アサヒGHDがシステム障害 急がれる危機管理策

出荷停止でさまざまな方面に影響大

「復旧の目途は一切立っていない。今回のようなことは初めてのこと」─。ビール業界トップのアサヒグループホールディングス(GHD)の関係者は、1日14時時点の状況をこう説明した。

 同社は9月29日にサイバー攻撃を受けたことでシステム障害が生じ、酒類や飲料などの出荷業務を停止。同社の売上は約3兆円のうち約半分が国内事業で、今回の件が業績に与える影響は非常に大きい。

 取引先がアサヒビールのみで大口顧客でもある居酒屋大手のコロワイドは、冷や汗をかきながら事態を見守っている。同社関係者は、「当社の物流センターにいくらか在庫があるため、現状まだ支障は生じていない。お客様には美味しいビールを飲んで楽しんでいただくため一人何杯までといった制限を行うこともしない。工場稼働が止まっていることが気がかりだが、引き続き状況を注視していく」と話す。

一部の工場では手作業での対応を始めている(2日時点)

 NTTセキュリティ・アンド・トラスト室のチーフ・松原実穂子氏は次のように話す。

「今回の事案はランサムウェア感染とみられる。業務に必要不可欠なデータやファイルの暗号化や、感染被害拡大防止のためのネットワーク遮断によって業務が中断し、サプライチェーンを通じて様々な業種や組織のビジネスにも影響をドミノ式に及ぼしかねない」

 警察庁の統計では日本でのランサムウェア攻撃報告件数はここ数年高止まり。松原氏は昨年10月にランサムウェア攻撃の被害を受けた日本の大手電機メーカーの事案を挙げ、「機会損失が出ただけでなく、25年3月期の連結純利益の予想は20億円下方修正。日本企業はグローバル化に伴い、海外の子会社が攻撃を受ける件も増加。サイバーセキュリティにおけるグローバルガバナンス徹底とデータのバックアップの重要性は増している」とコメントした。

 このようなサーバー攻撃に付物である身代金の要求は、「一般的にバックに国がいることも考えられる」と某元政府関係者は話す。

 こうした事件を防ぐため「シシテム入口で防衛策を強化すべき」と専門家は語る。全ての企業が脇を締め直すタイミングだといえる。