
財閥系にはない強みを!
─ 2022年の社長就任から3年が経ったわけですが、岡田さんはこの3年間をどのように総括しますか。
岡田 非常に慌ただしかったというのが正直なところです。
社長就任前の話になりますが、実は、当社は2020年3月期に385億円の最終損失を計上しまして、フジクラ史上最も厳しい業績を経験しました。当社の事業は大きく分けて、情報通信と自動車、エレクトロニクスの3つですが、この3つの事業がいずれも傾き、それが業績に響きました。当社も先行投資がかなりあったものですから、一時は資金繰りも危ぶまれるような状況でした。
ですから、当時の中期経営計画は途中で断念し、100日プランを策定して、固定費の削減や資産売却など構造改革を集中的に進めました。それまで、わたしは佐倉事業所(千葉県)でエンジニアとしてずっと研究開発に携わっていたので、いきなり2020年4月に本社の経営企画担当になり、最初の2年ぐらいは本当に大変でした。
〈女性社長の老舗企業改革!〉SWCC社長・長谷川隆代が目指す新たな企業像とは?
─ 本社からの期待が高かったわけですね。
岡田 まあ、有難い話ではありましたが、いち技術者だったわたしをいきなり経営陣に入れて、何をさせたいのだろうか? という気持ちはありました。実際、本社に行くのは辞退し、光ケーブルの事業を続けさせてほしいと。わたしが本社に行くよりも、この事業を続けた方が会社のためになりますと伝えたのですが、聞き入れてはもらえませんでした(笑)。
─ 今、社長としては、若い社員に対して、どんな言葉を投げかけていますか。
岡田 普段からわたしが言っているのは、「技術のフジクラ」と「進取の精神」という2つです。これはわたしが入社した時から言われている言葉であり、当社のDNAだと思っています。
当時、われわれの競合会社はいずれも財閥系で、資金力や規模では到底勝てませんでした。それならば、勝てる領域を絞って技術で勝たないと、当社は生き残ることができない。だから技術力で負けてはいけないということを教わってきました。
─ なるほど。岡田さんが新人時代から「技術のフジクラ」と教えられてきた理由は、そこから来ているんですね。
岡田 はい。あとは「進取の精神」ということで、世の中や社会が変わり、技術も日々変わっていく。そこにこそビジネスチャンスがあり、変化をうまく捉えていくことが重要だと。やはり、社会がいろいろ発展していく中で、技術力で世の中の期待に応えていくことが当社の存在価値だと思っています。
─ これはどの会社、どの領域でも当てはまる話ですね。
岡田 ええ。この2つを当社の信念として伝えていまして、若い人たちにはどんどんチャレンジしてほしいと。そして、若いのだから、無謀なほどの野望を持てと言っています(笑)。
かつて、5代前の当社社長を務めた田中重信さんが「差別化は時間差でしかない」と言っていました。結局、われわれが何年も苦労して新しい製品を世に出し、それがヒットしたとしても、他社はマネをして、いつかは追いついてくる。そう考えると、差別化というのは、ある一定期間の優位性を持っているにすぎません。
ですから、この差を維持できている間に、何か次の新しいものを仕込まなければならない。だからこそ、怠るな、安心するな、油断するなということを言いたかったのだと思います。
─ これはモノづくりの本質ですね。やはり、常に前進しなければならないと。
岡田 そう思います。ですから、わたしはそうした前向きな風土、油断せずにチャレンジし続ける風土というものを、もう一度復活させたい。それが今後のわたしの役割だと思います。