大分県別府市は、海外からの観光客を主な対象とした公共ライドシェア「湯けむりライドシェアGLOBAL」を開始するにあたり、4月28日、別府公園東門にて出発式を開催した。
ドライバーの確保に向け「公共ライドシェア」を導入
「公共ライドシェア」は、2024年4月から大都市圏を中心に導入を予定している、タクシー会社によるライドシェア「自家用車活用事業」とは異なり、自治体やNPOなどが運行主体となって、交通空白地において住民や観光客のために移動の足を提供する制度。
別府市では、コロナ禍以降、急増する外国人観光客への対策はもちろん、タクシーやバスなどのドライバー不足に対する市民の足を確保することも目的として導入され、「Uber」や「GO」などの配車アプリを利用し、24時間365日対応するものとなっている。
生憎の雨模様となった出発式において、別府市長の長野恭紘氏は「また雨を降らせました」と苦笑いしつつも、「この雨が40年、50年かけてまた次の温泉の源泉となり、40年後、50年後の皆様を癒やしてくれる」と語り、「湯けむりライドシェアGLOBAL」がスタートの日を迎えたことに、関係各位への感謝の気持ちを伝えた。
別府市はコロナ禍の打撃を受けて観光の需要がなかなか復活しない中、タクシーやバス、トラックのドライバーが帰ってきて来ないという苦しい状況に陥っていたという。そのため、移住政策などさまざまな手段を講じてドライバーの確保を目指した結果、今回のライドシェア事業に至ったとのことだ。「課題はこれからです」という長野市長は、「今後、いかにアップデートし、進化させていくかがキモになってくる」と力を込め、「別府市の総力戦で、この制度をさらに進化させていきたい」との意気込みを明かした。
今回の「湯けむりライドシェアGLOBAL」では、長野市長自身も大臣認定講習を受け、ドライバーとして稼働する。同氏は「長野のパフォーマンスが始まったと思っているかもしれませんが、半分はそうです」と言いつつも、「夜中に、観光客の皆様や市民の皆様が移動手段に困った際は、アプリの要請に応じることを約束する」と断言。観光客や市民の移動手段の確保に向けて、「総力を挙げて、この課題の解決に取り組んでまいりたい」と締めくくった。
長野市長がドライバーとなり、最初の客を乗せて運行
続いて、第99代内閣総理大臣の菅義偉氏から寄せられたビデオメッセージを披露。「増え続ける外国人観光客の足を確保したい、インバウンドの恩恵を地方にまで行き渡らせたい」との想いから、ライドシェアの必要性を訴えた菅元首相は、「その想いを真正面から実現いただいたのが長野市長をはじめとする別府市の皆さんです」との言葉を贈った。
第二次安倍内閣の最初の施政方針演説で観光立国を宣言して以降、インバウンドの旗振り役を務めてきた菅元首相。2012年当時は836万人だった外国人観光客が、昨年は3,687万人に達し、消費額も約1兆円から約8兆円に伸びていることに触れ、「インバウンドの活力、経済効果をさらに地域に取り込むためには、観光客の足の確保が重要」であり、今回の「湯けむりライドシェアGLOBAL」は、インバウンドの恩恵を別府市に取り込むことに貢献してくれるはず」との見解を示した。
さらに、去年の夏以来、交通空白解消を主なテーマに取り組んでいる国土交通省からは大臣官房 公共交通政策審議官の池光崇氏が出発式に参加。通常、公共ライドシェアは、人口が少なく、バスやタクシーなどの交通手段の使い勝手の悪い地域で主に使われるのに対し、同氏は「湯けむりライドシェアGLOBAが交通空白という概念をもう少し広げての運用」であるとし、急増する観光客のニーズへの対応という公共ライドシェアのさらなる可能性を示唆した。さらに、「観光客だけでなく、別府市民の皆さんに十分活用いただいて、愛される移動手段となること」に大きな期待を寄せた。
出発式では、長野市長がドライバーとなり、第一号となる最初の客を乗せて運行するデモンストレーションも実施された。
「Uber」アプリのグローバルでの強みを生かす
「湯けむりライドシェアGLOBAL」の運用には、「Uber」や「GO」などの配車アプリが利用される。中でも、「Uber」アプリが公共ライドシェアに活用されるのは、京都府京丹後市、石川県加賀市、長野県志賀高原エリアに続き、今回の別府市で4地域目となる。
増加する観光客、特にインバウンドの需要に対して、バスやタクシーといった公共交通が不足している別府市において、「われわれのアプリで解決できる部分が大いにある」と、Uber Japan モビリティ事業部 ドライバーオペレーションズ本部長の村上浩氏は、「湯けむりライドシェアGLOBAL」への参画に自信をのぞかせた。
現在、九州地方においては、福岡空港などを中心にUber Taxiの利用が進んでおり、別府市についても、今夏の展開が予定されているが、展開前にもかかわらず、すでにアプリを開いて検索されている人が多いとのことで、Uberは公共ライドシェアとしての展開にも大きな期待を寄せている。
“GLOBAL”の名が示す通り、外国人観光客を主な対象とする今回の「湯けむりライドシェアGLOBAL」においては、「日本に来る前から、すでに海外で使用されている方が多いのがUberの強み」という村上氏。Uberアプリは世界70カ国以上で利用されており、約50言語に対応していることから、来日後にわざわざアプリを再ダウンロードしたり、言語設定・支払い方法などを変更したりすることなく、シームレスに利用できる点もメリットとなる。
また、日本、さらには別府においても、Uber Eatsが多く利用されている点も見逃せないポイントだ。「われわれとしては、Uber Eatsのお客様に、タクシーもあわせて利用していただけるように、プロモーションを行ったり、“Uber One”というサブスクリプションサービスを展開したりすることで、両方のサービスを便利に使えるだけでなく、よりお得に利用できるキャンペーンも実施している」という村上本部長。
すでにUber Taxiは、24都道府県、約500社のタクシー会社と連携しており、別府市をはじめ、さらに多くの地域での展開が予定されており、村上氏は「タクシー、そして公共ライドシェアといった両面から、地域の公共交通を支えていきたい」との意気込みを見せていた。。