さくらインターネットは8月26日、生成AI向けクラウドサービス「高火力」の活用事例と今後の展望に関してメディア向けに説明した。活用事例はティアフォーの大里章人氏が解説した。

生成AI市場で推論ニーズが急拡大

まず、さくらインターネット 執行役員の霜田純氏が同社のAI戦略について説明に立った。同社では、大規模なクラウドインフラが存在しない日本においてAIの発展を加速させ、GPUリソースを安定供給確保するため、2027年度までに約1000億円を投じて合計18.9EFLOPS(エクサフロップス)の大規模クラウドインフラの整備を石狩データセンター(北海道石狩市)で進めている。

  • さくらインターネット 執行役員の霜田純氏

    さくらインターネット 執行役員の霜田純氏

2023年6月に経済安全保障推進法に基づく特定重要物資である「クラウドプログラム」の供給確保計画に関する経済産業省の認定を受け、2024年4月にも同認定を受けている。

2025年3月期にNVIDIAのGPU「H100」「H200」を中心に2840基、今期(2026年3月期)はすでに1472基の設置が完了し、計算能力は昨年から倍増以上の4.81EFLOPSを達成している。今年8月にはベアメタル型GPUクラウドサービス「高火力 PHY」の新プランとして、NVIDIAの「Blackwell GPU」が利用できる「B200 プラン」の提供を開始。

石狩データセンターでは、今期中に1100基のGPUを設置するとともに、第2期コンテナ型データセンターの構築を予定し、2027年3月期以降は第3期コンテナ型データセンターの構築を予定するなど、AIの需要に対応している。

  • AI基盤事業整備スケジュール

    AI基盤事業整備スケジュール

こうした積極的な投資を進めると同時に高火力シリーズとしてPHYに加え、VM(仮想マシン)型GPUクラウドサービスの「高火力 VRT」、コンテナ型GPUクラウドサービス「同DOK」を提供している。

  • 高火力シリーズの概要

    高火力シリーズの概要

こうした同社の積極的な攻勢は市場予測にも表れており、国内生成AI市場は、特にプラットフォームやインフラ領域で高い成長率が見込まれ、2028年度には1兆7397億円と予想されている。一方で霜田氏は事業環境に変化が起きていると話す。

同氏は「われわれの想定よりも早期に推論のニーズが急拡大している。そのため、先行準備していた生成AI向けサービスを早期に市場投入して対応する。ただ、学習・開発用途のニーズが減退したかと言えばそうではない」と断言する。

さくらインターネットのAI戦略とは

霜田氏によると、推論のニーズの拡大は学習・開発したAIをマネタイズできるという市場が形成されつつある一方で、ニーズの拡大により「学習・開発をしたい」と考えるユーザーの意欲を刺激する側面もあるとのことだ。

同氏は「昨年は学習・開発向けにインフラを提供していたが、推論のニーズ拡大で学習・開発のニーズも広がっている。こうした中で当社は高火力シリーズや生成AIプラットフォーム、クラウド型スパコン『さくらONE』など、学習・開発のみならず推論や実際の利用を含めたさまざまなユースケースに対応するサービスを提供していく」と力を込める。

そして、同社におけるAI戦略の全体方針として「GPU資源の価値提供の向上×売る力の向上」を示した。GPU資源の価値提供の向上では、前述したサービス群を柔軟に提供し、導入から運用まで支援することで付加価値を高めていく。また、GPUのスパコン化による高稼働率の実現や、生成AIプラットフォームなどのクラウド型サービスに注力し、1台あたりのリソース活用の効率を最大化する収益モデルにシフトする。

  • AI戦略の全体方針

    AI戦略の全体方針

学習・開発向け戦略は、さくらONEとB 200を早期に提供し、大口・エンタープライズニーズにこたえる差別化戦略に取り組むことに加え、推論用途向け戦略では国産クラウドと手厚いサポートという強みを活かし、自由度が高く柔軟性のあるプラットフォームサービスを提供することで計算基盤あたりの収益性を向上させる。

  • 学習・開発向けから推論までをカバーする

    学習・開発向けから推論までをカバーする

売る力の向上では、AI事業に関する機能を1つの部門に集約し、戦略・企画・開発・営業が連携するために「AI事業推進室」を新設。

  • 「AI事業推進室」を新設した

    「AI事業推進室」を新設した

また、新たにリセラーパートナー制度を導入し、再販経路からの案件獲得を本格化する。すでに複数社と高火力シリーズの再販契約を締結済みであり、今後も順次拡大を予定し、パートナー経由で新たな業界や顧客層への販路拡大と売り上げの向上を図る考えだ。

生成AI向けサービスにおける今後の販売計画として、今期は継続見込みの大型案件終了の影響で当初の158億円から90~110億円に下方修正しており、来期は一連の施策の展開で成長加速を見据え、200~300億円を計画し、従来想定の水準で据え置いている。

自動運転分野での生成AI活用事例、ティアフォーの場合

続いて、ティアフォーの大里氏が導入事例を紹介した。同社は「自動運転」の民主化を掲げ、自動運転に関連する持続的なエコシステムをさまざまな側面から構築し、世界初のオープンソースの自動運転ソフトウェア「Autoware」の開発を主導し、自動運転システムの社会実装に取り組んでいる企業だ。

  • ティアフォーの大里章人氏

    ティアフォーの大里章人氏

製品はAutowareをベースにした開発運用プラットフォーム「Web.Auto」、自動運転ソフトウェアプラットフォーム「Pilot.Auto」、自動運転リファレンスプラットフォーム「Edge.Auto」を展開。2016年以降、全国97の地域で自動運転の実証事件を行っており、自動運転移動サービスの事業化も推進している。

  • ティアフォーの事業概要

    ティアフォーの事業概要

一口に自動運転と言っても周辺の環境をさまざまなセンサが捉えて認識し、認知・判断・制御のループを回しており、特に都心は周辺の情報量が多く、技術的な難しさがあるという。

自動運転システムは100ミリ秒周期で更新し続け、必要であれば開発サイクルの中で追加学習し、トレーニング、ビルド、テストを経てデプロイされる。そのため、高難易度の状況に対して、自動運転を適用するためにAI技術が非常に重要なキーポイントになるとのことだ。

従来、自動運転で用いていたAI技術はディープラーニングが主流だったが、近年では200~300メートル先の物体情報の認識など高難易度化が進んでいるという。同氏は「“エンドツーエンドAI”という形で複数もしくは単一のAIモデルに置き換えて最適化する手法などが出てきている」と話す。

例えば、安全性を評価する際に人間が考えたシナリオだけでは不十分であり、網羅的なテストを行うときのシミュレーションやデータ収集、データの匿名化などにAI技術が必要になるという。このようなAI技術を開発するにあたり、GPUサーバが学習、推論の両面で重要だという。

高火力シリーズ「PHY」「VRT」を選んだ理由

同社では、課題としてスタートアップのためGPUサーバを大規模に活用するにはハードルが高すぎるということがあった。そのため、高火力シリーズのPHYとVRTを採用した。

大里氏は「インフラ構築コストが大幅に低減される。オンプレミスの場合、数千万円単位のコストがかかり、サービスとして提供しているのは非常にありがたい。また、導入もスピーディであり、契約後1日で立ち上げることができたほか、サポートが手厚い」と、そのメリットを説く。

  • ティアフォーでは高火力シリーズ「PHY」「VRT」を採用した

    ティアフォーでは高火力シリーズ「PHY」「VRT」を採用した

自動運転システムがセンサで取得した物体や環境などの情報を学習するために活用し、高度な判断・認識をさせている。また、開発におけるテストの際にAIがシミュレータを構築するほか、学習データが不足しているときに人工的なテストデータ生成、データの匿名化などに利用している。

PHYは社内でもある程度、利用の見込みが付いているなど要件が揃っている案件で活用し、VRTは小規模でフレキシブルな利用やパートナーとの共同開発といった場面で利用しているとのこと。

今後の展望について、大里氏は「自動運転2.0の潮流の中でAIモデルで全体を最適化するとともに高性能かつ安全なシステム構築を目指している。当社はエンドツーエンドAIモデルをサポートするフレームワークのプラットフォーマーとして、さまざまなユースケースに対応させながら組み合わせ、利用することを考えている。国内外のエンドツーエンドAIモデルを類型化し、ニーズに合わせてハイブリッドな形で利用可能にする。また、パートナーも含めて多様なデータを集め、AIモデルを構築していく」と意気込みを語っていた。

  • エンドツーエンドAIモデルをサポートするフレームワークのプラっとフォーマーを目指すという

    エンドツーエンドAIモデルをサポートするフレームワークのプラっとフォーマーを目指すという