日本電信電話(以下、NTT)は5月29日、幅広い領域における協業関係の構築を目的として、SBIホールディングスと資本業務提携契約を締結することを同日開催の取締役会において決議したことを発表した。これに合わせて、NTT、SBIホールディングス、NTTドコモ、住信SBIネット銀行各社の社長による記者説明会が開催された。
NTTドコモは住信SBIネット銀行の普通株式を金融商品取引法に基づく公開買付けにより取得する。また、住信SBIネット銀行および三井住友信託銀行との間で業務提携契約を締結する。
NTTはSBIホールディングスが実施する第三者割当増資の引受けにより、SBIホールディングスの普通株式2700万株を取得する。取得金額は約1108億円となる見込み。2025年3月31日現在の発行済株式総数(3億305万6907株)に、当該第三者割当増資により増加する株式数(2700万株)を加味した発行済株式総数(3億3005万6907株)に対する割合は約8.18%。
NTTはSBIグループのアセットで金融事業を拡大
説明会では、まずNTT代表取締役社長の島田明氏がSBIホールディングスとの協業の意義について説明した。NTTは2023年5月に公表したグループ中期経営計画において、パーソナルビジネスの強化や、顧客体験(CX)を重視したサービスの強化を取り組みの柱に設定している。
そこで、SBIホールディングスとの資本業務提携を締結することで、デジタル技術と金融サービスを融合し、金融領域を中心に革新的なサービスを市場に提供する。また、社会の発展を目指すパートナーとして両グループのアセットを活用した協業関係を構築する。加えて、社会課題の解決と顧客の利便性向上に寄与し、持続可能な社会の構築に貢献するとのことだ。
島田氏は両グループの協業で取り組むこととして、「銀行・証券領域における提携関係の維持と強化」「資産運用・セキュリティトークン・保険分野における新たなサービスの創造」「金融サービス事業におけるシステムの高度化」「その他分野における両グループのアセットを活用した提携」を挙げた。NTTドコモによる住信SBIネット銀行の連結子会社化は、その一環に位置付けられる。
「両グループはこの新しい協力関係が、未来に向けたさまざまな挑戦の基礎となることを期待している」(島田氏)
島田氏は過去の決算会見などで、「銀行業のパートナーを探してはいるが、帯に短し襷(たすき)に長しといった状態」だと話していた。そのことに触れ、説明会では「銀行業に参入するに当たり、ATMや実店舗などは不要と考えていた。その中で、住信SBIネット銀行はまさに帯にもなるし襷にもなるベストなパートナー」だと語った。
NTTドコモによる子会社化後もSBIグループのシナジーは継続
続いて、SBIホールディングス 代表取締役会長兼社長の北尾吉孝氏が、NTTグループとの資本業務提携の意義を説明。同氏は「SBIホールディングスは住信SBIネット銀行の生みの親として、住信SBIネット銀行がNTTグループの参加となることで同行の高成長を持続させる責務がある」と語った。
SBIホールディングスは住信SBIネット銀行がNTTドコモ傘下に入っても縁を切るのではなく、SBIホールディングスの株式の一部をNTTグループが保有することで両グループのシナジーを強化し、売却後もSBIグループとして住信SBIネット銀行を支援するという考えだ。
なお、NTTドコモは2023年10月にマネックス証券を連結子会社化している。住信SBIネット銀行を通じた銀行サービスと証券サービスの連携については、SBI証券とマネックス証券を公平かつ公正に扱い、顧客中心主義に基づいて両サービスの顧客の利便性を損なわないとして、両社が合意したそうだ。
SBIグループはこれまでに、5400万件を超える顧客基盤を構築してきた。一方のNTTドコモは9000万件超の携帯電話契約数を保有する。両社の連携により顧客基盤を強固なものにし、dポイント投資やdカードによる投信積立を提供予定だ。その一方で、SBI証券はオープン・アライアンスを基本とし、VポイントやPayPayポイントをはじめ各種サービスのポイントを活用できるマルチポイント経済圏は引き続き拡大する。
SBIホールディングスは今後、資産運用や保険といった金融だけでなく、NTTグループのIOWNなど先端技術を活用し、Web3やメディア事業を強化する方針だ。IOWNによる大容量かつ低遅延な通信により、SBIホールディングスはデジタルビジネスの高度化を図る。
NTTドコモがいよいよ銀行事業へ参入
次に、NTTドコモ代表取締役社長の前田義晃氏が、住信SBIネット銀行の連結子会社化について説明した。NTTドコモは2005年に決済サービス「iD」を開始して以降、dポイントやd払い、dスマホローンなど金融事業を拡充してきた。2023年にはマネックス証券と、翌年にオリックス・クレジットとそれぞれ資本業務提携を締結した。
KDDIやソフトバンク、楽天ら競合他キャリアが銀行サービスを提供する中、出遅れていたNTTドコモとしてはまさに待望の銀行事業参入となる。これにより、同社は銀行口座と金融サービスの一体化による便利な金融サービスの提供、データを活用した最適な金融サービスの提案、顧客基盤の強化、ドコモのチャネルを通じた顧客獲得と収益拡大を、それぞれ実現する。
「銀行業への参入にあたっては、自社設立も含めてあらゆる選択肢を慎重に検討してきた。その結果、ドコモが提供する金融サービスに必要な機能を有する住信SBIネット銀行こそが最良のパートナーだと判断した。住信SBIネット銀行は経営基盤の安定性と収益性に加え、高度なAIやデジタル技術などの先進性を備えている」(前田氏)
NTTドコモは5月30日~7月10日(予定)、1株当たり4900円で住信SBIネット銀行に対する株式公開買付けを実施する。一般株主保有分とSBIホールディングス保有分を取得し、2025年第3四半期以降に住信SBIネット銀行を連結子会社化する予定。なお、これによりNTTドコモは住信SBIネット銀行の発行済み株式のうち65.81%を取得するが、議決権比率については三井住友信託銀行と50%ずつ保有する。
住信SBIネット銀行 代表取締役社長の円山法昭氏は、「当社はAIやクラウドなどデジタル技術に集中的に投資してきた。NTTドコモが持つ顧客基盤やクレジットカード、ポイント事業など、当社が持っていないアセットを今回の連携によって当社は手に入れることができる。これによってさらなる成長が期待できる」と話していた。
また、「SBIホールディングスとの提携もこれまで通り維持される。当社にとってはプラスの効果しかない。さらに成長を加速しより良いサービスを提供していく」とも述べていた。