デル・テクノロジーズ(以下、デル)は10月3日、年次イベント「Dell Technologies Forum 2025 - Japan」を東京都内のホテルで開催した。基調講演のステージには、グローバルCTO(Chief Technology Officer)・CAIO(Chief AI Officer)のJohn Roese(ジョン・ローズ)氏が登場した。

今年のイベントテーマは「Reimagine What's Possible(可能性を再構築する)」だ。講演では、国内企業のAI活用の状況やデル社内での業務変革の事例などが語られた、同氏の講演をレポートする。

  • 米Dell Technologies CTO & CAIO John Roese氏

    米Dell Technologies CTO & CAIO John Roese氏

無計画または場当たり的なAI採用を避けるべき

Roese氏はまず、AIに関する調査結果を引用しながら業界の最新動向を紹介した。同氏はAIの進展について、「私たちのキャリアの中で、インターネットやモバイルよりも破壊的な変化」だと語った。

同氏が引用した調査結果によると、日本企業の79%が「AI / 生成AIが業界を大きく変革する」と考えている。また、29%が「AIに向けたデータの準備をITの優先事項」に定めているという。

「AIはデータが存在する場所で実行するべきだが、データは一箇所に集中しているわけではない。したがって、一極集中ではなくエンド・ツー・エンドでアーキテクチャを再考すべき」だと、同氏は訴えた。

データの場所だけでなく、コンピュートについても分散化が進んでいる。同様の調査によると、日本企業の31%が「1年以内にAIをソフトウェアで活用し、AI PC上での利用を計画している」と回答した。

  • 約3割の企業がAI PCの活用を計画しているという

    約3割の企業がAI PCの活用を計画しているという

PC端末は単なるクライアントデバイスとして使われるだけでなく、AI活用のプラットフォームとしての役割も持ち始めていることがうかがえる。AIワークロードに最適化された次世代AI PCやシステムの導入も進んでいるという。

そうした環境の中で、「企業における最も重要な資産はコンピューティングでもインフラストラクチャでもなく、データである」と、同氏は強調した。「データが不正確、あるいはデータの質が悪い場合、AIプロジェクトは失敗する」とも、述べていた。

日本企業の61%は「生成AI導入の初期から中期段階にある」そうだ。また、62%が「大きなインフラストラクチャの変更を必要とする重大なコスト課題に直面している」という。その理由は、多くのITインフラ戦略が5年以上前の状況に基づいて建てられているからだ。

5年以上前には、生成AIはこれほど一般的ではなかった。しかし現在は、AIの利用を前提としたインフラストラクチャの構築が求められる。クラウドは高価であり、AIコストが膨大になる可能性があるため、多くの企業はプライベート環境やエッジ、デバイス上など、最適なコスト効率を計画する必要がある。

  • 約6割の企業が生成AI活用の初期から中期段階にある

    約6割の企業が生成AI活用の初期から中期段階にある

「無計画または場当たり的な方法でAIを採用することを避けるべき。自分たちのインフラが、達成しようとしているAIの成果を支えるように設計されているかを考えてほしい」(Roese氏)

デルのAI活用を導いた「4つの自問自答」とは?

デルは企業のAI利用を支援するため、「Dell AI Factory」を展開している。これは、クライアントデバイスから、サーバやストレージなどのインフラ基盤、データ保護、ネットワークなどを広くカバーするエンド・ツー・エンドのポートフォリオで構成される。また、同社テクノロジーパートナーのエコシステムへのアクセスもサポートする。

これまでに、グローバルで3000社以上がサービスを利用開始しているという。標準化されたアーキテクチャを基盤に、自社データや顧客、製品に最適化されたシステムを「Dell AI Factory」で構築している。

また、同社はAI活用に必要なデータの準備を支援するため、「Dell AI Data Platform」を発表。これはベクターデータベースやグラフデータベース、ナレッジグラフなど、生成AIを活用するための適切なナレッジレイヤーの構築をサポートする仕組みだ。

  • 「Dell AI Data Platform」

    「Dell AI Data Platform」

こうしたデルのプラットフォーム拡大の裏には、同社のAI活用の経験が生かされている。CTOとしてより最先端の技術開発を進める一方で、社内のAI利用の責任者(CAIO)の顔も持つRoese氏は、その経験を次のように振り返った。

「データはすでに使える状態か、ユースケースをどのように選ぶべきか、ROI(投資利益率)は得られるのか、そもそも何から始めればよいのか、多くの質問に答えなければならなかった。ただし、このどれかに心当たりがあるのなら、それはあなただけではなく多くのお客様も同じ懸念を抱えている」(Roese氏)

こうした課題を解決するために、同氏らは以下の一連の質問にそれぞれ回答したそうだ。

まず第一の質問は、「なぜAIを活用するのか?」。同社は、単にはやっていてかっこいいからAIに取り組むのではなく、企業として商業的な成功を収めるためにAIを活用するのだと定義した。そのため、企業の成功に影響を与える、収益、利益、コスト、規制リスクへの対応といった指標に注力することにした。

取り組みのターゲットが決まったら、次の質問は「どのように差別化するのか?」。デルは注力すべき指標を定めたので、営業部門、サービス部門、グローバルサプライチェーン、エンジニアリング能力など、優先する分野を決めた。

社内のすべての部門が、収益や利益、コスト、規制要件に同等に貢献しているわけではないからだ。人事、財務、施設は優先しないことに決めた。もちろんそれらが重要でないわけではないが、注力する指標に同じだけの影響力を持つわけでもない。

第三の質問は、「どの部分のプロセスをAIで改善できるか?」というもの。AIプロジェクトを始める前に、AI適用後のプロセスがどう変わり、どのように注力する指標に影響を与えるのかを、事前に検討したそうだ。

そして第四の質問は「それぞれのプロセスの中で、どれが実際に影響を与えるのか?」だった。各プロセスがAI導入によってどのように変わるのかが明らかになれば、時間やコストを要している重要なプロセスの改善に集中できる。

  • デルのAI活用までの道のり

    デルのAI活用までの道のり

「そして最後に、どのAIツールを使うべきかを考えた。多くの場合『AIツールを手に入れたけど、これから何をすればいいのか?』から始まるので、これは少し変に聞こえるかもしれない。当社は、どの問題を解決するのか、どのような成果を求めているのか、どのプロセスに注目しているのか、そのプロセスにどのように影響を与えるのか、それが実現可能かどうかを理解するまでは、AIツールのことを考えもしなかった。そして、それらすべてを把握した上で、AIシステムを構築した」(Roese氏)

営業部門における業務改善の具体例

こうした取り組みの結果について、Roese氏はGo-to-Market領域における営業担当者の業務変革の例を紹介した。

営業担当者が顧客と対話する時間を増やすことを目標に、約2万7000人の業務プロセスを評価したところ、1週間のうち約40%の時間を顧客との商談準備に費やしていることが明らかになったという。

その要因は、必要なコンテンツの検索と、複数のツールを使うことによる混乱だったそうだ。そこでマーケティングリポジトリの10万件のオブジェクトを見直し、8割を廃棄して2万件のオブジェクトに情報を集約した。また、ガードレールを設定して良質なデータが得られるような仕組みを整えた。

そのうえでRAGを搭載した「Dell SalesChat」というアプリケーションを構築し、単一のツールとして担当者に配布した。その結果、一部の地域では週に11時間の余裕が生まれるなど、営業担当者が顧客と対話できる時間の増加に寄与した。

同氏は「重要なのはAIツールそのものではなく、どの問題やプロセスに取り組むかを理解し、それにAIを適用すること」だと解説した。

さらに、「私は少なくとも年に1回は日本に来ているが、この国は前進している。あなたの目には見えないかもしれないが、私は大きな進歩を見てきた。年を追うごとに良くなっている。解決したい課題が明確な企業や、実証に進む企業も増えてきた。本番稼働に至った企業もある。来年また日本にくるころには、多くの皆さんがゴールに到達できているだろう」と、会場に熱いメッセージを送った。