Microsoftの研究チームは5月21日(現地時間)、Nature誌において地球システム予測のための大規模AIモデル「Aurora」に関する論文「A foundation model for the Earth system」を発表した。
このモデルは、100万時間以上の多様な地球物理データで事前学習を行い、空気質、海洋波浪、熱帯低気圧の進路、高解像度の天気予報など、複数の分野で既存の運用予測システムを上回る精度を実現したという。
さまざまな種類の気象イベントを高精度で予測
Microsoftは近年、気象予測の分野におけるAI技術の活用に関する研究に多大な労力を注いでいる。その成果は、同社が提供する天気予報サービス「Microsoft Start Weather」などに反映されている。Microsoft Start Weatherは、2023年と2024年に2年連続で「世界で最も正確な天気予報プロバイダー」に認定され、AIを活用した予測の精度の高さを証明した(関連記事: Microsoft Start Weather、2年連続で「世界で最も正確な天気予報プロバイダー」に | TECH+(テックプラス))。
今回発表された大規模AIモデル「Aurora」のユニークな点は、天気予報にとどまらず、あらゆる地球システムを扱うことができることにある。Auroraは異なる解像度や変数を統一的に扱うことが可能であり、利用可能なデータがあれば、大気汚染やサイクロンなど、環境における他の重要な要素を予測するように訓練することもできるという。
論文では、5日間の熱帯低気圧の進路予測や、大気の組成の予測、それを利用した砂嵐の発生予測、10日間の海洋波浪予測などにおいて極めて高い性能を示したことが紹介されている。
従来の数値予測モデルでは、高性能なスーパーコンピューターや専門的なエンジニアリングチームが必要であり、計算コストが極めて高いという課題があった。Auroraは、これらのモデルと比較して桁違いに低い計算コストで同等以上の精度を達成しており、より低コストで予測を行うことができる。また、少量のデータで迅速にファインチューニングが可能であり、特定の用途や地域に特化した予測モデルの構築が容易になるという。
Auroraは既存システムを補完するもの
Auroraの開発は、地球システム予測におけるAIの可能性を示すものであり、気候変動や自然災害への対応、農業や医療、商業活動など、さまざまな分野での応用が期待される。特に、降雨予測の精度向上、農作物の物流の向上、電力網の保護に対して、Auroraがどのように応用できるかに注目が集まっているとのこと。
Aurora研究チームの一人であるMegan Stanley氏は、Microsoftのブログ記事「From sea to sky: Microsoft’s Aurora AI foundation model goes beyond weather forecasting - Source」において、「Auroraやその次に来るものは、既存の予報システムに取って代わるのではなく、補完するものになる」という見解を述べている。
Auroraが物理法則をどれだけ正確に学習しているかを把握するには、まだ多くの研究が必要だという。本当に正しく学習できているのであれば、今後さまざまな予報の精度が飛躍的に向上する可能性がある。いずれにしても、今後の展開が非常に楽しみだ。