富士通は6月3日、金融機関のDX(デジタルトランスフォーメーション)を支援する新たなビジネス戦略「Uvance for Finance」を発表し記者説明会を開いた。新戦略において体系化したUvance for Financeでは、信頼性の高い勘定系ソリューションと店舗ソリューションをそれぞれ進化させるとともに、そこから得られるデータを活用して人々の生活を豊かにするスマートソサエティの実現を目指すという。
同社がこれまでに培ってきた金融業務ノウハウと、社会課題を起点としたオファリング群「Fujitsu Uvance」、さらにAIなどのテクノロジーやオープンアーキテクチャを結集して提供する。
富士通が実現を目指す金融機関支援ソリューションの全体像
下の図は、富士通が目指す金融サービスの全体像。銀行の根幹たる勘定系ソリューションと店舗系ソリューションを中心に、そこから得られるデータを活用しながら、オンライン・オフラインを含めて多様化する顧客接点にも対応可能なプラットフォームを構築するという。プラットフォームを介して集めたデータは、AIによって金融サービスの自動化や顧客一人一人への最適化などに活用される。これにより、人々の生活を豊かにするスマートソサエティの実現を目指すとのことだ。
柔軟かつ拡張性の高い勘定系ソリューションを展開
5月7日に発表したように、勘定系ソリューション「Fujitsu Core Banking xBank(クロスバンク)」を採用したソニー銀行の新勘定系システム(次世代デジタルバンキングシステム)が稼働を開始した。
富士通 執行役員常務で金融ビジネスを担当する八木勝氏は「このソリューションは長い時間をかけて準備してきた。当社のこれまでの勘定系のナレッジを集約し、クラウドネイティブなソリューションを構築できた」と、振り返った。
富士通が今後の金融機関サービスを支援するために開発したxBankは、さまざまな業種・業務やサービスと連携しやすいソリューションとする方針が、その名称に込められているとのことだ。内部・外部のAPI(Application Programming Interface)を掛け合わせたり、一部の機能のみを選んで組み合わせたりして活用できるソリューションとして設計した。
同ソリューションはマイクロサービスアーキテクチャを採用しており、ITレジリエンスを強化するとともに従来の銀行勘定系システムと比較して約60%の資産規模削減を実現。一方で銀行取引のデータを担保するために、整合性を取る必要がある部分についてはAPI化して銀行に提供する仕組みを備える。
このソリューションのもう一つの特徴として、業務機能単位でサービスが独立しているため、必要な機能のみを選択したり、組み合わせたりして活用できる。導入銀行のビジネス規模の変化に応じたサービス拡張にも対応する。例えば、「外貨預金の機能のみ使いたい」といったニーズにも対応可能。
同社は今後、xBankのソフトウェア資産をAIに学習させ、金融法令改正対応や各行の個別要件対応のアプリケーション保守作業を効率化するなど、AIによる品質向上にも取り組むという。AIは設計書の修正の提案や修正ソースの提示、テストコードの生成など、効率的な商用環境デリバリーを支援する。
「ここで使われた設計ドキュメントや修正されたプログラムはAIの再学習にも使い、次のメンテナンスに備える。AIドリブンな開発や保守にチャレンジしたい。すぐさま成果が出るとは思っていないが、AIと向き合いAIの徹底活用を進めていく」(八木氏)
店舗ソリューションでオムニチャネルな顧客対応と業務効率化を実現
同社が開発した「Digital Branch(デジタルブランチ)」は、金融窓口業務のデジタルサービス化と業務効率化を支援する店舗ソリューション。AI活用により窓口スタッフの意思決定の迅速化や働き方の変革、顧客体験の向上に寄与するという。デジタルチャネルでの操作と現金が必要な手続きを統合的に管理するといった、対面と非対面のシームレスな連携を実現する。
このソリューションの中核となるのは、同社が従前から提供してきたFBC(Financial Business Components)。これを中心にクラウド上で各種ソリューションを提供することで、店舗はオンラインやオフラインを問わずにオムニチャネルでの顧客接点を構築できる。
FBCは全国33の金融機関で稼働中(2025年3月時点)であり、中でも広島銀行や東和銀行では先行してクラウド版が稼働中だ。また、静岡銀行、伊予銀行、ふくおかフィナンシャルグループではクラウド化に向けた検討が進められている。
富士通は今後、金融機関から生まれるデータを活用してスマートソサエティを支えるプラットフォームの構築を進めるという。金融機関が保有するデータやクレジットデータなどを組み合わせて「Fujitsu Data Intelligence PaaS」上において処理することで、小売り、流通、製造、ひいては個人のヘルスケア分野を対象に最適な情報提供ができる仕組みを目指す。
ATM・営業店専用ハードウェアを提供終了
同社は今後の金融ビジネス拡大に向け、従来型の店舗を保有する銀行をはじめネットバンクなどデジタル化を積極的に進める銀行まで、多様なビジネスニーズに対応可能なソリューションを展開する方針。これにより、シェア拡大と金融業種ナレッジの蓄積を進め、メガバンクや地域金融機関を含めた金融ビジネスの拡大を図る。
特にネットバンク勘定系システムのシェアについては、2025年の31%から2035年には50%以上のシェア獲得を目指す。同様に、営業系システムのシェアは2025年の34%から2035年には50%以上を目指すとしている。
デジタルサービスの提供と「Fujitsu Uvance」などオファリングの提供拡大というポートフォリオの変革に伴って、同社はATMおよび営業店専用ハードウェアの提供を2028年3月末で終了する。なお、保守サポートの終了は2036年3月末となる。
これに対し、富士通はOKI(沖電気工業)とATMおよび営業店専用ハードウェアの調達に関する基本合意を締結。今後はOKI製のハードウェアに富士通のソフトウェアを組み込み、富士通からも販売するという。