2025年9月17・18の両日、大阪・関西万博会場内のメッセ「WASSE」において「Global Startup EXPO 2025」(GSE2025)が開催された。同イベントは世界中から多彩なディープテック(地球規模の課題解決に寄与する革新的技術)のスタートアップが一堂に集結して技術や製品・サービスを紹介するとともに、起業家・投資家や政官学財各界著名人を含むスタートアップエコシステム関係者が各々の視点でディープテックの未来を語り合う一大イベント。
本稿では、冒頭に行われたセッション「グローバルなスタートアップエコシステムに向けて」の内容を中心に、17日のプログラムの模様をダイジェストでお届けする。
日本政府のスタートアップ支援策と成果を岸田前首相が語る
オープニングスピーチには、NVIDIA創業者/CEOのジェンスン・フアン氏と日本貿易振興機構(JETRO)理事長の石黒憲彦氏が登場。まず石黒氏が開会のメッセージを述べたあと、フアン氏からのビデオメッセージが流された。フアン氏は「日本はNVIDIAにとって重要な存在です」と語り、企業や大学と革新的技術の開発や活用に取り組んでいる事例を披露した。
オープニングスピーチに続いて、岸田文雄前首相、藤井輝夫東京大学総長が登壇し、それぞれ講演を行った。
岸田氏は2021年の総理就任後、「新しい資本主義」という経済モデルを掲げて人材、科学技術・イノベーション、スタートアップ、GX・DXに重点投資を行ってきたが、とりわけスタートアップ支援は社会課題解決を担う重要な政策に位置づけ、「スタートアップ育成5か年計画」に取り組んできたと話した。そのうえで「2022年、日本政府として初めて策定した包括的スタートアップ支援戦略であるこの計画は、日本をアジア最大級のスタートアップハブ、世界有数のスタートアップ集積地にすることを目指しています」と語った。
この目標実現に向け、人材、資金供給、オープンイノベーション推進の3本柱を掲げて環境整備を進めた結果、「この3年で成果は着実に生まれつつあります」と岸田氏は強調した。例えば、2021年に1万6000社だったスタートアップは現在約2万5000社に増加。イノベーションの源泉となる大学発スタートアップも2024年度には5000社を超え、しかもここ1年の増加分のおよそ6割が地方で創業しているとして、「スタートアップの波が日本全国に及んでいる証」と話した。
ただし一方で、ユニコーン企業がまだまだ少ないなど日本のスタートアップエコシステムに課題が残っていることにも言及。岸田氏は「政府と民間がもう一段ギアを上げ、エコシステムの高さを伸ばす努力を続ける必要がある」と力を込め、「カギを握るのはディープテックスタートアップの飛躍です。日本が有する技術力と研究蓄積を最大限活かして産学連携でイノベーションを起こし、グローバル市場で戦えるスタートアップを育てていくことが肝要です」と語った。
アカデミア発ディープテックの発展に向け東京大学が繰り出す打ち手
東大総長の藤井氏は「これからの世界に求めるアントレプレナーシップ教育」をテーマに講演した。同氏は、2021年の東大入学式でディープテックスタートアップ推進への思いを学生に語りかけ、2030年までに東大関連のスタートアップを700社にしたいと話したエピソードを紹介。「実は、2024年段階で638社に達しており、2030年までまだ5年あることを考えれば目標が低すぎたかもしれない、といえるほど大学発スタートアップは活発になっています」と現状を解説した。
この背景について、東大では投資事業会社・東大IPC、ベンチャーキャピタルの東京大学エッジキャピタルパートナーズ(UTEC)、研究成果の特許化・ライセンスを担う100%子会社のTLO(Technology Licensing Organization)などが活動し、「20年を超えるエコシステムが出来上がってきたことが、スタートアップを生み出す好循環につながっています」と話した。
また、藤井氏は学生向けに展開している「アントレプレナー道場」にも言及。すでに受講者は累計6000人に達し、起業する学生が増えていること、複数企業のサポートを受けたディープテックのアントレプレナー講座によりビジネス化に向けた支援を強化していることなどを挙げた。そのうえで、スタートアップのエコシステムをグローバルにつなぎ、ディープテックに関する研究成果のアウトカムを事業化に導くため一気通貫でサポートしていくことが重要だとし、実際に多様なプログラムを実施していることを説明した。
両氏の講演後は、モデレーター役として米スタンフォード大学客員研究員のグレン・S・フクシマ氏が加わり、岸田氏、藤井氏とスタートアップの未来に向けて意見を交わした。岸田氏は最後に「日本のスタートアップが、地球規模の課題解決と経済成長の両立に大きな役割を果たせることを信じていますし、期待をしています」と力強い言葉で締めた。
百花繚乱のスタートアップブース展示、そのごくごく一部を紹介
GSE2025の会場は、中央に総勢約150に及ぶ各ディープテックスタートアップのブースが所狭しと並び、その周りに多様なセッションが催される3つのステージが設けられていた。
初日、各ステージでは同時進行で、ディープテックの成長に向けた投資やスタートアップが飛躍するために必要な要素といった全体的視点に基づくセッションに加え、再生医療、宇宙事業など個別テーマでの座談会も多数開催されていた。
例えば「量子技術の進展により台頭する新たなビジネス」のセッションでは、量子技術に関するスタートアップ創出が進む現在とビジネス化に向けた課題について議論された。このほか、さまざまなスタートアップが自社ソリューションに関するピッチイベントを繰り広げるステージが用意され、参加者たちが熱心に耳を傾けていた。
中央スペースでのブース展示は「健康と長寿」「豊かな生活」「人口に頼らない社会」「地球との共存」「新技術のルールメイク」の5つのテーマに分けられ、バイオやヘルスケア、新素材、食料・農業からモビリティ、ロボティクス、次世代エネルギー、さらには宇宙、AI、量子技術まで、まさに百花繚乱と呼べるテクノロジー博覧会の様相を呈していた。バラエティあふれるブースの中から筆者の目に留まったいくつかを紹介する。
アークエッジ・スペース
すでにさまざまなミッションで採用されている衛星汎用バスを軸に「衛星を通じて、人々により安全で豊かな未来」の実現を目指す。
クリーンプラネット
東北大学と共同開発したCO2排出ゼロの安全かつクリーンな「量子水素エネルギー(QHe)」。エネルギー問題と気候変動の解決に寄与する。
Thinker
深刻な人手不足の現場において、作業の自動化を低コストで可能にする、繊細な指の動きを再現したバラ積みピッキングロボット。
インターホールディングス
独自の真空技術を活かした製品開発で食品の鮮度を維持。ブースでは蔵出しの日本酒をそのままに詰め込んだサーバーを展示していた。
MANTRA
日本が誇るコンテンツであるマンガとAIをかけ合わせた技術により、マンガを読んで英語を学習できるサービスを展開する。
多種多様なブース展示の周辺には打ち合わせのためのエリアも多数設けられ、ビジネスミーティングが活発に行われていた。GSE2025が、最先端の科学的技術と革新的発想による地球規模課題解決はもちろん、ビジネス面でもディープテックスタートアップ発展の重要な契機となることを期待したい。






