ワコールといえば女性下着メーカーというイメージを持っている人がほとんどだろう。それは間違いというわけではないが、現在のワコールはそのイメージにとどまらず、データを活用した「ボディデータカンパニー」へと歩みを進めている。

10月21日に開催された「TECH+セミナー CX Day 2025 Oct. 顧客に選ばれるためのCX戦略」に、ワコール 執行役員 D2C統括部長の藤村努氏が登壇。「パーソナライズ×OMOで実現するワコールのCX戦略」と題して、同社が進める「SCANBE」を活用したサービスとOMO施策について語った。

60年にわたり蓄積してきたデータが強み

ワコールは1946年に京都で創業した、インナーウェアの会社であり、現在に至るまで「美しさ、快適さ、健康」を追求した商品を開発・販売している。主要なブランドとしては「WACOAL」や量販店向けの「Wing」があり、その他にも「AMPHI」や「Salute」、メンズインナーブランドやスポーツウェア、フェムケア商品などを展開している。

藤村氏は2003年にワコールへ入社し、ものづくりや事業戦略、小売事業など幅広い分野で経験を積んできた。2018年からはワコールマレーシアの社長として現地法人を率い、グローバルな事業展開に貢献。2023年の帰国後は執行役員として通信販売事業部長を務め、2025年には執行役員D2C統括部長に就任、ECと直営店舗の一体的な運営を担っている。

同社のコアコンピタンスとなっているのが、1964年に設立された人間科学研究所(現・人間科学研究開発センター)だ。ここでは長年、身体のかたちや動き、感覚生理などの研究を行い、ボディデータの収集に力を入れてきた。

1964年からは「マルチン式計測法」と呼ばれる手法を用いて身体の約160カ所を計測し、60年間で延べ4万5000人分のデータを蓄積。中には子どもの頃から40年以上にわたり継続的に計測しているモニターもいるというから驚きだ。

このデータを基に、同社は姿勢を良くする「シャキッとブラ」や睡眠時の乳房の動きをサポートする「ナイトアップブラ」、テーピング作用を取り入れた「CW-X」などの商品を開発してきたという。

セルフ3D計測サービス「SCANBE」をベースに3つのサービスを展開

近年、ワコールが注力しているのが「SCANBE」だ。セルフで行える3D計測サービスであり、2019年5月から店頭に設置されている。同社のCX戦略において重要な位置付けとなるサービスである。

  • SCANBEのサービス体験の流れ

    SCANBEのサービス体験の流れ

「SCANBEでの計測自体は3秒で完了します。服を脱ぐ時間を考慮しても、全体の体験時間は約15分程度です。アナログ計測だった頃は60年かけて4万5000人だったのに対し、SCANBEでは設置から6年間で30万人以上のデータを収集できています」(藤村氏)

こうして蓄積したデータを活用して、ワコールでは3つのサービスを展開している。

1つ目は「私を知る骨格診断」だ。骨格をストレート、ナチュラル、ウェーブの3タイプに分類したうえで、適したサイズやファッションをアドバイスする。

2つ目は「からだバランス診断」だ。姿勢のタイプを「おつかれ猫タイプ」「ぐらぐらキリンタイプ」「ミーアキャット先生タイプ」などに分類し、どのように動くと姿勢がきれいに見えるのか、姿勢を正しくするコツなどと合わせて提案するサービスである。

3つ目は「わたしに合うブラ診断」だ。スキャンしたボディデータを8つのタイプに分類し、合う下着を提案するサービスである。2025年7月からは、このサービスを自社ECである「ワコールウェブストア」と連動させ、診断結果をベースにブラジャーの相性度を表示する機能を追加している。

「7月にローンチして、まだ3カ月半しか経っていませんが、この機能により購買率は通常の2倍、利用者数は約20万人に上っています」(藤村氏)

現状、SCANBE自体の設置が2025年10月時点で約30店舗にとどまっていることを考えると、「わたしに合うブラ診断」がいかに多くの顧客に受け入れられているかが分かるだろう。

ECと店舗を連動させ、新たな顧客体験を提供

ワコールの顧客IDは約670万人、うちアクティブは200万人強だという。分析の結果、店舗のみやECのみの顧客よりも、両方を利用する顧客のLTVが高いことが明らかになった。

店舗のみの顧客がECも利用すると、購入金額は2.2倍となり、ECのみの顧客が店舗も利用すると2.5倍になるという。「1+1=2ではなく、それ以上の価値を生み出しているのがポイント」と藤村氏は語る。

「さらに、店舗とECを併用しているお客さまのうち、ボディデータを保有している方は、購入金額がそこから1.2倍に上がるという実績があります」(藤村氏)

今後はSCANBE導入店舗を拡大しながら、顧客を店舗とECの双方に誘導する方針だ。ボディデータを測定してそのまま店舗で購入したり、ECでもボディデータを用いて相性度の高い商品を購入したりするなどのOMO戦略を加速させていく。

そんな中、2025年4月にららぽーと安城、9月にニュウマン高輪にオープンした「WACOAL is」は、SCANBEのボディデータをベースに、ワコールウェブストアの商品ラインナップやコンテンツを連動させた新しいタイプの店舗である。

「いつでもどこでも情報が取れる」「商品バリエーションが豊富」といったECの利便性と、「商品に触れられる」「試着できる」「プロのアドバイスを受けられる」といった店舗の優位性を組み合わせることで、新しい顧客体験を提供している。

例えば、ボディデータを計測してSCANBEを出たときすぐに目に入る場所には、ボディタイプ別おすすめブラジャーを陳列。また、ECランキング上位商品の展開、キャンペーンの連動、ECで購入した商品の取り置き・取り寄せ対応など、ECと店舗の垣根をなくす取り組みを実施しているそうだ。

最後に藤村氏は「ワコールは依然として女性下着メーカーというイメージを持たれているが、1964年から続く人間科学研究に基づくボディデータこそが我々の優位性であり、今後はボディデータカンパニーへと方向転換していく」と展望を語った。

また、聴講者に向けて、「各社がそれぞれの優位性を持ったコアコンピタンスを活用することが重要」だと述べ、講演を締めくくった。