【スマホアプリで病気を治す!】 後発薬大手・沢井製薬が進める〝減酒治療アプリ〟

治療アプリの先駆けと協業

「コロナ禍でジェネリック医薬品(後発薬)のMR(医薬情報担当者)が医療機関で働く医師と接する機会がほとんどなくなった。しかし、〝治療アプリ〟の登場で説明を求める声が強まっている。医師との接点をもう一度復活させる好機にもなる」─。新サービスにこう期待を込めるのはジェネリック大手・沢井製薬社長の木村元彦氏だ。

 同社は医療スタートアップのCureAppとアルコール依存症患者向けの「減酒治療アプリ」を開発・販売。アルコール依存症に対する国内初の公的医療保険が適用される治療用アプリでもある。沢井製薬にとっても初の治療用アプリの販売となり、主力事業のジェネリック医薬品事業に加えて、疾病の予防・診断へと事業の枠を拡大させることにもなる。

 そもそも治療アプリとは治験によって医学的エビデンスが示され、薬事承認された治療用のアプリケーションのことを指す。そのため、患者一人ひとりに最適化した治療方法を医師が処方可能だ。場所を選ばず、どこでも使える上に、生活習慣の改善にも効果的と見られている。

 現在、病気の患者に医師が行う治療法は大きく分けて2つだ。1つは薬による治療であり、もう1つが医療機器を用いた手術を含む治療だ。そこで両社はソフトウエアという新しいツールを用いて病気を治す〝第3の治療法〟の確立を目指している。木村氏も「新たな治療選択肢として、患者本人のみならず、その家族にとっても喜ばれる存在になりたい」と強調する。

 今回、両社が開発した治療アプリは減酒治療補助アプリ「HAUDY(ハウディ)」。9月1日から発売された同アプリでは、患者が持っているスマホを通じて、日々行う飲酒記録や心身の状態確認のほか、ストレスケアや飲酒量低減のための基礎知識をアプリ内で学習することで患者の飲酒習慣の修正を行う。医師もそれを確認でき、診察の質が高まることにつながる。

 沢井製薬は2024年8月にCureAppと販売ライセンス契約を締結。国内におけるアルコール依存症を適応としたアプリの独占販売権を獲得した。そのCureAppは〝治療アプリの先駆け〟とも言える。

 同社は14年に医師の佐竹晃太氏ともう1人の医師の2人で創業。慶應義塾大学を卒業した後、日本赤十字社医療センターなどで呼吸器内科医として勤務した佐竹氏が米ジョンズ・ホプキンス大学留学中に糖尿病に特化した処方用の治療用アプリに関する論文に出会った。読み終えた佐竹氏は「糖尿病だけでなく、生活習慣を改善するための行動変容にもつながる。可能性の広さを強く感じた」という。

 治療アプリの開発に動き出した佐竹氏は20年にスマホで動作する疾患治療用プログラム医療機器(治療アプリ)として、禁煙治療領域において世界初の製造販売承認取得と保険適用を実現。22年には高血圧治療領域でも治療アプリを実現させた。

治療アプリを新たな収益源に

 一方、ジェネリック医薬品事業で「販売数量、シェア共にナンバーワン」(木村氏)を自負する沢井製薬だが、ジェネリック医薬品を巡る厳しい環境に直面している。ジェネリック医薬品を巡っては、もともと政府が医療費削減の手段として普及を促進し、22年に数量シェアが8割を超えた。しかし、21年以降、同社を含むジェネリック大手が品質に係る行政処分を受け、感染症の流行なども相まって供給不安が長期化しているのだ。

 ジェネリック医薬品は先発薬とは違い、少量多品種生産のため収益性が低い。1つの品目に複数の企業が参入するため、各社の製造量は低い水準にとどまる。また、「1つの品目の製造が終了すると、その製造ラインの洗浄作業を行った後、すぐに次の品目の製造を開始するといった製造スケジュールで、年間の綿密な製造計画に沿って製造ラインをフル稼働させている」(関係者)。そのため、「急遽需要が増加しても増産が難しい」(同)。

 沢井製薬の親会社であるサワイグループホールディングスの25年3月期の営業利益率は2.1%に過ぎず、先発薬メーカーの中外製薬(24年12月期で46.3%)や第一三共(25年3月期で17.6%)と比べても大きく見劣りしている。

 そんな中での沢井製薬の治療アプリの投入はアステラス製薬が開発中であることを除き、大手先発薬メーカーより先を走ることになる。新薬の開発では開発費が1件当たり数千億円とも言われるが、治療アプリの開発コストは低い。さらに冒頭の木村氏の発言のように、医師との接点が増えれば、新たなジェネリック医薬品を売り込む突破口にもなり得る。同社は4月に「デジタル医療機器推進室」を社内に新設し、専任MRの配置にも取り組んでいる。

 佐竹氏は「沢井製薬はジェネリックという一昔前ではなかった概念を世の中で当たり前のものにした確かな実績がある」と指摘し、「治療アプリという新産業をつくる」という点で期待感を示す。24年度の医療費は約48兆円で過去最高を更新し、4年連続で増加。ジェネリック医薬品の使用割合は9割を突破し、薬剤費の抑制は進んでいる。

 ただ、中長期的には高齢化で医療費は増加の一途。新たな治療手段としての治療アプリをどれだけ一般的な治療法として根付かせることができるか。沢井製薬の腕の見せ所となる。

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