ソフトバンクは9月18日、メディア向けにオンラインで説明会を行い、HAPS(High Altitude Platform Station:成層圏通信プラットフォーム)向けの、6セルに対応した大容量のペイロード(通信機器)を新たに開発し、上空からの5G(第5世代移動通信システム)通信の実証実験に成功したと明らかにした。なお、実証実験の一部は、情報通信研究機構(NICT)の「革新的情報通信技術(Beyond 5G(6G))基金事業」の委託研究課題として、2023年に採択された「Beyond 5Gにおける超広域・大容量モバイルネットワークを実現するHAPS通信技術の研究開発」(JPJ012368C07701)の一環で実施した。
HAPSで着実な実績を積み重ねる
ソフトバンク テクノロジーユニット統括 基盤技術研究室 無線技術研究開発部 部長の星野兼次氏は「現在、当社は衛星とHAPSのNTN(非地上系ネットワーク)、従来からの地上のモバイルネットワークをシームレスに連携させることで、地上エリアのみならず上空を飛行するドローンや、将来的には空飛ぶクルマへの通信サービスの提供を目指し、三次元ネットワークの構築に取り組んでいる」と述べた。
続けて、HAPSについて星野氏は「気流の安定した成層圏から通信サービスを提供するものであり、地上の通信サービスよりも広域なエリアにサービスを提供できることが最大の特徴。災害時でも途絶えない通信サービスの提供や、デジタルデバイドの解消、三次元空間向けの通信を提供することができる」と説明した。
同社では、HAPSの開発に積極的に取り組んでおり、機体開発については2020年と2024年に成層圏フライトの成功、通信技術では2023年に成層圏からの5G通信に成功し、要素技術では太陽光パネルや電池、モーターの軽量/高効率化に成功。
そのような状況をふまえ、星野氏は「HAPSのネットワーク構成には、端末とHAPS間のサービスリンク、HAPSとゲートウェイ間のフィーダリンク双方の開発が不可欠」と話す。
HAPSを支える技術
これまでに、ソフトバンクではサービスリンクアンテナであるシリンダーアンテナを活用して「フットプリント固定」「エリア最適化」「周波数共用」などサービスリンクの要素技術の実証実験に成功している。
フットプリント固定技術とはHAPSの移動や姿勢の変化に応じて、機体に搭載されたペイロードからの電波の向きを変えることで、地上に形成される各セルの通信エリア(フットプリント)を安定的に維持する技術であり、機体の動作によらず安定した通信品質を維持できることを実証している。
エリア最適化は、HAPSでカバーする通信エリア全体の通信容量などを最大化し、シリンダー形状の多素子フェーズドアレイアンテナ「シリンダーアンテナ」で縦、横にアンテナが張り巡らされている。それぞれの方向のビーム幅を制御し、トラフィックの需要が高いエリアに複数のセルを割り当て、低いエリアには広いエリアを作り、エリア全体におけるセルの配置の最適化を行う。
周波数共用技術は、周波数の有効利用の観点でHAPSと地上システムで同一の周波数を利用することが考えられ、干渉の発生が懸念されるためヌルフォーミングと呼ぶ、HAPSと地上システムとの周波数共有を実現する技術を活用している。
八丈島における実証実験の概要
今回の実証実験では、同社は2025年6月に東京都の八丈島で高度3000メートルに滞空する軽飛行機に新たに開発した6セル対応のサービスリンク/フィーダリンク結合構成のペイロードを搭載し、上空からの5G通信と6セルのフットプリント固定技術の実証実験を行った。開発したペイロードは、サービスリンクの装置とフィーダリンクの装置を結合させたものだ。
軽飛行機は八丈島の上空を旋回しながら高度3000メートルに滞空し、基地局と携帯端末間の上り/下りの信号を無線中継し、フィーダリンク装置はビームトラッキング、受信レベル補償、ドップラーシフト補正などの機能を搭載しており、26GHz帯の電波を利用して6セルの信号を無線中継した。
サービスリンク装置は、セルごとにデジタルビームフォーミング制御によるフットプリント固定を行い、1.7GHz帯の電波を利用して、下図に示す機体下部のサービスリンクアンテナ(シリンダーアンテナ)から、方位角60度ごとの全6セルで構成される円形の通信エリアを地上に形成。
これらのシステム構成により、広域のフットプリント固定性能および遠方における基地局と携帯端末間のスループットを評価した。
通信エリア内の受信レベルを測定したところ、軽飛行機の旋回位置を中心とした方位角360度の円周上において、最も受信電力の高いセルが60度ごとに切り替わっていることを確認(図3)。これは、機体の旋回によって位置や姿勢が変化しても、各セルのエリアは地上に固定されていることを意味しているという。
また、携帯端末を使用してスループットの測定を行ったところ、軽飛行機の旋回の中心から15キロメートルの地点で下り平均約33Mbpsを達成し、通信エリアの端においてもサービスリンク/フィーダリンクを介したエンド・ツー・エンドの5G通信が可能であることを確認した。
なお、機体の旋回中心から15キロメートル地点における高度3000メートルの機体の仰角は約11度で、これはエリア半径100キロメートル地点における高度20キロメートルのHAPSの仰角と同等なため、HAPSのカバーエリアの端に相当する周辺環境でも通信を維持できる見通しが得られたとのこと。
今後、同社では実証実験で得られた結果やノウハウを生かしてペイロードの改良を進め、さらなる大容量化とHAPSの商用サービスでの実装を目指す考えだ。








