《東京NBC会長に就任》Ubicomホールディングス社長・青木正之「起業のきっかけは阪神・淡路大震災。ITを介して社会に役立つ事業を興したいという思いで起業しました」

経営者が直接指導

 ─ 青木さんは第10代東京NBC会長に就任しましたね。抱負から聞かせてください。

 青木 NBCが設立された1980年代と今とでは環境が大きく変わりました。トランプ米国大統領をはじめとする国際情勢の変化もありますが、多くの起業家が目指す上場に関して言えば、東京証券取引所の基準が厳しくなり、ベンチャー企業が上場を果たすことがより難しくなりました。

 東証や名古屋証券取引所といった証券取引所でのIPOを目指すばかりでなく、バイアウト(経営権取得)やM&Aといったイグジット(投資回収)も選択肢として考えるようになっています。一方で、せっかく上場したのに5年経っても売上高が100億円規模に成長することができず、バリュエーション(企業価値評価)がつかないという企業もあります。

 起業も大事ですが、その後の事業成長をどう導くかを経営者が学ぶことがより大切になってきていると思います。

 そういった中で東京NBCとして何ができるか。その1つが、小学生以上を対象にした起業家教育からアーリーステージ、ミドルステージ、レイターステージ、そして事業承継に至るまでのビジネスの作り方、経営を学べるプラットフォーム機能を持つことです。これは既に井川幸広前会長(クリーク・アンド・リバー社会長)時代から取り組んできました。

 会員の多くが創業経営者、事業成功に至るまで様々な経験を積んだ経営者が集まっています。だからこそ、できることです。小学高学年から高校生、大学生のときにビジネスを学んでもらうために「NBCジュニア委員会」という組織も立ち上げています。

 ─ 早いうちに起業家精神を教え込むというわけですね。

 青木 ええ。更には上場を目指す経営者向けの「IPOスクール」を運営しています。このプログラムでは東証・名証のご協力もいただき、月1回の座学と、上場経験のある会員経営者がメンターとして並走・支援する形をとっています。

 ─ 上場企業の経営者が直接指導をすると。

 青木 そうです。企業はいろいろなビジネスセグメントで成長を模索していくわけですが、そういった個々の事情に合わせてメンター経営者が並走するわけです。ジュニア世代からミドル世代、そして企業発展期を通じてバリューがつき、その後の事業承継までの全ての期間をカバーできるプラットフォームを東京NBCの中に構築したいと考えています。

2025年3月28日に開催された「NBCキックオフ大会2025」で挨拶をする青木会長

企業と企業をつなぐ精神で

 ─ やはり起業家を育てるという理念は変わりませんね。

 青木 はい。我々が次世代の起業家を育てることを辞めてしまえば、単なるサークルになってしまいます。皆で情報交換をするのも大切ですが、我々が何を残すことができるかと考えると、培ってきた経営のノウハウや物事を見る視点などを次世代に伝授しなければなりません。更にもう一歩踏み出すと、家庭の教育環境にかかわらず、子どもたちに起業やビジネスについて学べる機会を作るのも我々の役割ではないかと思っています。

 ─ では、事業承継という局面で東京NBCが果たす役割はどんなことになりますか。

 青木 いま非常に多くの相談が来ているのがM&Aです。M&Aの仲介業者を介さず、東京NBCに直接「あの会社に買っていただけますか?」などの相談が来ているほどです。

 IPOを目指しても適切な監査法人が見つからず、IPO申請に必要な監査証明を受けられない「監査難民」という問題が起っていることも、1つの要因かもしれません。

 ─ 監査法人の人手不足が一因なのでしょうね。

 青木 そうかもしれません。IPOを目指す企業には潤沢なキャッシュがあるわけではないので、監査法人も積極的に仕事を手掛けないということもあるのかもしれません。そういった社会課題に対して東京NBCができることもあるのではないかと思っています。これは我々にしかできません。

 我々は創業経営者、ベンチャー企業の集まりです。新たに生まれる企業、経営者をいかに成長させていくかが念頭にあります。ですから、こういったベンチャー同士をつなぐ役割も積極的に担っていきたいと考えています。

地方創生にも貢献したい

 ─ 一方で年配の経営者からの相談もありますか。

 青木 はい。後継者不足の問題は今後ますます拡大してくのでしょうから、それも見据えて今後、東京NBCのファンドを作りたいと考えているところです。ただ、ファンドといってもイグジットで利益をあげることを目的としているのではありません。全国には伝統のある優良な会社がたくさんあります。しかし、どこも後継者不足で悩んでいる。M&Aという選択肢もあるでしょうし、会員のネットワークを使って海外に商品を売ることもできるでしょう。

 またM&Aの過程では、会員同士であればプロの経営者を紹介することもできるでしょうし、ファンドとして資金を出すこともできるかもしれません。

 一方で、東京NBCに加入されている企業の中から会社で活躍してきた人材が地域の会社の承継をサポートし、成長させるということも考えられるかもしれません。NBCは全国各地域にありますので、連携をしていくこともできるのではないかと考えています。

 ─ 経済団体がそういうことをやれば日本で初めての取り組みになると言えそうですね。

 青木 ええ。ただ資金と人を送るだけでは一般的なファンドと変わりなくなってしまいます。そうではなく、創業経営者が多数参加しているNBCだからこそできることを考えていくことで、NBCの存在意義を伝えていきたいと考えています。

 また、東京NBCには「地方創生プロジェクト」という活動もあります。例えば、九州の企業が東京に進出するときに我々が相談に乗ることもできます。我々は経営を通じて常に現場感を研ぎ澄ませていますから、どういう会社と組めばいいかといった相談窓口の役割を担うこともできるのではないかと思っています。

 ─ 東京NBCも新たなステージを迎えて新しい取り組みを行うということですね。青木さんは43歳で2005年に前身のAWSを創業しましたね。

 青木 はい。父親がベーカリーのチェーン展開を手掛けていましたので、お店をよく手伝っていました。そこで原材料の原価や売れたパンの個数などを一覧表にまとめ、利益を計算するといった商売の基本を学びました。

 ─ そしてワールドに入社しましたね。

 青木 そうです。縁あってワールドの専務をされていた方と知り合い、入社しました。実はAWSはワールドの社内ベンチャーとしてスピンオフする形で創業しました。

 もともとワールドの飲食部門の子会社に入社し、社長室に配属されたのですが、そのときに阪神・淡路大震災が起こりました。これが私のターニングポイントになりました。

 私は被害を受けた事業の立て直しや新規事業の立ち上げを任されたのですが、震災を経て、自分で事業を興して稼がなければ、自分が思うような形の社会貢献はできないと痛感したのです。そんなときに着目したのが情報通信産業でした。

フィリピンの人材を活用

 ─ 青木さんにとっては初めての事業領域だったと。

 青木 はい。周囲からは「素人なのにできるわけがない」とも言われました(笑)。でも私は「だから勝てんねん」と。素人ほど穴を見つけるのが得意だと思っていたからです。目を付けたのがITエンジニア不足でした。このエンジニアの確保が大事になると思って動き出しました。

 そこで注目したのがフィリピンです。日本企業のITアウトソーシングをフィリピンで行う事業に可能性を見出しました。フィリピンの人は英語力に優れており、エンジニアとしても優秀でした。彼らの技術力を活用する会社として立ち上げたのがAWSになります。

 ちょうどその頃、医療現場の働き方や経営が厳しいという話を聞きました。そこで「ITで医療の現場を支えたい」と考えていたところに出会ったのが、レセプト点検ソフトを開発していたエーアイエスでした。

 2012年にグループ化し、今ではAIを活用したソフトに進化しており、全国2万以上の医療機関に導入されています。これからは、販売代理店とのネットワークを活かしたM&A戦略も強化し、この「Mighty」シリーズの販路拡大や直販の強化も進めていく予定です。

 ─ 素人だからこそ他にない発想が生まれたということですね。最後に、なぜGAFAM(グーグル、アマゾン、フェイスッブック=現メタ、アップル、マイクロソフト)が日本で生まれないかと言われます。青木さんはどう考えますか。

 青木 残念ながら、日本では赤字が嫌われるという背景があるからではないでしょうか。もちろん、単に資金がショートしてしまって赤字になる場合もあるかもしれませんが、それ以上に営業キャッシュフローと投資キャッシュフローの捉え方が日本と米国では大分違うと思うのです。

 先行投資が必要なベンチャー企業の経営でも、営業キャッシュフローが赤字になると評価が下げられてしまうという傾向が日本にはあります。しかし米国は逆。米国のベンチャーキャピタルなどの投資家にはベンチャー事業の可能性を認めれば、どんどんお金を出す風土があるわけです。

 ですから米国ではアントレプレナーがどんどん生まれ、評価額が10億ドル以上のユニコーン企業へと育っていくわけです。もちろん、すぐにユニコーン企業になることなどできません。それでも彼らを応援する応援団がたくさんいるわけです。

 ─ 日本にはその応援団が少ないですよね。

 青木 はい。加えて米国では新たな事業をリサーチしている専門家がたくさんいます。ですから、事業の中身を見極めると共に、適切なタイミングでイグジットして自分たちも利益を得ると同時に、投資した事業の成長もサポートしています。しかし日本は予算という形で部門ごとに積み上げていく考え方をしがちです。そこが米国との大きな違いですよね。

 いずれにしても、当社もまだまだ企業規模としては大きくはありません。しかし、夢を持っている社員がたくさんいます。その夢を実現させるためにも、先行投資をしながら次に向けたチャレンジをしているところです。

 それは東京NBCでも同じです。創立からの40年で積み上げてきた歴史、井川前会長時代に拡大させた会員規模、より大きく改善した財政基盤。ベースが整いました。会長という大事な立場になったからには、これをさらに発展させ、次代の経営者・成長事業を生み出すプラットフォームとして、大きな夢を持つ会員に喜んでもらえるような団体にしていかなければならないと思っています。

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