日本IBMは7月9日、最新のIBM Powerサーバ「IBM Power11」を発表した。同日に都内で記者説明会を開催し、同社 代表取締役社長の山口明夫氏らが説明に立った。Power11は、オンプレミスやクラウド、ハイブリッドクラウド上で企業が求める可用性、レジリエンス、パフォーマンス、拡張性を提供できるように設計されている。
多様なラインアップを揃えた「IBM Power11」
これまでIBM Powerは、特に銀行、医療、小売、政府機関などミッションクリティカルかつデータ集約型のワークロードで用いられてきた。しかし、昨今ではAI時代への移行に伴い2028年までに10億の新しい論理アプリケーション(IDC調べ)の導入が予想され、企業に新たな複雑性をもたらすことが見込まれている。
そのため、同社はハイブリッドクラウドの柔軟性を備えたシンプルで常時稼働の運用を実現し、AI時代において企業が競争力を維持できるようにPower11を構築した。
山口氏は「IBMは『世界をより良く変えていく“カタリスト(触媒)”になる』とパーパスに掲げている。昨今では、トランプ米大統領による関税や地政学的リスク、労働力不足に加え、経営者からすればコーポレートガバナンスの強化や事業ポートフォリオ、テクノロジーの進化などが起きる中で多くの判断を迫られる状況となっている」との認識を示した。
そのうえで、同氏は「さまざまな変化に迅速に対応するだけでなく、先手を打てるようにするために当社は多様な製品・サービスを開発・提供している。そのような中でインフラの部分に関してはPower11やメインフレームといった機器、オンプレミスとクラウド両方の利用形態など、幅広い選択肢を提供する。Power11は前機種と比較して大幅にパワーアップしており、Powerはもちろんのこと、メインフレームも研究開発や投資を継続する予定だ」と強調した。
ラインアップはハイエンド、ミッドレンジ、エントリークラスまでの「E1180」「E1150」「S1124 & L1124」「S1122 & L1122」のサーバと「IBM Cloud」の「IBM Power Virtual Server(VS)」が初めて同時に提供開始される。
Power VSは、Powerワークロードのクラウド移行を迅速化するソリューションとなり、RISE with SAP向けのハイパースケーラープラットフォームとしても認定されており、来年にはエッジ向けサーバの提供を開始する。
また、OSはSAPやOracleなど向けのAIX、RPGアプリやCOBOLアプリといった固有のアプリケーションとデータベース向けのIBM i、SAP HANA DB、オープンソースをはじめとしたLinuxの3つが機能する。
「IBM Power11」はAI時代における真のエンタープライズサーバ
日本IBM テクノロジー事業本部 Power 事業部長の原寛世氏は、Power11について「エンドツーエンドの自動化による計画的なダウンタイムゼロと、ランサムウェア攻撃を1分未満で検出する自動応答と回復、AIをエンタープライズワークフローに統合し、ビジネスプロセスのスループットを5倍向上させている。AI時代における真のエンタープライズサーバだ」と力を込めた。
Power11は可用性が99.9999%でシステムメンテナンス時の計画的ダウンタイムをゼロにし、IBM Power Cyber Vaultによりランサムウェアの脅威に対して1分未満で検出を保証するなど、計画的ダウンタイムとサイバーインシデント関連で生じるダウンタイムの両方に対応。
具体的には、自律的なパッチ適用やワークロードの自動移動などにより、重要なアプリケーションを停止させずに計画的なシステムメンテナンスを実施できるという。これにより、IT担当者はシステムのアップグレードの計画、テスト、実行に時間を費やす必要がないほか、生成AIを使用してITの運用を自律的に運用する「IBM Concert」と連携し、運用リスクの特定、実用的な洞察の提供、セキュリティパッチ管理など修復の自動化を支援する。
ランサムウェアの脅威に対しては、NIST(米国国立標準技術研究所)のサイバーセキュリティフレームワークに準拠したPower Cyber Vaultでサイバー攻撃の特定、保護、検出、自動対応を支援。データの破損や暗号化といったサイバー攻撃から保護するために、プロアクティブな不変スナップショットを自動的に取得、保存、テストする機能をユーザーが定義したスケジュールに従って実行する。
また、NIST標準に準拠した耐量子計算機暗号化技術を内蔵し、HNDK(Harvest Now, Decrypt Later:今、収集して、後から解読する)攻撃やファームウェアの整合性攻撃からシステムを保護するよう設計されている。
さらに、AI集約型推論ワークロード向けに構築されたオンチップ「IBM Spyreアクセラレーター」の提供開始を2025年第4四半期に予定。IBM Spyreアクセラレーターは、すでにメインフレームの「IBM z17」と「LinuxONE 5」に対応しており、高度なAIアクセラレーションを提供することでハイブリッドクラウド全体でのAIの拡張を支援する。
加えて、Power11は自律型運用をサポートすることでパフォーマンスを向上させており、複雑さの軽減、ワークロードの効率性をさせるとのこと。Power9と比較してコア性能が最大55%向上し、エントリーシステムとミッドレンジシステムではPower10と比較してコア数に応じたキャパシティは最大45%増加している。
Spyreアクセラレーターを通じてミッションクリティカルなAIワークロードをサポートするよう拡張できるほか、Red Hat OpenShift AIとオープンソースソフトウェアやツールキットの広範なエコシステムと組み合わせることで、ハイブリッド環境全体でAIの運用に必要な柔軟性とパフォーマンスを提供するという。
加えて、「IBM watsonx Code Assistant for i」はアプリケーション開発のモダナイゼーションを推進するため、開発者が重要なRPGアプリケーションを拡張し、簡単かつ高い生産性で開発できるよう支援する。また、2025年末までにオープンでハイブリッドなデータレイクハウス「IBM watsonx.data」がPower11でも利用可能になる予定だ。
そのほか、エネルギー効率の面ではPower11の1W(ワット)当たりのパフォーマンスは同等クラスのx86サーバと比較して2倍となり、新しいエネルギー効率モードではPower11の最大パフォーマンス・モードと比較して、サーバ効率が最大28%向上するとのこと。
「IBM Power11」のイノベーティブなテクノロジー
一方、日本IBM テクノロジー事業本部 Power テクニカル・セールス部長の釘井睦和氏は、Power11のテクノロジー面について解説。
同氏はPower11における数あるイノベーションの中から「SLA(Service Level Agreement)を損なわない新しいエネルギー効率モード」「チップのパッケージング技術」「Resource Groupsによるワークロードの分離」「次世代メモリ」、前述したオンチップのSpyreアクセラレーターの5つを示した。
新しいエネルギー効率モードでは、相反した関係のパフォーマンスと消費電力を最適化するアルゴリズムを取り入れている。チップのパッケージング技術はStacked Capacitorと呼ぶ、コンデンサが内包された中間層(インターポーザー)を設けることで高電圧がかかっている際もノイズを除去しやすくしているという。
Resource Groupsはワークロードの分離を厳密にすることを可能とし、次世代メモリとしてDDR5を使用したメモリ構成とすることで、クロック周波数を向上させている。Spyreアクセラレーターは生成AIのユースケースに対応した設計とし、I/Oドロワー内の8枚のカードが論理クラスターを形成し、メモリは1TB、メモリ帯域幅は1.6TB/秒となっている。
釘井氏は「オンチップアクセラレーターは従来であれば、AI学習で活用されてきた経緯があるが、推論を企業の重要なデータを使い利用していく流れが来ている。LLMに代表されるようなものを利用して推論に活用していくことが中心となるため、当社としてもこのようなアプローチを取っている」と述べていた。
販売戦略としては、COBOLやSAP、Oracleユーザーといった新規顧客の獲得を第1ステップに据え、その後は基幹業務連携でDX(デジタルトランスフォーメーション)・AIの活用を進めていく企業と取り込む。また、パートナー戦略はISVソリューションの充実やIBM Cloud上のSaaS(Software as a Service)など200のDXソリューションを展開し、人材戦略AIX、IBM i、Linuxの技術者育成を図る考えだ。
なお、Power11サーバの提供開始は7月25日(米国時間)に予定し、Spyreアクセラレーターは2025年第4四半期から提供開始を予定している。









