TISインテックグループのTISと大阪大学 量子情報・量子生命研究センター(以下、大阪大学)は5月7日、組合せ最適化問題に対する新量子アルゴリズム「フェルミオン型量子近似最適化アルゴリズム」(以下、FQAOA)を共同で開発し、電力需要ポートフォリオ最適化問題に適用した成果について発表した。
同アルゴリズムは従来の量子最適化アルゴリズム「XY-QAOA」と比較して、電力需要の資源配分の最適化における計算精度を約10倍改善することに成功したという。この研究成果は量子計算分野のカンファレンス「IEEE Quantum Week 2024」で口頭発表および論文発表された。
開発の背景
再生可能エネルギーの普及により、従来の大規模発電所による集中型供給から分散型エネルギーリソースを活用するモデルへと転換が進んでいる。これに伴い、分散型リソースを束ねて需給調整を行うリソースアグリゲーションビジネスが注目されている。この分野では、VPP(Virtual Power Plant:仮想発電所)を構築し需給バランスを最適化する「アグリゲーション・コーディネーター」と、需要抑制を通じて所望の電力量を供給する「リソース・アグリゲーター」が重要な役割を担う。
特に、リソース・アグリゲーターは複数の需要家から提供される需要抑制量を適切に組合せることで、変動の大きい環境下でも安定的な電力調達を実現する必要がある。このようなリソースアグリゲーションビジネスにおける電力需要ポートフォリオ最適化には、量子最適化アルゴリズムの導入が重要な役割を果たすと期待される。
しかし、調達量の確保と安定性の両立を求められるこの問題については、従来の量子最適化アルゴリズム「XY-QAOA」では調達計画を満たすことが困難であり、計算精度の限界により実際の需要抑制量と期待される電力量との乖離が課題となっていた。
そこでTISと大阪大学は共同開発した「FQAOA」を改良し、電力需要ポートフォリオ最適化問題に適用。この「FQAOA」は所望の調達量に適合した需要抑制量を集約するためのバランス条件を適切に考慮した新しい最適化アプローチを採用することで、従来手法と比較して計算精度の向上を実現している。
研究内容とその成果
「FQAOA」は両者の共同研究において、量子技術に関する情報共有と専門的な議論を重ねる中で開発されたという。研究ではフェルミ粒子の挙動を記述する理論を応用し、量子回路を改良した。特に、フェルミ粒子間の相互作用を近似的に扱う手法であるハートリー・フォック近似を取り入れることで、計算精度の向上を図ったとのことだ。
アルゴリズムの評価においては、20軒の需要家を対象に24時間を3時間単位に分割した時間帯ごとに希望する調達電力量に対して、需要家の組合せ最適化を実施。また、量子回路の「近似レベル0」(最も簡略化された状態)を含む複数の近似レベルで、「FQAOA」と従来手法「XY-QAOA」の比較検証を実施した。なお、ここでの「近似レベル」は一連のQAOA手法において使用する量子回路の深さを示す指標であり、数値が高いほど高精度な解が得られる。
従来手法では、特に近似レベルが0の場合に最適解との誤差が27.6%に達していた。しかし「FQAOA」の導入によりその誤差は2.5%にまで改善された。さらに、全ての近似レベルにおいても従来手法より「FQAOA」の誤差が一貫して小さいことが明らかになった。この精度向上により最適化プロセスが飛躍的に効率化され、計算結果の信頼性も向上している。
また、所望の調達電力を全時間帯で1~2キロワット時とした場合の計算結果(近似レベル10における出力)において、18時から21時の時間帯では従来手法では電力の獲得量が2.23±0.858キロワット時だったのに対し、「FQAOA」を用いた場合は1.57±0.604キロワット時と、より精度の高い電力調達が可能になった。これにより、期待される調達量と実際の需要抑制量との乖離を抑え、安定的な電力調達への貢献が期待されるとのことだ。