金城大学と中京大学の両者は6月13日、最高のパフォーマンスが要求される場面において、正確性を追求する意識の強さに応じ、運動パフォーマンスが段階的に低下する「心と身体の法則」を発見したと共同で発表した。

同成果は、金城大 総合経済学 総合経済学科の村上宏樹助教、中京大 スポーツ科学部の山田憲政教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、英オンライン総合学術誌「Scientific Reports」に掲載された。

意識が身体の動きに制限を与える法則を明らかに!

サッカーのPKや大勢の観客を前にした楽器演奏など、ヒトはプレッシャーのかかる状況下で、普段なら容易な動作を正確に行えなくなる。失敗が許されない場面での失敗は、無意識と意識の関係が鍵を握るとされる。心理学ではフロイトが無意識による行動の支配を説き、現代哲学でも“意識されない知覚や動作”の重要性が度々指摘されてきた。しかし、これら意識と無意識の相互作用が身体運動へ及ぼす影響の科学的証明は容易ではなく、これまでほとんど取り組まれてこなかった。

金城大と中京大の共同研究チームは今回、全身運動であり単純かつ本質的な動作である「垂直跳び」に着目。着地の正確さを求める要求を3段階に操作して、フォースプレートで動作中の力の変化を精緻に計測することで、意識と身体運動の関連性の科学的証明を試みたという。

今回の研究には、健康な成人12名が参加。まず各参加者は「全力で跳ぶ」垂直跳びを5回実施し、それらの結果は「無意識条件(Nc)」と定義された。次に、「全力で跳び、かつできるだけ正確に特定の範囲に着地する」という指示のもと、着地範囲の広さを3段階に変化させた試技(Ac100/Ac65/Ac36)が、それぞれランダムな順序で5回ずつ実施された。これは、跳ぶ動作における「正確さの意識」を段階的に操作することが目的だといい、その3段階の詳細は以下の通りである。

今回の研究で用いられた試技への制限

  • Ac100:フォースプレート全体(100%)が着地可能な「広い範囲」
  • Ac65:面積のおよそ65%に限定した「中程度の範囲」
  • Ac36:面積の約36%とかなり狭い「精密な着地」を求める範囲

なお、ジャンプ中は足元を見ないよう指示され、視覚的情報なしで身体感覚と運動制御のみに頼る全身運動が求められた。またジャンプ中の3次元方向力はフォースプレートによりミリ秒単位で記録され、そこから重心の加速度・速度・位置を算出。さらに、着地位置のばらつきは0.1m四方のグリッド上で確率分布化し、情報理論における「乱雑さ」や「ばらつき」の度合いを示す「エントロピー値」で定量化された(この値が大きいほどデータのばらつきが大きいことを示す)。

そして実験の結果、正確さを意識するほどジャンプの高さ、すなわち運動パフォーマンスが段階的に低下し、「意識すればするほど、動きが鈍くなる」現象が確認された。特に注目すべきは、NcとAc100の比較だといい、両条件では着地範囲が同一にもかかわらず、着地を意識するかしないかという心理的要因の差だけで、ジャンプの高さが有意に低下した。

さらに、Ac100からAc65、Ac36へと着地範囲が狭まるにつれて、パフォーマンスは段階的に抑制された一方、着地の正確性が向上(着地位置のばらつき、つまりエントロピー値が大きく減少)。この結果は、いわゆる「速さと正確さのトレードオフ」を裏づけるだけでなく、意識という心理的要因が、無意識的な運動をどのように抑制するのかを定量的に示した初の成果とした。つまり、意識の強さと身体動作の変化の間に、法則的な関係が存在することが示されたのである。

  • 垂直跳びにおける精度要求がパフォーマンスに与える影響

    垂直跳びにおける精度要求がパフォーマンスに与える影響。(A)今回の垂直跳び課題実験の全体構成。(B)ジャンプ高と着地エントロピーの関係。(C)着地位置の可視化とエントロピーの定量化(出所:共同プレスリリースPDF)

これまでヒトの単純な上肢動作においては、速さが増すと正確さが低下する「フィッツの法則」が知られていた。しかし今回の研究は、この速さと正確さのトレードオフを全身運動かつ一発動作(フィードフォワード型の運動)の文脈で再定義するものであり、さらに意識の強さという心理的操作変数を加え、その影響を定量化した点が新規性となるとする。

研究チームによると、今回の研究で示された“意識の強さが運動を抑制する”現象は、単なる心理的な傾向にとどまらないとのこと。これは、ヒトの動きへの意識介入が、パフォーマンスに具体的な制限を与えることを実証した初の成果であり、スポーツ、医療、リハビリテーション、教育・技能習得、AI設計、さらには意識と無意識の最適な切り替えタイミングの科学的解明など、実に数多くの分野に応用が期待されるとしている。