フードデリバリーサービス「Uber eats」や短期労働スタイル「ギグワーク」などで注目されている世界的な企業Uber。だが、その本業は、乗客とドライバーをマッチングするモビリティプラットフォームの運営だ。同社は国内においても一部業務を制限しつつも地元タクシー会社と連携し配車サービスを提供、コロナ禍後のインバウンド需要増加に対応し積極的な事業展開も行っている。
8月5日に開催されたインバウンドイベント「THE INBOUND DAY 2025」においてUber Japanの永妻玲子氏が登壇し、Uberの日本での事業の展望やインバウンド対応、地域経済活性化への取り組み、今後の自動運転の導入などについての講演を行った。本稿では、講演の模様をお届けする。
Uberの日本におけるサービス展開の現在地
Uberは米国サンフランシスコで2010年に創業したベンチャー企業。創業者の1人が「どうすればボタンひとつで車を呼べるだろうか」というシンプルな疑問からサービスが生み出され、現在は人だけでなく食材、日用品など、さまざまなデリバリーも含めたサービスを提供しており、そのモビリティプラットフォームは世界70カ国以上、1億6000万人に利用されている。
日本では、2012年からタクシー事業に取り組み、2018年からサービスを開始。現在は全国で約500社のタクシー会社と提携、現在順次エリアの拡大を行っている。同社は日本では大きく分けてタクシー、ハイヤー、ライドシェアの3つの事業を展開。タクシーは「Uber Taxi」、ハイヤーは「Uber プレミアム」、ライドシェアは東京、京都、大阪などで展開している。
「Uber プレミアム」では、5人乗りで大きな荷物の積載なども可能な大きめの車両を用意、空港からホテル、観光地を巡りたい訪日外国人から好評を得ているという。海外でUberの一般ドライバーと乗客をマッチングさせる同社のライドシェアサービスは日本では法制度上難しく、日本においては日本版ライドシェアサービス、さらに地方における地域密着型公共ライドシェアの2種類のサービスで対応している。同社のサービス利用者の約8割が訪日観光客になるという。
同社のコアサービスともいえるUberアプリは50の言語に対応、ユーザーは、母国語のまま安心して日本でも操作、利用できる。また、チャットの自動翻訳機能は、日本人のドライバーとの待ち合わせ場所等のやり取りなどに便利で多くのユーザーに好評だという。
特徴的な機能としてドライバーと乗客、両方による総合評価制度も利用できる。乗客が運転手を評価するのは一般的だが逆に運転手が乗客を評価するこの制度について、永妻氏は「相互に評価し合うことで気持ちのいい関係性を保つことができる」と説明した。最近では、アプリのマッチング効率も上がり自社調べで車両の平均到着時間が3分23秒となったという。
また、若年層やシニア層向けの新サービス「Uber Teens」「Uber シニア」を展開。「Uber Teens」は、13歳から17歳の子どもを対象に保護者が配車アプリを通じて、子どもの配車状況の確認、暗証番号による車両の認証、乗車確認、乗車中の録音、降車確認など、一連のサービスを提供するもの。塾や習い事の送迎に安心して利用できる。「Uber シニア」は、同サービスの高齢者版となる。
上記のように、さまざまな配車サービスを展開し、日本でも存在感を見せているUber。そんな同社がコロナ禍後の活性化するインバウンド需要へどのような対応を行っているのだろうか。
インバウンド需要におけるUberの3つの強み
永妻氏は、日本のインバウンドは移動手段と言語、交通や情報の公開において課題を抱えていると指摘した。これは、2024年7月に世界15の国・地域を対象に行われた電通の「ジャパンブランド調査2024」などでもその結果が現れている。
これらの課題解決に関して永妻氏は、「Uberは3つの強みがある」と語った。
1つ目の強みは世界共通で利用できるUberアプリだ。世界50カ国の言語に対応するアプリは本国にいた時と同様にサービスを利用できる点は外国人にとってメリットが大きい。これにより言語の課題の大半を解決できる。
2つ目の強みは、アプリの中で完結する決済システムだ。外国においては利用できる通貨や対応する決済システム等、観光客は多くの困難にぶつかるが、同アプリを利用することで自国にいる時と同様、スムーズに決済できる。
最後の3つ目がアプリでのインバウンド向け広告サービスの存在だ。これにより訪日客をターゲットにした広告を出すことができ、来日中だけでなく、来日前にもユーザーにアプローチすることができる。
また、同社では中国で人気の「WeChat」上でUberミニアプリの提供を行い、それにより中国本土からの利用者が増加したという。さらに、来日時にUber Taxiが利用できることをプッシュ通知することで中国からのインバウンド観光需要に対応し、簡単にUber配車機能を呼び込むことができたという。
地方の観光地で起きている交通問題
その一方で、地方の観光地はこうしたインバウンド需要に対応できているのだろうか。実のところ、人気の観光地ではオーバーツーリズムが問題となっているが、知名度の低い地域では多くの課題が山積している。永妻氏は、地方には共通して交通面で問題があると指摘した。
地方では、交通の縮小による路線の減少と高齢化によるドライバー不足が起きている。その結果、地方の交通事業者の約8割が赤字経営で採算がとれずに路線が減便・廃止に追い込まれ、地域住民のみならず観光客も目的地への足を失う事態となっている。
また、日本全国の平均でドライバーが60歳を超えているといわれており、高齢化も進んでいる。高齢化に関しては、2040年までに約900万人の高齢者が家族の支援なしで日常生活を送るようになると推定されている。
これらの問題により、地方に大きな観光資源があってもそこに行くための手段が大きく制限されてしまう可能性がある。このライフラインともいうべき、交通手段の喪失は地方の経済にとっても重要な問題となる。
Uberの地方での事業展開と地方経済への貢献
そこで、Uberは地方交通の活性化のため、長野県白馬村および地元のタクシー事業者5社と連携、石川県加賀市公共ライドシェア・貨客混載実証事業、大分県別府市の公共ライドシェア「湯けむりライドシェア」などの取り組みを行っている。
スキーリゾートで有名な長野県白馬村との協定は、観光客が集中する12月から3月のシーズンである冬の繁忙期に合わせ、地元のタクシー事業者5社と連携し移動手段の提供を行うというもの。期間中には25万回リクエストがあり77カ国の観光客がサービスを利用したという。
石川県加賀市公共ライドシェア・貨客混載実証事業は、日本郵便と連携した日本初のライドシェアによる貨客混載の実証実験で、人を運ぶ合間の空き時間に荷物も同時に配送するというもの。バス・タクシーの補完とトラックドライバー不足の解消を目指して計画された。今年2月より、主にゆうパックの配送を行っている。
また、2025年4月より大分県別府市で海外からの観光客を対象とした公共ライドシェアサービス「湯けむりライドシェアGLOBAL」でUberアプリを利用できるよう連携も始めている。
最後に、地方でのサービスの拡大に大きく貢献した案件が、タクシー業界向けDXシステムを提供する電脳交通との業務提携だ。これによりUberアプリと47都道府県、約2万台のタクシーが利用する「DS」システムが連携し、Uber未提携のタクシーにもUberアプリからの送客が可能になった。
Uberのモビリティの未来と自動運転、日本での導入は?
同社は現在、アメリカでUberの自動運転車の配車を開始している。日本における自動運転の導入はどのようになっているのだろうか。
同社の自動運転技術は、WAYMO、nuro、WeRide、NVIDIAなどの複数のパートナーシップ企業と開発したもので、アメリカのテキサス州オースティンやアトランタで自動運転によるUber配車サービスを展開中だ。米国以外ではアブダビで自動運転による配車サービスを開始。
永妻氏自身も自動運転の体験。初めて訪れる地域で住所を事前に入力することで自分のホテルへ迎えにきてくれ、目的地にそのまま移動でき、移動中は車内で話す必要もなく、安心して移動できる、その便利さに感銘を受けたことを語っていた。
このように、同社はミッションとして自動運転ソリューションを社会に普及させるためのプラットフォームとなるべく、開発に力を入れている。その一方で永妻氏は、同社は自動運転だけが全ての問題を解決するというには考えていないと述べた。
「人の移動というものは地域や人それぞれのニーズに合わせて変化していくため、今後自動運転と既存の車両やドライバーが互いに共存し補完しあうハイブリッド型になっていくだろう」と、永妻氏は今後の見通しについて説明した。
日本での自動運転の導入に関しては、「今までのタクシーによる配車技術は、電話で呼ぶ、配車アプリを使って呼ぶといったように進化してきた。その発展の経緯から見て10年先の話ではない」と、今後の導入について明確な言及は避けながらも将来の導入を示唆した。
そして、永妻氏は、自動運転の導入することで、少子高齢化が進む中、ドライバー不足が解決されると訴えた。さらには、交通事故の原因の9割を占めるヒューマンエラーがなくなることによってもたらされる交通安全、AIなどによる効率的な配車サービスや渋滞に対応したルート選択による経済生産性の向上など、自動運転が実現することで大きな恩恵が得られるようになると語った。















