AIの普及スピードは、電気やインターネットをも凌駕する--。Anthropicが9月16日に発表した最新の「Anthropic Economic Index」は、生成AIの導入が世界経済や労働市場に与える影響を多角的に分析したものだ。同レポートでは、AIの利用動向、地域別の採用格差、企業のAPI利用パターンなどを詳細に示し、今後の社会構造の変化を示唆している。

過去の技術と比較しても最速の普及スピード

レポートによると、米国における業務利用率は2023年の20%から2025年に40%に倍増し、これは電気やパソコン、インターネットといった過去の技術革新と比較しても、最速の普及スピードとのこと。背景には、既存インフラ上での容易な導入、自然言語による直感的な操作性、そしてモデル性能の急速な向上があるようだ。

過去8カ月間のClaude.ai利用データでは、教育関連タスクの比率が9.3%から12.4%、科学関連が6.3%から7.2%に増加。特に教育現場での教材作成や科学分野でのデータ解析支援が目立つ。

一方、プログラミング関連では、新規コード作成が増加する一方、デバッグ用途は減少。これは、AIを「補助」ではなく「主体」として活用する傾向を示している。さらに、完全委任型の「指示型」会話は27%から39%に増加。ユーザーがAIにタスクを丸ごと任せるケースが増えており、これには信頼性の向上とモデルの高性能化が背景にある。

国別ではシンガポールがAIの採用で突出

AIの採用には顕著な地域差が存在している。一人当たりのClaude利用は技術先進国に集中している人口規模の違いを考慮するため、労働年齢人口で調整した利用状況を分析し、新たな指標「人類中心AI利用指数(AUI)」を導入。各地域について、Claude利用シェアと労働年齢人口(15~64歳)シェアを算出し、次にこれらのシェアを割り算してAUIを算出した。

この指標は、各国が労働年齢人口に対して予想以上にClaudeを利用しているか否かを明らかにしており、AUIが1を超える地域は人口調整後でも予想以上の利用率を示し、AUIが1未満の地域は予想以下の利用率となる。結果から、小規模で技術先進的な経済圏に利用が集中する顕著な傾向が浮かび上がる。

イスラエルは一人当たりClaude利用率で世界首位となり、Anthropic AI利用指数は7を記録した。これは同国の労働年齢人口が、人口規模から予想される利用量の7倍に相当するClaudeを利用していることを意味する。シンガポールが4.57で続き、オーストラリア(4.10)、ニュージーランド(4.05)、韓国(3.73)が一人当たりClaude利用率上位5カ国となった。

  • AnthropicのAI利用指数による上位20カ国

    AnthropicのAI利用指数による上位20カ国

米国内では、ワシントンD.C.(3.82)、ユタ州(3.78)がトップとなり、用途別ではカリフォルニアはIT、フロリダは金融、D.C.は文書編集やキャリア支援での利用が多い。

高い採用率の地域では教育・科学・ビジネスなど多様な用途が見られるのに対し、低い採用率の地域ではコーディングに偏る傾向があり、AIの恩恵が高所得国や都市部に集中して経済格差を拡大させるリスクを示唆している。

研究者や政策立案者による分析を促す

企業によるAPI利用では、77%が自動化パターンで利用(Claude.aiは約50%)しており、コストよりも高機能なタスクを優先する傾向が強く、業務効率化や新規サービス開発に直結している。一方で、高度な利用にはデータ整備や組織改革が必要であり、導入のボトルネックとなっている。

AIの急速な普及は、労働市場に二極化をもたらす可能性がある。AIを活用できるスキルを持つ人材は需要が高まる一方、適応できない層はリスクに直面するほか、地域格差の拡大は国際的な経済不均衡を深刻化させる恐れがあると指摘。

同社は、今回のデータをオープンソース化し、研究者や政策立案者による分析を促している。AIの恩恵を広く社会に行き渡らせるためには、教育・スキル再訓練、インフラ整備、倫理的ガイドラインの策定が不可欠だという。