富士通は6月6日、ビジネスや社会の未来ビジョンを提言する「Fujitsu Technology and Service Vision 2025」を策定したことを発表し、記者向けにオンライン説明会を開いた。同レポートでは、人とAIが協働しクロスインダストリーのエコシステムを活用することで、企業がビジネスの成長を促進しながら、複雑な社会課題に対処し価値を創造する方法を示す。

Fujitsu Technology and Service Visionの概要

富士通が発表している「Fujitsu Technology and Service Vision」は、ビジネスや社会の未来像と、そうした未来を実現するためのテクノロジー、富士通が提供する価値などをまとめたレポート。

パーパス(存在意義)とビジネスの実現に向けて、同社がどのようなビジネスやテクノロジーの環境を想定し、社会課題に対応するテクノロジーやサービスを提供していくのかを示している。

同社は現在、「イノベーションによって社会に信頼をもたらし、世界をより持続可能にしていく」をパーパスとして定め、2030年までのビジョンとして「デジタルサービスによってネットポジティブを実現するテクノロジーカンパニーになる」を掲げている。また、マテリアリティ(重要課題)の貢献分野では「地球環境問題の解決」「デジタル社会の発展」「人々のウェルビーイング向上」に取り組んでいる。

最近では「Regeneration(再生)」をキーワードとし、2023年に「Regenerative society(再生型の社会)」を提唱。2024年には「Regenerative enterprise(再生型企業)」への変革の具体像を示した。

  • 「Fujitsu Technology and Service Vision 2025」の全体像

    「Fujitsu Technology and Service Vision 2025」の全体像

AIでビジネスを変革するための取り組みとは?

今年発表した「Fujitsu Technology and Service Vision 2025」では、ビジネスの未来について、人とAIを中核とする新たなエコシステムを示した。AIの進化により人とビジネスと社会に変革がもたらされるという。

レポートの作成に際して、同社は日本を含むグローバル15カ国で中堅規模以上の企業に勤務するCXO層800人に調査を実施した。レポートではその結果を「ビジネスの未来」「テクノロジービジョン」「変革のためのアクション」の3項目で報告している。

ビジネスの未来

昨今はさまざまな外部要因の影響を受け、事業をとりまく環境は複雑化している。今後3年間で経営に影響を与える外部要因のトップ3には、インフレ、金利、為替変動が挙げられた。また、AIの進化や人口問題にも関心が寄せられた。過去の調査では気候変動やエネルギー問題への対応が上位だったが、今回の調査では政治・経済的な要因が上位となった。

  • 企業経営に影響を与える外部要因

    企業経営に影響を与える外部要因

特にAIの活用には多くの企業が積極的で、回答者の約8割が今年AIへの投資を強化すると回答した。生成AIに関しては、回答したほぼすべての企業が試験導入または本格導入を開始している。AIを活用している企業のうち6割以上は、AIによって従業員の生産性が10%以上向上したと回答。

AIの活用が進む一方で、課題も顕在化している。調査結果によると、最大の課題は前回に続きAI活用スキルを持つ人材の不足で、社内データの漏えいや著作権侵害といったセキュリティ関連の課題も上位に挙げられた。

人とAIが共同する未来について、79%の回答者が「AIが自社の経営やあらゆる業務に浸透し、AIで駆動される企業に変革する」、同じく79%が「すべての従業員がAIの支援を受けて業務を遂行するようになる」と答えた。

また、多くの企業が環境やウェルビーイングの課題解決が大きなビジネス機会であると認識していることが明らかになった。こうした課題に対し、個社単独ではなくエコシステムを通じて解決する動きが広がり、81%の回答者がエコシステムを基本としたビジネスモデルに移行すると回答した。なお、約半数の企業はすでにエコシステムを活用しており、うち16%は事業領域を超えたクロスインダストリーのパートナーとエコシステムを構築しているという。

エコシステムを活用している企業の6割以上が、環境・経済・ウェルビーイングといった課題の解決をビジネス化し、売上を創出している。さらに、こうした企業は社会、顧客、従業員、投資家などのステークホルダーに対しより大きな価値を提供しているとのことだ。

富士通はこれらの調査結果から、「人とAIを中核とする新たなエコシステム」を提唱した。人とAIを中心とする新たな価値創造エコシステムが、クロスインダストリーのパートナーとの連携を通じてネットポジティブを実現するという。この「Regenerative ecosystems(再生型のエコシステム)」を活用し、複雑で困難な社会課題の解決に取り組むというのが、富士通が描く未来のビジネスだ。

  • 富士通は「Regenerative ecosystems(再生型のエコシステム)」を提案

    富士通は「Regenerative ecosystems(再生型のエコシステム)」を提案

テクノロジービジョン

テクノロジービジョンでの注目ポイントは、自律的に行動するAIエージェント。すでにビジネスのさまざまな領域に組み込まれ、企業の戦略実現やビジネスプロセスの変化を支援しているという。

現在は事前に定めたルールに従って次のアクションを実行するAIエージェントだが、今後は現実世界の環境を理解して自律的に状況を判断し、最適なアクションを実行できるよう進化すると考えられている。さらに、マルチなAIエージェント同士が連携することで、より複雑な課題にも対処できる可能性がある。

AIは単なるツールから、人と目標を共有して新たな価値を創造し、強制する存在へと進化する、というのが富士通の見立てだ。人とAIエージェントのつながりはビジネスに組み込まれ、戦略やプロセスそのものを変革していくだろう、としている。

  • 今後のAIの進化の方向性

    今後のAIの進化の方向性

そうした未来を実現するためには、さらなる生成AIの高度化が必要となる。さらなるAIの成長には、高度なコミュニケーションを可能とするマルチモーダル生成AI技術、設定した目標に対しAIモデルやデータベースを組み合わせ提供するComposite AI技術、ハルシネーションを検出するなど安心安全なAI利用を可能とする生成AIトラスト技術が必要だ。

富士通はAI技術の研究開発に取り組むと同時に、AIを迅速にビジネス上で活用するための環境整備も進めている。現在は会議の内容を把握し有益となりそうな情報を提供するAIエージェントや、製造および物流作業を支援するAIエージェントを提供している。

その他にも、プライベート環境で利用可能なLLM(Large Language Models:大規模言語モデル)「Takane」や、AI技術を研究開発の段階から利用できる「Fujitsu Kozuchi」なども提供する。同時に、AIによる出力の品質や倫理的な問題に対処するAIトラスト技術の研究にも取り組んでいる。

変革に向けたアクション

社会への価値創出とビジネスの持続的な成長を実現するためには、人・ビジネス・社会・テクノロジーの4つの領域で変革に取り組むことが重要となる。また、これらの変革を進める際にはAIの活用とクロスインダストリーでのパートナー連携が必要だ。

人とAIの協調では、生産性の向上が期待できる。富士通はさまざまな用途に応じて適切なAI技術を選定し、AI活用に不可欠なデータの変換・拡張やセキュアな環境構築を支援する。AIの技術開発とサービス提供を通じて、顧客の事業成長と人々のウェルビーイング向上に貢献するという。

ビジネスとAIの連携では、不確実なビジネス環境におけるAI活用をサポートする。富士通は散在するデータを統合してAIによって意思決定の高度化を支える「Decision Intelligence」の実現に向けて、コンサルティングサービスをDI PaaS(Data Intelligence PaaS)を提供する。

社会へのAI適用に向けて、富士通は「Fujitsu Uvance」を通じて業種を超えたパートナーとのデータ連携や競争を推進。エコシステムで社会課題の解決を促進する。データスペース上で異なる業界の多様なデータを活用しながら、トラスト技術で業界を横断したデータ連携を実現するという。また、同社は新たなエコシステムの構築とビジネスモデルの創出にも注力する。

テクノロジーの領域では企業競争力向上に貢献するIT基盤で支援する。多くの企業が複雑かつ老朽化したシステムの維持管理に苦労する中で、システムの刷新をコンサルティングから最新技術の導入まで包括的にサポートするとのことだ。

  • 富士通が目指す4つの変革

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