【混沌期の中、日本の針路を探る】御手洗冨士夫・キヤノン会長兼社長を直撃!

医療機器は改造の真最中

 ─ トランプ米政権による関税措置を巡って、世界中で混乱が続いています。御手洗さんは関税政策の影響をどのように考えていますか。

 御手洗 米国でのビジネスの経験を踏まえた上でトランプ大統領の交渉手段を見ますと、常に高めのボールを投げて相手の反応を確かめ、最終的に自分の有利なところに落ち着つかせようとしています。

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 関税問題では英国と中国が一応の決着をしましたが、日本を含めて、他の多くの国々は引き続き交渉中です。従って、一国ずつ決着していけば今後の関税影響も見通せますが、現時点ではまだ影響度合いが不明です。

 ただ、トランプ大統領は全ての国や地域を対象に、一律10%の関税を課すことだけは決めています。これを受け、当社の今期(2025年12月期)業績については、為替の影響を除き、営業利益で337億円ぐらいの影響が出てくるだろうと考えています。

 ─ やはり、影響は大きいですね。

 御手洗 確かに大きな影響です。ただ、関税や為替の影響を含めても、通期業績は増収増益の見通しです。

 この数年、新規事業の柱として期待し、買収したグループ会社が伸びてきました。20年度はコロナ禍の影響で業績も落ち込みましたが、21年度からは増収増益を継続し、今期の第1四半期(1-3月期)も同期としては過去最高の売上を記録しました。事業ポートフォリオの入れ替えが効果を発揮し始めているところです。

 ─ 一方で、2016年に東芝から買収した医療機器事業は、24年12月期に1651億円の減損損失を計上しました。

 御手洗 メディカルビジネスは2016年以降常に利益を出し続けていますが、外部環境の大きな変化もあり、当初の期待には届いていないことから減損処理をし、今は構造改革の最中です。

 基本的にはキヤノンメディカルの研究開発部門や管理部門はキヤノン本社に統合し、大田原(栃木県)は生産拠点と位置付けていきます。成長力をつけるための再編は年内に完成させる予定です。

 ─ 日本は戦後80年、米国と一体で来たわけですが、今後の日本の立ち位置をどう持っていけばいいと考えますか。

 御手洗 現在の課題の一つは米中関係です。日本と米国は同盟国です。従ってその関係を強固にしたうえで、中国とも良好な関係を維持することが必要です。別の言い方をすると、しっかりとした国力を維持し、その上で米国と中国との仲介役を担うことが日本の役割だと思います。万が一にもこの2大大国が紛争でも起こせば、日本はもとより、世界中に深刻な影響を及ぼすことになります。

 ─ 本当ですね。米中の仲介役を担えるのは日本だと。

 御手洗 それが日本の役目・使命だと思います。アジア地域で平和を保つためにも、米中2カ国の間に立って平和を保つ役割を担うのが日本の使命だと思います。

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