【金融国際派の独り言】長門正貢・元日本郵政社長「トランプとの再会。混乱必至の政策諸手段」

準備万端のトランプ政権2期目の方向感・哲学と実現の為の手法が明確だ。

 世界の警察業はしない、国際支援活動はしない、富を他国から米国に取り戻す、選挙勝利の自分は万能の王様だ、敵は排除・味方だけを使う、力は正義だ、等の哲学。

 しかし、実現の為の政策が頓珍漢だ。国内産業は実力では他国に勝てないので大きなハンディキャップ(関税)をくれ、批判をするハーバード等大学やマスコミは不要・焚書坑儒的に排除する、留学生や移民は不要・米国人だけで良い、13名の巡査が死亡した議事堂事件の乱入者は味方ゆえ全員恩赦。

 西部開拓時代の無法地帯のボスと同じ発想だ。

 そのコストは明確だ。関税分だけ買い手か売り手の負担が必ず増え、製造業は一層弱体化、ソフトパワーを失い米国の心の友はいなくなる、GAFAMを創造出来る人材は米国外へ逃避、財政赤字も一層拡大・米国の信認低落を通じ市場が大荒れ、等。

 米国のみの利益を狙う素朴な信仰は愚かな政策で、残念な諸結果をもたらすだろう。

 トランプ氏との再会は大統領1期目時代の訪日時だった。公式行事は天皇皇后との会見のみだが、急遽、大統領がビジネス界との懇談を希望。

 2019年5月25日(土)、日本に到着直後、ビジネス界幹部約20名がハガティ米国大使公邸に集められ、全参加者が大統領と個々に会話をする機会が与えられた。

 私個人はこんな話をした。

 『①興銀時代、1989年にお目にかかって以来の再会です。②貿易収支や米国への製造業投資ばかりおっしゃるが、日本郵政グループは何十兆円も米国証券市場に投資している。国際収支表の上半身・経常収支ばかりでなく下半身・資本収支面での効果も見るべきだ』

 トランプ手法に辛口コメントをして来たが、大使公邸懇談会に際しトランプの少し良い所も見えた。

 ①時差のきつい日本に到着後、直行で懇談会に参加、短時間でも何か情報を得ようとする元気な働き者

 ②合意はしないが人の話はよく聞く

 ③喋り上手。04年からテレビ番組「アプレンティス」のホストになる。就職志願者が様々な試練を乗り越えて行く様を見せる人気番組。

 見せ場は、番組ホストのトランプがfiredか、あるいはhiredかを裁断する最後のシーン。

 採用か解雇か、実に論旨明確・饒舌な解説が彼からなされる。テレビへの露出により才能が一層磨かれた気がする。

 今のままでは国際政治経済は大混乱に陥る懸念が強い。トランプの少ない長所「聞く力」を活かして政策手法を改善し、「語る力」で市場や他国に説明責任を果たし、大統領職を全う出来れば良いのだが。79歳での進化は無理か?