Microsoftは2025年5月19日から22日にかけて、開発者向けの年次イベント「Microsoft Build 2025」を開催している。その中で同社は、ビジネスアプリケーションやクラウドサービス、開発者向けツールなどに関する50以上の新機能を発表した。

発表の内容は多岐にわたるが、全体的にはAIによる支援機能の統合や業務最適化に関するものが大半を占めており、AIを中心とした未来のビジョンを提示するものとなった。以下、注目すべき発表を紹介しよう。

  • Microsoft Build 2025: Microsoft CEO Satya Nadella氏

    Microsoft Build 2025: Microsoft CEO Satya Nadella氏

Windows 11がネイティブでMCPをサポート

極めて大きなインパクトを与えた発表は、Windows 11におけるMCP(Model Context Protocol)のネイティブサポートだろう。MCPは、異なるAIモデルやエージェントが共通のコンテキストを共有し、より一貫性のある対話やタスク実行を可能にするための標準プロトコルである。MCPを使えば、例えばCopilot Studio内の複数のエージェントが連携し、ユーザーの意図や前提条件を共有しながら複雑な業務を処理できるようになる。

WindowsのMCPサポートでは、ファイルシステムやウィンドウ管理などのシステムアクションがMCPサーバとして提供され、AIアプリケーションやエージェントからアクセスできるようになる。また、Windows上の各種アプリケーションは、MCPサーバのリストをレジストリーとして提供することで、AIアプリケーションやエージェントが利用可能なMCPサーバーを確認できるようにする。

さらに、アプリケーションの開発者は、自前でMCPサーバを実装しなくても、App Actions APIを通じて特定の機能をAIアプリケーションやエージェントに提供できるようになる。

MicrosoftではAnthropicやOpenAI、Googleなどの主要AI企業と連携してMCPを推進しており、Windows 11以外にも多くのアプリケーションやサービスでMCPのサポートを発表している。

AIによって劇的に変わる開発体験 - GitHub Copilot Coding Agent、Copilot Studio

GitHub Copilotでは、コーディング作業を自律的に行える「GitHub Copilot Coding Agent」が発表された。Copilot Coding Agentでは、GitHubのIssueをエージェントにアサインすると、課題解決のためのプログラミングやコードのリファクタリング、テストやビルドなどを自動で実施してくれる。これによって、AIエージェントを開発メンバーの一人として作業に従事させることができるという。

また、Copilot Studioでは複数のAIエージェントが連携してタスクを遂行する「マルチエージェント」機能がプレビュー版として公開された。これによって、開発者はより複雑な業務プロセスの自動化が実現できるようになる。

AIアプリケーションのライフサイクル全体をカバーする「Azure AI Foundry」

Azure AI Foundryは、Azure上でAIアプリやAIエージェントを設計、カスタマイズ、管理するための統合プラットフォーム。開発者は、プロジェクトの目標定義からモデルの選定、カスタマイズ、テスト、デプロイ、監視まで、AIアプリケーションの開発ライフサイクル全体を一貫して管理することができる。

さまざまなAIモデルを選択して実行できる「Azure AI Foundry Models」では、新たにxAIが開発したGrok 3をサポートすることが発表された。また、「Azure AI Foundry Agent Service」の一般提供が開始され、エンタープライズグレードのAIエージェントの設計やデプロイによって、ビジネスプロセスを自動化できるようになった。さらに、A2A(Agent2Agent)やMCPなどのオープンプロトコルをサポートすることで、エージェントフレームワークやエコシステム間での相互運用性も高まっている。

オブザーバビリティの確保をサポートする「Azure AI Foundry Observability」のプレビュー公開も始まった。これによって、AIアプリケーションのライフサイクル全体を通じて、パフォーマンス、品質、安全性をリアルタイムで監視・評価することが可能になる。

その他、Azure AI Foundryの機能の一部をWindowsおよびmacOSのローカル環境で利用可能にした「Azure AI Foundry Local」にも注目したい。これを使えば、セキュリティやプライバシーへの配慮が重視されるシチュエーションでも、オフライン環境でもAIアプリケーション開発が可能となる。Azure AI Foundry LocalはWindows上のAI実行環境「Windows AI Foundry」の一部として提供される。

専門知識を取り込んで業務への最適化を実現 - Microsoft 365「Copilot Tuning」、Teams

Microsoft 365では、AIエージェントの調整をサポートする「Copilot Tuning」が発表された。これは、CopilotのAIモデルに対して組織独自のデータやワークフロー、プロセスなどを学習させることで、組織や業務に最適なアウトプットを実現できるように調整するツールである。これによって、企業が自社の知識を活用してAIモデルをカスタマイズできるようになる。

業務効率化という点ではTeamsの進化も注目すべき点である。Teams向けには、新たにA2Aプロトコルのサポート、最新のTeams AIライブラリー、エージェントメモリ機能、エージェント検証の自動化などの機能が発表され、5月よりプレビュー版が利用できるようになる。これらのアップデートによって、安全でコンプライアンスに準拠した開発環境を確保しながら、生産性と企業効率を向上させる協調的なエージェントの作成が可能になるという。

WSLのオープンソース化で開発への参加が可能に

「WSL(Windows Subsystem for Linux)」は、今やWindows上でアプリケーションやITシステムを開発するエンジニアにとって必須の存在である。Microsoftは今回、このWSLをオープンソース化することを発表した。従来でもWSL2向けのLinuxカーネルなど一部コンポーネントはオープンソースだったが、それ以外の一連のコンポーネントもMITライセンスで提供されるようになった。

開発者は今後、WSLのソースコード・リポジトリーにアクセスし、Issueを投稿したり、プルリクエストを送って開発に貢献したりできるようになる。

「BOOK OF NEWS」で発表の全貌を把握しよう

ここで取り上げた以外にも、Build 2025では非常に多くの新機能やアップデートが発表されており、MicrosoftのAI戦略の全貌を明らかにしている。発表内容については、Microsoft公式サイトの「BOOK OF NEWS」に詳しくまとめられている。