米Nutanixは、Washington, D.C.のWalter E. Washington Convention Centerで5月7~9日の3日間の会期で年次イベント「Nutanix .NEXT 2025」を開催している。同7日午前中の基調講演では、同社のCEOのラジブ・ラマスワミ氏が同社の最新の取り組みなどについて語った。
「さまざまなことが大きく変化した」 - ラマスワミCEO
まず、ラマスワミ氏はLLM(大規模言語モデル)の大流行からAIエージェントの本番導入が一気に加速した昨今の業界動向を踏まえて「毎年、われわれのカスタマーやパートナーが一堂に会することができるこの場を、とても楽しみにしている。2024年のイベントからの1年でさまざまなことが大きく変化した」と語った。
そのうえで、普遍的に企業ITで求められる要件として「Simplicity(単純さ)」「Freedom of Choice(選択の自由)」「Automation(自動化)」「Lower TCO(TCOの軽減)」「Security(セキュリティ)」「Customer Delight(顧客満足)」といった要件を挙げ、Nutanix Cloud Platformにおける「変わらない約束」だと強調した。
今回のイベントの主要テーマは“Move to a Modern Infrastructure(インフラのモダナイズ)”、“Build Apps and Run Anywhere(アプリケーションの可搬性向上)”、“Nutanix Enables Agentic AI Anywhere(AIエージェント活用支援)”の3つ。インフラのモダナイズの観点から見ていこう。
Pure Storageとの協業
まずは、引き続きVMwareからの移行サポートが大きなテーマとなっている。ラマスワミ氏は.NEXT 2024で発表された、Nutanix Cloud PlatformでDell PowerFlexを外部ストレージとしてサポートする「Nutanix Cloud Platform for Dell PowerFlex」が一般提供(GA)となったことを紹介。
この取り組みのさらなる拡大として、新たにPure Storage(ピュアストレージ)のFlashArrayがサポートされることが明かされた。
2025年夏にアーリーアクセス(EA)が開始され、GA開始は2025年末を予定している。先行したDell PowerFlexがEAからGAに移行するのに1年を要したが、その経験が蓄積されたことで開発速度が向上したという。
同氏は「両社の協業は以前には想像もできなかったが、今後NutanixとPure Storageが共同でワールドクラスのソリューションをユーザー企業に提供できる」とした。
Pure StorageのCEOのチャールズ・ジャンカルロ氏もビデオメッセージを寄せており「従来はシングルベンダーの仮想化技術によってシンプル化するか、ベストオブブリードの柔軟性と性能をとるか、ユーザー企業は二者択一を迫られていたが、この状況は変わった」とコメント。
続けて、同氏は「ユーザーはシンプルさと性能、迅速性(agility)とコントロール、これらを両立したい。共同で、ミッションクリティカルな仮想化環境のために設計された、モダンなシンプル化されたインフラを提供する。Pure StorageのFlashArrayはNutanix Cloud Infrastructureにネイティブで統合され、Pure StorageのストレージOS『Purity』と運用管理システム『Pure1』がもたらすパフォーマンスと効率性を獲得できる」と、両社の協業の意義を語った。
Nutanixによる外部ストレージのサポートは、同社が実現したHCI(Hyper-Converged Infrastructure)というコンセプトからは外れる取り組みのようにも想定される。コンピュート/ネットワーク/ストレージがHCIで統合されたところ、再びストレージを分離する取り組みであるように見える。
一方でVMwareをはじめめとするハイバーバイザ環境からの移行を考える場合、既存のストレージ環境をそのまま移行できることのメリットは大きく、ユーザーの移行障壁を軽減することに寄与するだろう。
両社の連携がどのレベルで実現され、具体的にどのような環境になるのかまだよく分からない部分も多いが、VMwareからの移行という突発的な事象を受ける形で一気に高まったNutanixに対する注目度の高まりが決して一過性のものではなく、同社のソフトウェアの完成度がユーザーや競合ベンダーからも高く評価されていることを示しているように思われる。
このほか、「Nutanix Move」による移行作業の高速化(2025年夏)、移行促進のための新機能として「In Place Migrations」(2025年末)、AWS、Microsoft Azureに加え、Google Cloud PlatformでもNutanix Cloud Platformが利用可能(同)といった新発表も行なわれた。
コンテナ環境の整備とAI向けの取り組み強化
ITインフラのモダナイズという観点では、ハイパーバイザの移行に加えて、VM(Virtual Machine:仮想マシン)上で稼働しているレガシーアプリケーションをクラウドネイティブなコンテナ環境へと移行することも重要なテーマである。
この点に関して、同社はハイパーバイザ不要のエンタープライズ向けストレージ/データサービス「Cloud Native AOS」の発表も行なった。
中核ソフトウェアであるAOSをコンテナ化してハイパーバイザに依存しない形で書き直したものだといい、ベアメタルのLinux環境からパブリッククラウド上まで、あらゆる環境で動作可能な一元的なデータプラットフォームとなるという。
もともとHCIがSDS(Software Defined Storage:ソフトウェア定義型ストレージ)とVMを基盤として、スケールアウト型の分散環境として実装されたことを考えると、HCIというコンセプト自体のモダナイズを完了したと言えるのかもしれない。
また、Nutanix Enterprise AIがアップデートされ、企業におけるAIエージェントの活用支援に繋がる機能の強化がさまざま盛り込まれた。AIアプリケーションの多くはコンテナ環境上で実装されるようになっているため、前述のCloud Native AOSと合わせ、NutanixのプラットフォームをAIアプリケーションのために活用するユーザーにとっての利便性がさらに向上することになる。
Nutanix .NEXTでは、3年前のスポンサー企業数が31社、昨年は55社だったところ、今年は85社にまで拡大したという。同社の存在感の高まりや、パートナー・エコシステムの拡大状況を如実に示す数字と言えるだろう。
登場当初のHCIはシンプルさを重視したやや特殊な環境という印象もあったが、その後のクラウドシフトを乗り越え、さらにVMware買収なども追い風としながらも適用範囲を大きく拡大し、ストレージ業界やデータマネジメントの領域で確かな存在感を発揮し始めている。
AIの活用が注目を集める中、AIのために必要となる大量のデータを効率的に管理するというニーズが高まり、それもユーザー企業にデータ・プラットフォームを再考する追い風となっている。多くの企業に取って、Nutanixの取り組みは無視できない大きな価値を持つものと言えそうだ。