シリコンバレーのテック企業の中にはDE&I(多様性、公平性、包括性)の取り組みを減速させる動きがあるが、ITディストリビューターのTD SYNNEXは取り組みを加速させている。同社はこの度、女性社員を支援する従業員コミュニティ「ELEVATE」を日本で始動させたところだ。

同社のヨーロッパ地域担当プレジデントで、ELEVATEを支援するMiriam Murphy(ミリアム・マーフィー)氏は、「高い業績を収めるためにダイバーシティは不可欠」と言い切る。Murphy氏に同社の取り組みについて聞いた。

  • TD SYNNEX ヨーロッパ地域担当プレジデント Miriam Murphy氏

TD SYNNEXではDE&Iをどのようにとらえ、どのような活動を展開しているのでしょうか?

Murphy氏: われわれはDEIを、イノベーション、エンゲージ、そしてビジネスが成功するための中核となる要因と位置付けています。TD SYNNEXは55カ国で展開するグローバルカンパニーであり、グローバル性や包括性を反映することは重要です。

また、「サーバントリーダーシップ」という考え方を大切にしています。これは、数値的な目標の到達だけではなく、幅広いタレント(人材)を惹きつけるためにリーダーが現場に寄り添い、ヒアリングをして上に引き上げていくためのメンターになるという考え方です。

そのような考えの下、DE&Iを中核として、従業員が自分の価値を認めてもらっている、エンパワーされている、支援が得られるという環境作りを進めてきました。

具体的な取り組みとしては、複数のイニシアティブや従業員リソースグループ(ERG)があります。その一つがELEVATEです。ELEVATEは女性社員のキャリア形成を支援するもので、5~6年前にスタートし、最大のERGとなりました。地域も米国・欧州に加えて、今回日本でも展開することになりました。

ELEVATEの具体的な活動、成果について教えてください

Murphy氏: 女性社員がキャリアを構築するための機会、そして課題と両方について認識を高めることを目指して、能力開発のワークショップやセミナーを開催したり、メンターがコーチングを行うなどの活動を展開したりしています。

グループでのリスニングやディスカッションもあり、国際女性デーのようなイベントも活用しています。外部イベントへの参加は、当社が働く上で素晴らしい場所であるという認識を持ってもらうという目的もあります。

重点を置いているのがメンターシップです。というのも、従業員から「女性の社員のロールモデルがない」「メンターがいない」という意見が上がっていたからです。欧州ではメンターシッププログラムを導入しました。女性の社員と男性のメンターをペアにしたところ、リバースメンターシップとして、男性の理解が深まり、女性が活躍するためにどうすればよいのかを考えるようになりました。

--成功した理由はどこにあると分析していますか?--

Murphy氏: 女性社員にメッセージを伝えることができたことは、成功の要因の一つだと思います。加えて、男性社員にも参加を奨励しています。ジェンダー平等におけるアライシップが成功に必要だと信じているからです。

今回日本でもELEVATEを始動するとのことですが、日本固有の課題、期待はありますか?

Murphy氏: ELEVATEはその国や地域の文化や状況に合わせて拡大しています。最終的には全地域に浸透させていきます。

日本は少し時間がかかりましたが、素晴らしい女性リーダーがおり、従業員の女性比率も37%に達しています。日本のビジネス成長を支援するという機会とタイミングを考慮すると、この取り組みを展開する準備ができたと感じました。

日本固有の課題は感じていません。文化的な規範を変えることは一夜にして成し得ません。変革というより、進化です。市場のペースに合わせると同時に、市場を奨励しながら進めていくことが大事だと考えています。

4月末に大阪で開催されたイベント「Women in Tech Global Summit 2025」に協賛した理由をお聞かせください

Murphy氏: 持続可能な変化はリーダーシップ、コミット、絶え間ない努力を必要とします。そして、当社が本気であり、取り組んでいるということを社員、そして市場に示す必要があります。それが協賛の背景です。

Women in Tech Global Summitはテクノロジー業界における女性の機会を高めることを目標に、業界の内外からさまざまなパートナーを呼び込み、よりインクルーシブになるにはどうすればいいのかなど、重要なテーマについて話し合います。

今回の協賛は、平等を促進し、人材のパイプラインを構築するという当社のコミットを示すうえで、重要なステップと考えています。というのも、AIの時代に入り、テクノロジー市場の成長を考えると、スキルある人材を獲得することはさらに難しくなるからです。そのため、当社がインクルーシブに取り組んでいる企業であるということを知ってもらい、優秀な人に興味を持ってもらいたい、そうした狙いがあります。

テクノロジー業界で素晴らしいキャリアを構築された立場から、日本の女性や学生にアドバイスをお願いします

Murphy氏: 現在、テクノロジーは日常の一部になっており、日々触れるものです。女子学生にとってテクノロジーが生む機会は大きいと思います。問題解決に対し、女性は協調的なアプローチをとる傾向がありますが、テクノロジー業界が前に進むにあたってこのような考え方が求められています。

早くから学びに投資すること、スキルを構築することが重要です。そして、基本的なことになりますが、好奇心と信念が大事だと考えます。好奇心を持って機会を探してください。テクノロジー業界の仕事は、イコール、コンピュータの前に座るだけではありません。範囲は広く、さまざまな才能を必要としています。

私は偶然この業界に入り、素晴らしいキャリアを築くことができました。すべての若い女性と男性に、テクノロジーを探求し、好奇心を持って欲しいと思います。世界に影響を与えることができる、そんな機会があるのがテクノロジー業界です。