないことの緊張感、作業ミスに対する恐れがあったそうだ。こうした不安に拍車をかけていたのが、紙の資料やファクスでの情報共有、不明確な業務フローだった。
「当時の取引先から、ABFの供給は大丈夫ですか?原材料の調達に問題はありませんよね?という声が掛かるようになった。私たちは"やばい"と思い始めた」(大野氏)
そこで10年前、同社では4人のメンバーで「OE(オペレーショナルエクセレンス)推進活動」が始まった。OE推進活動では「自分たちの、自分たちによる、自分たちのための、働き方改革」をスローガンに、業務オペレーションの効率化が図られた。
2015年に4人のメンバーで始まったOE推進活動は、以降も多くの人を巻き込みながら活動を継続。2020年には20人までメンバーが増えた。これに伴い、味の素グループ全体のDX計画に合わせて、業務の効率化を実現するためにkintoneが導入された。
大野氏は「OE推進活動では業務を合理化するために、情報共有や手順書による作業の整理、ハンコの廃止、会議には代表者だけが参加し議事録で情報共有など、kintoneに出会う前からkintone活用に大切なことを学び続けていた。だからkintone導入が爆速で進んだ」と述べた。
現場と情シスが役割分担することで進んだ市民開発
kintone導入により爆速で業務プロセスを変革した事例の一つが、納期管理アプリだ。まず、従来の納期管理の業務フローは以下の通り。納期を調整する際には、受発注の担当者が基幹システムや納期管理Excel、保管用フォルダに納期を入力する。納期に変更が発生した場合には、その都度、購買担当者や荷受け担当者、工場担当者に電話やメールで連絡する。案件数が増える度に、こうした調整の手前が増大する課題が生じる。
そこで大野氏らは、kintoneの自動通知機能を利用して、フィールドに情報を入力・更新したら自動で関係者に通知する納期管理アプリを作成した。その結果、関係者への伝言ゲームが不要となった。
さらに、外部連携機能によりアプリを改良したところ、基幹システムとkintoneを連携してスケジュール設定や取込項目のマッピングが可能になった。また、ClimberCloudとのAPI連携により、電子帳簿の手入力を不要としている。
納期管理アプリによって、同社では年1600時間の業務削減に成功した。これは1人の社員を雇うのとほぼ同程度の成果に相当する。
こうした業務改善のストーリーを大野氏は「初めからすごいアプリを作れるわけではない。トライアンドエラーが必要で、業務改善には失敗と挫折の経験がつきもの」と紹介した。
同社内でkintone活用の失敗や挫折を支えたのが、情シスの存在だった。情シスチームがkintoneの相談窓口アプリで疑問や課題を募集したほか、活用ノウハウをスレッドで公開したという。また、活用事例の紹介やアプリの水平展開なども情シスがサポートした。
これらの取り組みの結果、味の素ファインテクノの社員約400人のうち、100人がアプリ作成経験者である。実に、4人に1人が何らかのアプリを自分で作成した経験を持つ。また、これまでに開発されたアプリは700個にも上る。
大野氏は爆速でkintone活用が進んだ理由として、「現場を理解しているユーザーがアプリを開発する、そして情シスが運用を支援する。この役割分担を明確にして、両輪で回せた」と説明していた。
味の素ファインテクノの市民開発を促した3つの要素
大野氏は講演の中で、他社にも応用できそうな同社の活用事例をいくつか紹介した。その一つが、ポータル画面のアプリ説明だ。同社ではアプリ一覧のアイコンの下に、何をするためのアプリなのかを記載するようにしている。
例えば、購買ダッシュボードアプリであれば「購買実績を確認したい」、単価改定記録アプリであれば「単価改定承認申請したい」、ナフサ市場状況アプリであれば「石油化学品の市況とナフサレポート」といった記載である。
2つ目の例は、トヨクモのプラグイン「kMailer」および「FormBridge」を活用した、調査回収アプリだ。同社には取引先に対しメールで調査票の記入を依頼し、回収する業務が存在する。以前は、回答状況はExcelでチェックリストを作成して確認していた。
調査回収アプリではkintoneに保存されたデータをメールで一斉配信できる「kMailer」と、Webフォームを作成できる「FormBridge」を組み合わせており、数百のメールを送信する作業と、回答状況を確認する作業が不要となった。
kintoneを活用した業務アプリの作成に際して、大野氏が大切にしているのは「木こりのジレンマ」という例え話だ。木こりのジレンマとは、木を切るという目先の仕事が忙しく、刃こぼれした斧を研ぐ時間が取れない状態を表す寓話である。斧を研いだ方が業務が効率化されるのにもかかわらず、そのための余裕がないジレンマが表現されている。
「kintoneは気付いた時に修正し改善できることが大きな強み。膨大な業務がある場合には忙しくても一度立ち止まって、しっかりと斧を研ぐことが大事。その方が膨大な業務を効率的に処理できる」(大野氏)
大野氏は続けて、味の素ファインテクノで市民開発が進んだ要因について、「本人の意思」「使いやすい道具(=kintone)」「キンとも(=kintone活用を推進する社内外の仲間)」の3つを挙げた。自社の業務を変革したいという強い意思があり、さらにノーコードで業務アプリを作れるkintoneを導入し、kintoneの活用に悩んだときに相談できるユーザーコミュニティがあったからこそ、同社では4人に1人が業務アプリを構築するまでに至った。
大野氏は「kintoneの導入で学んだのはアプリの作り方やテクニックではなく、自分たちの業務に正面から向き合って磨き続けるのが大事だということ。皆さんにもそれぞれの業務があり、改善には最適な道筋があるはず。まずはやってみましょう」と会場に強く訴え、プレゼンテーションを締めくくった。










