懐かしさを感じる度合いが高い人ほど人とのつながりを広げて深めようとし、親しい友人が多くなることを、京都大学などのグループが国際的に行った1000人規模のオンライン調査などで明らかにした。懐かしさを感じることが、親しい友人の数を維持することにもつながっていた。懐かしさが人間関係におよぼす長期的な影響のひとつを示しており、心理的健康の向上につながる可能性があるという。

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    懐かしい記憶のイメージ。研究での「懐かしさ」は、「好ましく有意義な過去の個人的体験を思い出し振り返る性向」と定義。懐かしさは人に対しても物に対しても生じる(編集部作成)

心理学研究において、家族や学生時代の思い出など懐かしい経験を振り返ることは、孤独感を和らげたり、他者との社会的つながりを感じやすくしたりすることが示されてきた。京都大学人間・環境学研究科博士後期課程学生の黄冠儒(ファン・カンジュ、心理学)さんは、懐かしさが人間関係に実際にどのような影響を与えているのかを分析した。

まず米大学生449人(平均年齢19歳)に対してオンライン調査を実施。懐かしさを感じる頻度や重要性についての質問に対し、それぞれ1~7点で回答してもらった。同時に人とのつながり(友人関係)を広げたり深めようとしようとしたりする動機付けの度合いも同様に尋ねた。友人の数も「その人がいない生活を考えられないくらい近しい人(親しい友人)」「内輪ほどではないけれど近しい人(ただの友人)」「そんなに近しくは感じないものの大切だとは思う人(知り合い)」といった親密さごとに分けた。

得られた回答の関係を調べると、懐かしさを感じる度合い(全体平均4.46点)は、友人関係を広げようとする動機付け(同5.07点)や深めようとする動機付け(同5.55点)、親しい友人の数(同7.28人)と、統計的に有意な相関があった。

同じ調査を、大学生でなく米国の成人396人(同40歳)に対して行ってもほぼ同様の結果だった。

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    大学生対象の調査から分かった、懐かしさを感じる度合いと人とのつながり(友人関係)、友人の数の関係。実線矢印は統計的に有意な関係性を表している(京都大学の黄冠儒さん提供)

懐かしさと人のつながりについて時間的な変化を含めて調べるため、黄さんらはオランダで同じ人に長期間にわたって調査を継続している「長期インターネット社会科学調査」のデータで、懐かしさと友人の数について7年間追跡できた520人(同55歳)も分析した。

7点満点で数値化した懐かしさを感じる傾向は2013年(全体平均3.95点)から14年(同3.94点)はほぼ変わらなかったが、19年(同4.21点)は上昇した。親しい友人を「大事なことを相談できる人」とするなど懐かしさや友人についての質問文が米大学生らへ調査とは異なるために単純な比較はできないが、米での調査と同様に懐かしさと親しい友人の数には統計的に有意な関係があった。

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    オランダの社会科学調査データから分かる、懐かしさと友人の数の関係。2014年時に懐かしさを感じる度合いが高かった人ほど19年の親しい友人の数が多いという因果関係を示唆する結果もある(京都大学の黄冠儒さん提供)

また、懐かしさを感じる傾向が低いと親しい友人の数が7年で18%減る一方、中程度以上の傾向だと友人の数を維持していた。

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    懐かしさと友人の数の関係。懐かしさを感じるのが高程度なほど減り方が少ない(京都大学の黄冠儒さん提供)

調査結果について黄さんは「懐かしさを感じる度合いが高く、思い出を大切にしている人ほど、大切な人間関係を育むことの重要性を認識しているようだ」と話す。今後は欧米の調査だけでなく、日本人を対象とした調査もしていきたいという。

研究はニューヨーク州立大学バッファロー校と共同で行い、論文は3月12日に国際学術誌「コグニション アンド エモーション」電子版に掲載された。

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