広島大学は6月16日、産業用ロボットなどの繰り返し運転を行う機械・電気システムに頻繁に現れ、その制御精度を悪化させる高調波(振動)外乱問題に対し、ゆらぎを含む高調波を精密に観測・補償する制御アルゴリズム「準周期外乱オブザーバ」を開発したと発表した。
同成果は、広島大大学院 先進理工系科学研究科 機械工学プログラムの村松久圭准教授によるもの。詳細は、IEEEが刊行する制御システムの設計や運用などの分野を扱う学術誌「IEEE Transactions on Control Systems Technology」に掲載された。
さまざまな課題を引き起こす高調波の抑圧に着手
高調波外乱は、機械・電気システムの制御精度を悪化させる厄介な存在だ。これはあらゆる機械・電気システムで発生するものであり、例えば精密かつ長時間の繰り返し運転が求められる産業用ロボットでは、その動作や周囲の振動源により、振動・姿勢変動・重力・摩擦・リップル(電圧や電流の脈動)といった高調波外乱が発生し、制御精度を低下させてしまう。
高調波外乱は基本周波数の整数倍で現れるため、そのすべてを的確に補償する必要がある。しかし、実際に生じる高調波は厳密に周期性を満たすことは稀であり、大半において振幅や周波数にわずかな「ゆらぎ」を伴う。特に、このゆらぎを適切に扱えるかどうかが、制御手法の実用性と有用性を左右する重要な点だ。そこで村松准教授は今回このゆらぎを含む高調波を抑圧するため、広帯域な高調波抑圧を実現するアルゴリズムである準周期外乱オブザーバの開発に取り組んだとする。
今回の研究は、2022年に村松准教授が発表した「準周期性」の定義および「周期/非周期分離フィルタ」に関する知見を起点に進められた。準周期性とは、一周期ごとの変化が緩やかな、おおよそ周期的な性質を指す。また周期/非周期分離フィルタとは、信号を準周期・準非周期信号へ分離するアルゴリズムである。
まず、高調波と直流成分を含む周期外乱の定義が、ゆらぎのある準周期外乱へと拡張された。さらに外乱を推定するため、外乱オブザーバと呼ばれるアルゴリズムを採用し、1次ローパスフィルタ(緩やかに変化する信号のみを通過するアルゴリズム)を伴う制御対象の逆モデルと共に外乱が推定された。そして推定された外乱から零位相ローパスフィルタを統合した周期/非周期分離フィルタを使い、準周期外乱の推定に成功した。この推定された準周期外乱をフィードバックすることで、実際の準周期外乱を補償することが可能となった。
研究チームによると、準周期外乱オブザーバの既存技術に対する優位性は、繰り返し制御や周期外乱オブザーバが直面していたトレードオフを克服した点にあるとのこと。それにより、広域高調波抑圧、非周期外乱の非増幅、そして高調波抑圧周波数の非逸脱という3つの機能が同時に実現されたとした。
その性能を検証するため、モータを用いて実験を実施したところ、各手法は、特定の高調波が存在する周波数でゲインを低下させる機能を持つが、従来手法では非周期外乱の増幅や、高調波抑圧周波数の逸脱が確認された。
一方で、準周期外乱オブザーバは上述したように、広域高調波抑圧、非周期外乱の非増幅、高調波抑圧周波数の非逸脱という3つの機能を同時に実現している。その結果、ゲインの全周波数における平均値を比較すると、準周期外乱オブザーバは従来手法に対し、65%および50%のゲイン削減(外乱への感度削減)を達成していることが確認された。これは、制御精度の大幅な向上を意味するという。
研究チームは今回の技術について、繰り返し運転を行う多軸ロボットへの実験でも、位置決め制御の高精度化に有効であることが確認されたとする。この結果を受けて村松准教授は、今後、産業用ロボットの位置決め制御のさらなる高精度化など、具体的な応用先として取り組む方針を示している。
高調波の問題は、機械・電気問わず幅広い分野で確認されているもの。今回開発された準周期外乱オブザーバは、実用性の高い制御アルゴリズムとして確立済みであることから、研究チームはその実用性を活かし、多様な機械・電気システムへの応用が期待されるとしている。