【外務省】影の外相”は林官房長官? 米政権との関税交渉で存在感

トランプ米政権との関税交渉に忙殺される外務省で、不思議と林芳正官房長官の存在感が急速に増している。

 林氏は今回の関税交渉で、政府の対処方針を決めていくタスクフォースの責任者を、赤澤亮正経済再生担当相とともに務めている。赤澤氏はワシントンで直接交渉に携わり、林氏は各省庁から直接情報を吸い上げて、実際の交渉ラインを作る役割分担だ。

 霞が関の各省庁からは、石破茂首相に最も近いはずの赤澤氏より、林氏に頼りたいとの声が多く寄せられる。林氏は複数の閣僚を歴任しただけでなく、国内の事情を詳細に読み取り、妥協ラインなどを瞬時に判断する能力への評価が高いからだ。

 一方、林氏は2021年11月から2年弱、外相を務めており、今も外務省内に多くの人脈を持つ。同省幹部は「タスクフォースで上がってきた情報を、米側との交渉にどうぶつけていくか、具体的な交渉スケジュールをどう組んでいくかなど、林氏から詳細な指示が飛んでくる」と汗をかく。

 本来は、交渉の表舞台に立つ赤澤氏と、外務省で経済交渉を統括する赤堀毅外務審議官がタッグを組み、具体的な交渉方針を決めていくのが筋だ。

 しかし、最近は米側が中国との関税交渉に力を注ぎ、日本側に時間を割く割合が少なくなっているといい、「林氏が赤澤氏の頭越しに直接『こう動け』『アポイントをいつまでに』などの詳細な申し出をしてくる」(同じ同省幹部)という。

 最も、今回の交渉は日本の主力である自動車産業を含め、交渉を一歩間違えば国内経済に重大なダメージを与えかねない重大案件だ。省内からは「林氏という『影の外相』がいてくれてよかった」(別の幹部)という声ももれてくる。

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