
使命感と覚悟が 要求される時代に
先の大戦終結から80年、21世紀に入って25年目の今年、世界の秩序が根底から揺さぶられている。経済と安全保障が密接に絡み合い、企業経営も大変な緊張感を強いられる時代だ。
トランプ米大統領が第二期の大統領に就任して約半年。就任前に「ウクライナ戦争は1日で終わらせる」と豪語したものの、同戦争は今なお続く。今、世界の焦点はイスラエルとイランの対立に当てられている。
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軍事力の行使―─。
米国はイランが核開発を行っているとして、その核開発施設3カ所を攻撃。すかさず、和平交渉か、戦争継続かをイランに迫り、イスラエル‐イラン間の停戦合意にこぎつけた。
トランプ氏の功罪は相半ば。トランプ政権が介在しなければ両国間の停戦は実らなかった可能性もある。なかなか評価しづらい、功罪相半ばといったところである。
この混沌状況の中で、日本の使命と存在意義とは何か。
今回のイスラエル‐イラン間の争いは、下手をすれば第三次世界大戦につながる可能性があった。今、双方が停戦協議を進める段階にあるが、これからの世界秩序を構築する上で重大な課題がある。
米トランプ政権はイランの核開発を阻止するということで、同国の核開発施設を攻撃。一応の停戦にこぎつけた形だが、一方で「なぜイスラエルの核はOKで、イランの核はダメなのか?」という素朴な疑問が残る。
この点について、日本総合研究所会長の寺島実郎氏は、歴史を紐解きながら「オバマ元大統領はそのことに関して、まさに仲介者として、また核なき世界を掲げた指導者としての責任に立って、中東の非核化ということを言ったわけです。中東の非核化ということは、当然、イランの非核化も意味するけれども、イスラエルの非核化も意味するわけです」と語る。
国際機関などの調査では、イスラエルは約90発の核弾頭を持っていると言われる。
ただ、当のイスラエルは核の保有を正式には認めていない。曖昧な状態で、「中東で最初の核を使用する国にはならない」といった趣旨の発言をしつつ、核を持っていることを隠さない。
こういう状況の中で、日本の外交・安全保障をどう進め、日本がどう生き抜くかという命題。
米国離れが 進みつつある中で…
米国は〝世界の警察官〟役を外れ、自国第一主義に回帰。代わりに中国が台頭し、その中国はロシア、ブラジル、インドなどを巻き込んでBRICSを形成。そのBRICSに東南アジアのリーダー国インドネシアやタイ、マレーシアなども加わろうとしている。
世界190余の国々が、それぞれ必死に、こうした混沌期を生き抜こうとしている。米国が内にこもり、世界が〝無軸(極)〟になり、漂流するのか、そして、さらに米中対立が深刻になるのか。極めて世界情勢は流動的である。
そういう中での日本の立ち位置である。
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イスラエル‐イランの対立に似た火種は世界中にある。極東アジアでは台湾有事、さらには北朝鮮の核問題などを抱える。日本もウクライナ戦争や中東での戦争を他人事としている状況ではない。
その意味で今回、6月末に開催されたNATO(北大西洋条約機構)の首脳会議に、日本の石破茂首相が不参加だったことも論議を呼ぶ。
日本の根本的な安全保障、そして、中東に8割超のエネルギーを依存する脆弱な体制をどう考えていくのか。文字通り、『国のカタチ』をどうつくっていくかが問われている。
そういう立ち位置を取りながら、日本は世界の〝つなぎ役〟としてどう役割を発揮していくのか。
日本はアメリカとは同盟国であり、中東産油国とも深い関係にある。日本が必要とする石油の9割は中東産である。うち、8割はアラビア半島の北東端・ホルムズ海峡経由である。もしイランがホルムズ封鎖に走れば石油が輸入できなくなる。
その意味で、イスラエル‐イランの紛争は日本の経済に死活的な影響を与える。中東の不安状況は立ちどころに日本に跳ね返る。そういう流れの中で、NATO首脳会議に石破首相が欠席したことの是非論がくすぶる。
万が一、中東情勢が緊迫化すれば日本経済の影響は甚だしく厳しくなるのは必至。歴史的に、日本はイランとも友好関係を維持。戦後の高度成長期に向かえるトバ口で、出光興産がイラン産石油を購入する契約を結んで以来の友好関係が続く。
そうした流れの中で、日本はサウジアラビアやUAE(アラブ首長国連邦)などの国々から石油を輸入してきた。そしてイスラエルとの関係は、第一次第二次の石油危機の際、産油国との友好関係を維持するため、アラブ寄りの姿勢を取ったとして、一時、緊張感のある時代が続いた。
しかし、今は比較的いい関係が続く。
問われる日本の真価
国益とは何か─―。その国益を守りつつ安定した世界秩序の構築へ、日本が果たすべき役割とは何かという命題である。
一連のトランプ政権について、元防衛大臣の森本敏氏は「今回のイラン攻撃は、米議会にかけることもなく攻撃に至ったわけで、米国は国際法、国内法上でも手続きを明確にする必要がある。
国連のグテーレス事務総長は米国の今回の攻撃が国連憲章や国際法へ違反に当たるとしていて、国内法違反、さらには国際法違反として問題になる可能性がある」と語る。
『力の行使』で紛争解決にあたるケースが増加。戦後長らく自由主義・民主主義、そして、法の支配による国際秩序づくりを進めてきた歴史が今、危うさを秘めている。
現代の混沌とした中で新しい国際秩序づくりに日本はどこまで尽力できるのか。EU(欧州連合)や他のアジア諸国との連携を含めて、日本の外交力、自力の真価が問われている。