ヤマタネ会長・山﨑元裕《卸業の立場から見たコメ問題は》「生産者と小売りをつなぐ役割を果たし、コメ問題解決に貢献したい」

「この30年間、コメをめぐる一連の流れは硬直状態が続いてきたが、コメ問題が起きて今いろいろと変わろうという機会が到来。このチャンスを生かせるかどうかが重要」と話すのは全国米穀販売事業共済協同組合理事長(ヤマタネ会長)の山﨑元裕氏。需給調整を含めてさまざまな問題が絡むコメ問題。山﨑氏はコメのサプライチェーンにしなやかな強さを持たせる。われわれは生産と小売をつなぐ役割を果たしていきたい」と語る。卸業の立場から今回のコメ問題について聞いた。

(当インタビューは5月22日に行われたものです)

コメのサプライチェーン体制再構築のとき

 ─ 現在のコメ不足問題ですが、卸業の立場から見て現状認識を話してくれませんか。

 山﨑 この日本経済停滞の失われた30年間と同様、コメを巡る問題も何も変わってきませんでした。業界としても無為に過ごした30年だったと。

 結局、お米に関しては国が管理する食糧管理制度(食管)から全農食管に代わっただけでした。そういう意味では、今コメ問題が起き、いろいろと変わろうという機会が到来していますので、このチャンスをわれわれが生かせるかが重要だと考えています。

 何をもって生かすかは、われわれにとって良いことである必要はなくて、コメのサプライチェーンをもっと強く、しなやかにつくっていくことが必要だと考えます。

 ─ これまでコメに関わる業界全体で硬直状態が続いてきたと。

 山﨑 ええ。これまでは硬さと脆さしかなかったので、ここをしなやかな強さ、強靱さを何とかつけられるといいなと。

 これはわれわれ流通業界だけでできる話ではなく、当然生産者と小売の人々との対話も大事ですが、その真ん中で両者をつなぐわれわれがどう社会的役割を果たせるか。

 当面の問題が落ち着いた頃に、コメのサプライチェーン体制を改めてどうするかという根本問題が必ず上がってきます。この機会を生かし、変革していきたいと思っています。

 ─ コメについては、生産者や卸などの流通、そしてスーパーなどの小売りとさまざまな問題が絡み合っていますね。

 山﨑 ええ。一般食品としての米の価格、魚沼産コシヒカリなどのブランド米、片や食料としてのコメ、あるいは水田の在り方を含め国土保全の問題まで関わってきます。

 まさにいろいろな要素が混ざって語られるだけで、結論が得られていません。これをずっと繰り返していますから、やはりそれを仕分けしながら、われわれは強くしなやかなサプライチェーンがそもそも何のために必要かを含めて、改めて議論し再構築していきたいと思っています。

 ─ 具体的には?

 山﨑 まずは日々の話で、食べ盛りのお子さんがたくさんいらっしゃる家庭が求めるお米もあれば、高所得者に向けた高級米をどうするか、それから食料安全保障の面まで、いろいろな問題があります。

 そういうものを抱え込んだサプライチェーンの強靱さが必要です。これはどこから手を付けるか、立場によって全然意味が違います。

 ─ 生産者と消費者の間にある卸の立場からみて、今の複雑に絡む問題をどこからどう解きほぐしていきますか。

 山﨑 足元は、とにかく必要な人に買いやすい価格でコメを届けるということが必要です。

 直近の問題は、政府が3回放出した備蓄米がまだ充分に消費者まで行き渡っていません。机上の理論と現場は全く違いますが、政策を見る限り、国は現場をご覧になられてないように思います。

 全体の絵を見て、これだったらいけるだろうといった形で対処されているので、現実的な現場をご理解されないわけです。

 というのも、業界からすれば去年の年初から備蓄米のことも話題としては出ていて、国にもお伝えしてきましたが全く相手にしてもらえませんでした。

 ─ そこの所を詳しく話してくれませんか。

 山﨑 備蓄米というのは、平成5年のコメ不足のときのような本当にお米がない時のための備蓄です。あるいは紛争が起こったりして食料が入らなくなった時の備蓄米ですから、それを食品の世界で価格が大幅に上がったからといって出すべきものではない、という行政の立場ですよね。

 ─ 国としては、本来の制度趣旨に沿っていないと。

 山﨑 はい。それは当然そうですよね。ただ、その状態がずっと続いて、去年の令和5年産の在庫状況を見ていると、令和6年の年明けからわれわれの中ではこれはちょっと厳しいと感じ始めていました。

 これは端境期がタイトにあるように、コメは1年1作ですから、早いお米ですと沖縄産が6月末から出てきます。そこから徐々に替わっていき、いわゆるコメどころのものが全国にしっかり行き渡るのが9月の終わりから10月にかけてですから、ここの端境期を乗り切るのが厳しいという感覚はありました。

 実際にそのまま需給関係が厳しくなっていき、7月の終わりくらいから徐々に棚にコメがなくなり始めた。その後追いうちをかけるように、南海トラフの前触れとも言える地震があったりして、皆さまがワッと買い付け、そこで一気になくなっていきました。

 今までも5年単位あるいは10年周期でコメが足りない時もありました。こういう時に投機目的の業者もいます。相場で動いていますから、状況を判断して新米が出回る秋口には前年産米が出てきてもおかしくなかったのです。

 今回は、令和6年産が出回っても、令和5年産はどこからも出てこなかった。ということは、本当に5年産がなかったということなのです。

 ─ 5年産は天候不順などで凶作だったということですか。

 山﨑 はい。本当にお米が穫れていなかったから、ショートしたということです。お米はご承知のようにもみを外して玄米のまま流通します。玄米のぬかを取り精米しますが、品質が悪いとぬかをたくさん取らなきゃいけません。そうすると精米歩留まりが落ちるというわけです。

 あるいは精米過程で品質が悪いとお米が割れてしまうのです。いくつかの状況がありまして、5年産はあまり品質がよくありませんでした。

 ─ それで在庫が細っていったと。

 山﨑 はい。例えば外食用はあくまでも『ご飯』の品質を見ますから、新米が出たことはアピールポイントにはなりますが、牛丼チェーンなどでは常に同じ品質のお米を仕入れたいわけです。

 そのために、通常では古米から新米へ徐々に替えていきます。5年産については見事に在庫がなくなっていると。ということは本当になかったのだろうという推察になります。

 国は、コメは穫れていると言っています。そう言われてしまうと、われわれは、そうですかとしか言いようがありません。

卸業者の調達

 ─ 通常、卸の現場ではどのように調達しているのですか。

 山﨑 先ほど申し上げましたように、6月、7月、8月、9月、10月、徐々に当年産が使われ始めて、その間、前年産の量が徐々に減っていきます。

 6年産は既に穫れ、秋頃からコメがなくなるとわれわれは見ていました。

 秋口に全農が今年のコメはいくらで集荷しますよという概算金を出します。それを見ながらわれわれは、今年のコメは良さそうだ、悪そうだ、たくさん取れそうだという状況判断をします。

 あるいは、古米がどれくらい残っているか。古米が足りなさそうかとか、そういう状況を見ながら契約を打つわけです。

 多くのパターンは、全農が主軸の仕入れ先です。いつでも買えるだろうという相場の先安感がある時は、全農との契約を絞ります。逆に、先高感の時は、全農ないしはメーンの仕入れ先を厚めにします。

 卸業者のわれわれは、何となくマーケットを見て仕入れているわけではなく、実需と結び付いているのです。Aスーパー、B外食など、得意先のために、年間計画を立て全体の仕入れをしているのです。

 ─ 今回は先高でしたよね。

 山﨑 はい。ただ、なるべく低く仕入れ値を抑えたい。それは、得意先からの低価格要求にこたえるためです。

 でも今回、全農が集荷できなかったので、われわれは平均で大体7割くらいしか全農から仕入れの提示がありませんでした。

 全農から買いたくても7割しか買えないとなれば、お客様に対して通年供給できないことになりますから、われわれも他の集荷業者に広く声をかけたのです。そこで秋のうちから既に業者間のスポット相場は高騰し続けたのです。

 ─ 他の集荷業者というのはどういったところですか。

 山﨑 大手は全農がいて、あと全集連(全国主食集荷協同組合連合会)の2つがあります。

 それとは別に、小規模の集荷業者がいらっしゃいますし、あるいはJAも全農に出すだけではなくて、直接の売買もあります。

 ─ かなり流通が複雑になってきていますね。

 山﨑 相当複雑です。例えば、卸業者の話を聞いていても、東京にいるとよく見えてこないのです。でも、関西エリアや九州エリアに行くと、彼らは地産地消にものすごく力を入れています。

 直近では、富山に行きましたが、富山の方々というのは、例えば全国展開しているスーパーが東北産のあきたこまちなどを置いても、買わないのです。地元の富山県産にこだわります。

 今まで富山の方々は、富山のお米で自給自足ができていたのですが、他の県がこれを買いに来ていると。例えば東京のコメがなくなりそうだから、東京の卸が富山の集荷業者に「コメを売ってよ」と言いにいく。

 こうしたことが起こっているので、従来安定していた富山の相場も上昇することになるのです。

 ─ 全国的にそのようなことが起きていることが、今のコメ高騰の原因になっていると。

 山﨑 その通りです。これも今までの経験からすると、年内には収まっていったはずなのですが、収まる気配がないという初めてのことが起きました。ですからわれわれは農水省に、秋口から備蓄米を出しましょうとお話をし続けてきました。

 ─ 需給バランスをみるために、コメの生産量や需要量を正確に押さえるということはできないのですか。

 山﨑 できるかできないかは別として、努力すべきですよね。

 ただ、コメで難しいのは、量販店のPOSデータだけでなく、量販店から仕入れる食堂もあるわけです。そうすると数値は重複しますから、どこまでが正確かというのは難しいと思います。

 ただ、何かしらの努力はしていかなければいけないと思います。

 令和の時代にこのようなコメ不足が起きてしまった原因は、単純にコメを作らなすぎているということです。

 それから、インバウンドやおにぎりブームがあっても、そんなにコメの消費量は増えていないというのが国の見解でした。でもわれわれ卸の感覚からすると、年間8万㌧10万㌧、ずっと需要減で来ていたのが、感覚的には底を打った感じがしていました。

 以前、おにぎりは家で握るものでしたが、今では買うものになりました。こうした食文化の変化も、今回のコメ騒動には大きな要因になっているとわたしは思っています。

 ─ インバウンドの年間約4千万人は大きな要因になり得るということですか。

 山﨑 はい。日本人の旅行と違って、彼らは長期滞在をしますよね。かつ地方にも行く。和食ブームが世界的に続いていますが、来日目的の一番トップには、日本での食事というアンケート結果も出ています。

 4千万人が、1週間滞在して、一日2食食べたら、14回は食べるわけです。相当な量になりますから、それらも考慮し、コメの生産量を考えなおしていく時に入ったと思っています。(次号につづく)