
官と民の関係が変化してきた。かつての接待問題により、官と大企業の関係は急に冷めた。一方で、この10年を振り返ると、官とスタートアップの距離がとても近くなったように思う。
経済産業省による大学発ベンチャーに関する調査によると、起業数は、東京大学で、慶應大学、京都大学へと続く。中でも、東京大学が飛び抜けて多い。これらの大学卒業生は、国家公務員にも多く、学生時代からの縁が両者をつなぐ。
大手企業の役員と官僚幹部も同様の関係性があるが、起業家の場合、年齢層が大企業の役員とは異なり、官僚の世界で最も現場を動かしている課長や課長補佐クラスと年代が重なる。
インターネットが普及し、AI(人工知能)をはじめとした先進デジタル技術を使うスタートアップにとっては、デジタルがなかった時代に制定された各種法律が足枷になったり、そもそも、ルールがないためにサービスを開始できなかったりするため、ロビイング部門を持つスタートアップや同業種で集まって協会を立ち上げるスタートアップも少なくない。
そのため、スタートアップたちの霞ヶ関とのコミュニケーションは、かつてのような陳情型や御用聞き型ではない。サービスを立ち上げ、顧客からの支持や実績を示し、社会のニーズに基づいた法律の改正やルールの制定を提案する。ある意味、官民協働での社会創造の提案でもある。企業がリスクをとった上で、官に働きかけている。
例えば、クラウド・カメラの映像データ管理を担うセルフィー社は、政府に頼ることなく、建設現場の人手不足解決のための事業を開始した結果、業界標準づくりを経産省と一緒に手掛けることになった。
40歳前後のスタートアップと官僚が、デジタル社会の未来の姿を描き始めている。一方で、政治のリーダーは今なお世代交代はされていないが、デジタル技術の進歩にはついていけず、比較的若手政治家にその施策づくりは委ねられている。その結果、スタートアップ・官僚・若手政治家による。新たなルールづくりや基盤づくりが進んでいる。
相変わらず年功序列でリーダーが決まる大企業にとっては、厳しい状況に見えるが、そうではない。組織力と資本力など、大企業がすでに持つアセットは、社会基盤を本当の意味でトランスフォームし、日本の国力を増大する力になる。
大企業のリーダーが自らが持つアセットをスタートアップ・官僚・政治家にいかに使ってもらい、そのアセットを経済価値を生むものに変えていくことができるかが、腕の見せ所だ。