ネットアップは9月30日、2026年度の事業戦略発表会を開催した。発表会では、6月16日付けで同社 代表執行役員社長に就任した斉藤千春氏と、前社長で現在は会長の中島シハブ・ドゥグラ氏が説明を行った。

2025年度の振り返りとビジネスハイライト

最初に登壇した中島氏は、昨年度について「データとインテリジェンスの時代に突入したと宣言した年だった。AIの燃料となるデータを支えるのがネットアップの役割だ。この新たな時代にはサイバーセキュリティとデータガバナンスという2つの課題が浮上する。限られた人員で、これらに対応することは大きな挑戦であり、当社は技術革新を行う企業としてシンプルさを提供するとともに、理想のデータ基盤として『Intelligent Data Infrastructure』を提唱している。昨年はコンセプトを実現するために革新的な技術を次々と発表した」と振り返った。

  • ネットアップ 代表執行役員社長 中島シハブ・ドゥグラ氏

    ネットアップ 代表執行役員社長 中島シハブ・ドゥグラ氏

ビジネスハイライトとしては、売り上げは対前年比成長率5%の66億ドル、オールフラッシュストレージは同14%の41億ドル、サブスクリプション型ストレージサービス「Keystone」は同54%の2億2400万ドル、クラウドストレージは同43%の4億1600万ドルとなり、過去最高記録を更新。

  • グローバルにおけるネットアップのビジネスハイライト

    グローバルにおけるネットアップのビジネスハイライト

この傾向は日本市場でも同様だという。実際、IDCの国内オープンネットワークストレージ市場の調査ではシェア1位を獲得している。

  • IDCの国内オープンネットワークストレージ市場の調査でシェア1位を獲得

    IDCの国内オープンネットワークストレージ市場の調査でシェア1位を獲得

最近では多くの国内企業・組織が仮想化環境の見直しを進めており、これに伴いデータ基盤の再検討に取り組んでいる。その代表的な事例として日本製薬では仮想化基盤としてブロックストレージとして「ASAシリーズ」を採用したほか、京都大学では研究データ管理の高度化を目的にオブジェクトストレージ「StorageGRID」を導入。

さらに、AI関連ではONTAPと連携したリファレンスアーキテクチャの対応に加え、企業向けAIインフラ「NVIDIA DGX SuperPOD」のクラウドパートナーに認定されたことで、AIデータセンターでの活用が進んでおり、NTTデータでも採用されている。

加えて、次世代に向けた先進プロジェクトとして、NTTが提唱する光技術を活用した通信ネットワークとコンピューティングの能力を革新する構想「IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)」、山口大学が実施している地震などの災害シナリオを想定し、衛星インターネットサービスを活用したストレージデータアクセスの実現可能性、実用性の実証実験にそれぞれ参画。

中島氏は「昨今、世界では変化と混乱が常に起きており、その規模・スピードはかつてないほど大きく、企業を取り巻く環境は急速に進化し、その中心にはデータがある。これからの企業成長にはAIに対応したインテリジェントなデータ基盤が不可欠であり、現在の課題への対応、ひいては将来の成長にもつながる重要な土台になる」との認識を示していた。

2026年度の事業戦略とAI時代への対応

次に、斉藤新社長が2026年度の事業戦略の説明に立った。同氏は就任前に日本オラクルで執行役員 クラウドシステム事業統括 統括本部長を務め、それ以前は日本ヒューレット・パッカードに22年間在籍し、ストレージ部門のゼネラルマネージャーなどを歴任してきた。

  • ネットアップ 代表執行役員社長 斉藤千春氏

    ネットアップ 代表執行役員社長 斉藤千春氏

斉藤氏は「先ほども言及された通り、新しいデータプラットフォームのあり方として、当社ではIntelligent Data Infrastructureを提唱し、昨年まではこの方針をもとに新製品投入のフェーズだったが、今年からは現場導入のフェーズに入る。つまり、当社にとって2026年度は“展開の年”であり、社長のバトンを受け取った私の大きなミッションになる」と強調した。

AIの本格的な普及期に入り、AIプラットフォームの重要性が高まっていることを受けて、同社では8月にAIの活用状況について調査を実施した。その結果、国内企業の半数以上がすでに何らかの形でAIの活用をスタートしており、今後の投資においてもAIが最優先事項に挙げていることが判明したという。

  • ネットアップが8月に実施した調査で組織におけるAIの活用は半数以上となっている

    ネットアップが8月に実施した調査で組織におけるAIの活用は半数以上となっている

調査結果をふまえ、斉藤氏は「しかし、AIの成功にはデータプラットフォームの整備が必須事項になる。AI先進国の米国における調査ではAIプロジェクト失敗の最大の要因はデータのアクセス環境の不備が指摘されており、実に85%のプロジェクトがデータプラットフォームの未整備で失敗している。データプラットフォームに関する意識はあるものの、優先度が高い状況とは言えない。また、アンケートではクラウド環境の最適化やセキュリティの強化も高い回答率を得ている。そのため、こうした状況を変えていくことが当社の使命であると考えている」と説明した。

そのような状況をふまえ、同氏は顧客のデータに対するチャレンジは「AI」「クラウドトランスフォーメーション」「サイバーレジリエンス」「データインフラモダナイゼーション」の4つにあると指摘。こうした課題を解決できる新時代のデータプラットフォームが同社が提唱するIntelligent Data Infrastructureというわけだ。

Intelligent Data Infrastructureの国内展開

そして、斉藤氏はIntelligent Data Infrastructureを国内に展開していくにあたり「カスタマーサクセス」、「伴走型アプローチ」「データインフラメーカー」の3つのキーポイントを示した。

  • Intelligent Data Infrastructureを国内に展開していくための3つのキーポイント

    Intelligent Data Infrastructureを国内に展開していくための3つのキーポイント

カスタマーサクセスでは、顧客のAIビジネスの成功と継続していくためにパートナーとともに支援。これに伴いパートナービジネスチームに新たなリーダーを迎え、体制を刷新しており、国内の各パートナーと戦略的なビジネスプランの作成を進めている。

  • カスタマーサクセスの概要

    カスタマーサクセスの概要

伴走型アプローチについては、アプリ開発の分野では当たり前となっているがインフラの分野でも顧客とともに進めていくアプローチが今後必須になるという。そうした考えのもと、SEと営業担当者を1つのペアとして顧客と向き合い、信頼関係を築く体制に移行した。

同氏は「人材不足が課題になっている中でAIの活用が必要になっており、ツールを提供するだけでなく、お客さま、パートナーとともに伴走し、一歩ずつ進めていきたい」と話す。

  • 伴走型アプローチの概要

    伴走型アプローチの概要

ここで、北陸を地盤とするパートナー企業の三谷産業 取締役 DX推進担当 深堀俊彰氏が登壇。同氏は同社とネットアップとの関係性は、2007年にONTAP製品の取り扱いを開始、2021年にパートナーシップを締結してUnified Partnerの認証を取得し、技術者の本格的な育成を開始した。直近1~2年ではパートナーアワードを受賞するなど戦略的パートナーとして北陸の企業に対して、ネットアップ製品の導入を支援している。

最近ではネットアップ製品の引き合いが多くなっており、その背景として地域の課題を解決してくれる点にあるという。特に北陸では人材不足が喫緊の課題となっており、労働人口の減少スピードが早いため、AIやデジタル技術を活用し、加速度的に効率化させたいと企業では考えている。しかし、データインフラモダナイゼーションとサイバーレジリエンスがボトルネックになっているとのこと。

深掘氏は「ネットアップさんはバックアップやDR(ディザスタリカバリ)サイト構築など、データの可用性を高めるための課題をワンストップで解決できるほか、データインフラ再構築に向けた“攻めのソリューション”でありつつ、ストレージでデータも守るソリューションのためサイバーレジリエンスも実現できる。今後、ネットアップさんとともに当社のお客さまのデータ活用とAI活用を盛り上げていきたい」と述べている。

  • 三谷産業 取締役 DX推進担当 深堀俊彰氏

    三谷産業 取締役 DX推進担当 深堀俊彰氏

“ぶっちぎりNo.1”のシェア獲得へ

再び斉藤氏にスピーカーが変わり、3つのキーポイントの最後としてデータインフラメーカーについて説明した。同氏は「三谷産業さんとのパートナーシップのように、パートナー企業とは、これまでのお互いのビジネスをさらに高いレベルに発展させていきたいと考えている。そのためにはお客さま、パートナーにIntelligent Data Infrastructureを認知してもらう必要がある」という。

認知拡大に向けては、産業ごとの事例を可能な限り分かりやすく発信していく。また、個別顧客の要件を具体化するため昨年に日本オフィスに設置した「Intelligent Data Infrastructure Experience Center」を強化し、国内の専任チームを新たに組織するとともに、グローバルチームと横連携することで最新のアップデートを共有することを目指す。これらの取り組みを通じて、同社では認知度の向上を図る考えだ。

  • データインフラメーカーの概要

    データインフラメーカーの概要

最後に、斉藤氏は「これからの日本市場はAIをはじめ、先進的なIT技術が普及期を迎える。その中でもデータの重要性、とりわけデータインフラの課題は急務。当社はIntelligent Data Infrastructureを国内に広めていくことで、日本を元気にしたいと考えている。また、このコンセプトをお客さま、パートナーと進めていくことで、当社のビジネスも自ずと成長する。国内市場ではシェアトップとなったが、各社ともに均衡状態のため“ぶっちぎりNo.1”を目指す」と力を込めていた。