アジア太平洋(APAC)地域では、AIが実験的段階から不可欠な存在へと急速に移行しつつあり、各国のデジタル戦略にも組み込まれつつあります。日本では、内閣府が発表した「統合イノベーション戦略2024」(2024年6月)においてAIを中核技術のひとつとして位置づけており、さらに同じく内閣府が発表した「AI戦略会議 中間とりまとめ」(2025年2月)でも、イノベーション促進、リスクへの対応、国際連携による政策推進の重要性が示されています。
こうした急速に変化する地域や国内の動向に対応するため、企業はAIのような強力なアプリケーションを支えるべく、高性能かつ高計算能力を備えたインフラ構築を急いでいます。しかし、AIの活用規模を拡大する中で、しばしば見過ごされがちな課題があります。それは、AIが必要とし、消費し、そして生成する膨大なデータをどのように保管するかという点です。
AIの話題ではGPUやフラッシュストレージの性能が注目されることが多い一方で、そのデータがどこから来て、最終的にどこへ保存されるのかに触れられることはあまりありません。学習用データセットやモデルのチェックポイントから、推論ログやテレメトリに至るまで、AIのパイプラインは「ホット」「ウォーム」「コールド」といった多様なデータを生み出します。これらのデータにはそれぞれ異なる性能や容量設計に対応できるストレージソリューションが必要です。HDDは、長期かつ大容量のストレージの中核として、より低レイテンシー、また、高性能なSSDと連携しながらAIインフラを支える重要な役割を担っています。
AIワークロードの現実:すべてがリアルタイムではない
アジアで大手テクノロジー企業がAIの活用能力を急速に拡大する中、AIはデータライフサイクルのあらゆる段階で膨大なデータを消費・生成しており、それに伴いストレージ需要も高まっています。
ペタバイト級にも及ぶ大量のデータは、AIモデルに知見を与え、瞬時かつ正確な意思決定を大規模に行うための原動力となります。データ量が多いほど結果も良くなるのがAIの特性です。データの準備や取り込み、モデル学習、推論やプロンプト処理、推論エンジンや新たなコンテンツ生成に至るまで、あらゆるプロセスにおいてAIは異なる機能や特性を備えたストレージソリューションに依存しています。
性能は重要ですが、それだけでは不十分であり、容量、耐障害性、拡張性といった要素なども欠かせません。多くのデータは「一度書き込み、その後読み込む」という性質を持つか、学習やテレメトリ記録のように特定フェーズで集中的に書き込みが発生するという性質を持ちます。さらに、これらのデータは、コンプライアンス対応やモデルの再学習、スナップショットの保持、将来の監査対応など、さまざまな理由で長期間保存されることも少なくありません。すべてのデータに高性能フラッシュが必要なわけではなく、むしろ、AIプラットフォームには高速ストレージ層とコスト効率に優れた層を組み合わせることが求められます。
クラウドやハイパースケール環境を支えるHDD
高容量かつコスト効率の高いHDDは、AIモデルの学習に必要な膨大なデータセットを格納するビッグデータ基盤やデータレイクの土台となっています。これらのデータには、アーカイブされた生データ、動画コンテンツ、オブジェクトストレージ、システムログ、メタデータ、バックアップなどが含まれます。あらゆるAIアプリケーションにおいて、スマートかつスケーラブルで手頃な容量が不可欠であり、そのニーズに応え続けているのがHDDです。
1. コスト効率
AIアプリケーション向けに柔軟なストレージ環境を構築する上で、1テラバイトあたりのコストは極めて重要です。企業は限られた予算を最適に配分し、利用可能なリソースを最大限に活用する必要があります。多くのAIデータはウォームまたはコールドデータであり、大容量HDDはこれを大規模かつ低コストで保存する理想的な選択肢です。Western Digitalの調査によると、HDDはフラッシュストレージに比べ、特に大規模・高容量環境においてテラバイトあたりのコストで6倍の優位性があります。さらに、HDDの記録方式や設計は進化を続けており、容量単価とともにTCO(総所有コスト)も長期的に低下し続けていきます。
2. パフォーマンス
適切なストレージを選択するには、価格と性能のバランスが重要です。重要なのは、ワークロードに最適なソリューションを選ぶことです。HDDは、AIデータライフサイクル全体の幅広いワークロードで安定した性能を発揮し、コストと機能のバランスに優れた選択肢を提供します。過剰な容量に無駄なコストをかけるのではなく、実際のワークロードに応じた性能レイヤーを活用することでTCOを最適化できます。Western Digitalは、顧客の用途やワークロードに応じた明確な価格性能オプションを提供し、最適なストレージ構成の構築を支援しています。
3. イノベーション
HDD技術は日々進化を続けています。エネルギーアシスト磁気記録(EAMR)や、シングル磁気記録(SMR)、ヘリウム封入による最大11枚のディスクが実装可能な3.5インチHDDなど、容量・性能・効率を高めるさまざまな技術革新により、より大容量・高性能・高効率なソリューションが提供されています。将来的には、熱アシスト磁気記録(HAMR)の普及により、HDDの容量はさらに飛躍的に増加すると見込まれています。
ストレージは「どちらか一方」ではなく「階層化」の時代
AIアプリケーションのストレージ要件は多岐にわたります。HDDは、長期的かつ大規模なストレージ需要に対応する基盤として、組織が大容量ニーズを最も効果的かつコスト効率の高い方法で満たすことを可能にしています。HDDはもはや「旧世代技術」ではなく、AIワークロードが求める膨大かつ増大し続けるストレージ需要に対応し、進化し続けるデータインフラの主力です。