
今後の3つのシナリオ
これまでの相場の流れを振り返ると、2023年1月4日の安値、2万5661円で日本の株は底入れしたわけですが、この背景には前年の34年ぶりという1ドル=150円台を付けた円安がありました。
その後、23年4月から円安による輸入インフレ、賃金インフレ、インバウンド(訪日外国人観光客)の復活などを要因とした「資産インフレ相場」が始まりました。そこからちょうど1年上げて、24年3月22日に天井を付けました。12ないし13カ月の日柄通りでした。
そこから数カ月揉み合って、7月11日の4万2426円でダブルトップとなりました。そこから株価は大きく下げて、8月5日には3万1156円という安値を付けたのです。
その後、一旦株価は戻って、3万5000円から4万円というボックス相場が続いていましたが、ついに直近、25年4月2日、米トランプ大統領が貿易相手国に対する関税を発動し、株価は急落しました。
関税策は、インフレを加速し、各国の景気後退につながるということで株価は下落したわけです。関税策で付けた安値は、日本では4月7日の3万792円でした。問題は、今後この安値を下回ってくるかどうかです。ここで二番底が入ったかどうかを見極める必要があります。
どこに対する二番底かというと、楽観シナリオでは24年8月5日の3万1156円に対するものです。いずれの相場も、二番底が入れば、そこで底値が形成されて、日柄調整の後、株価が上がるというのが相場の波動です。
中立シナリオは、4月7日の3万792円は底ではなく、さらに下回り、安値更新があり得るというものです。この場合は今の3万円から3万5000円というボックスの下値支持線、3万円を下回ってくる展開です。
この場合は、今回の資産インフレ相場の出発点、23年1月4日の2万5661円を目指して下落し、この近辺でダブルボトムが入ります。
また、悲観シナリオは、23年1月4日の安値をも下回ってきます。可能性は低いと思いますが、この場合にはトランプ関税によって貿易戦争が拡大し、米国株式市場が先行する形で相場の「メルトダウン」が起きます。
この時には世界同時株安になりますが、資産を持つ人達がリスク回避に走りますから、株だけでなく不動産、金などあらゆる資産が売られることになります。この流れに先行するかのように暗号資産、ビットコインが暴落しています。
トランプ大統領は、就任から100日の間に、選挙中に公約したことを実行に移そうとしています。その中で関税を発動したわけですが、この狙いは貿易赤字の削減です。ですから、一律に10%の関税をかけるだけでなく、特に赤字の大きい日本、中国、韓国、カナダ、メキシコに対して上乗せしているのです。
4月9日に正式に関税が発動されたわけですが、相場的にはここが〝ウリ〟(株安)のピークになるのではないかと見ています。直近の日米株価の暴落でトランプ関税を相場はかなり織り込んだ可能性があります。
ただ、トランプ大統領が再び、何か株式市場の打撃になるような発言をするかもしれませんから、さらなる下落も覚悟する必要があります。
しかし、よほどのことがない限り、23年1月4日の2万5661円は下回らないと見ていますが、もし下回ると上昇相場は一旦終わりとなります。底値模索が長く続き、日本経済は再びデフレ懸念が出てきます。
今後、日本政府は米国政府との交渉に入ることになりますが、トランプ大統領は日本、韓国との交渉は「テーラーメイド」だとしています。つまり個別交渉だということです。日本でいえば上限は24%ですが、交渉次第で割り引かれるでしょう。
その引き換えにアラスカ投資への参画や、農産物の輸入規制緩和といったカードを切ってくるものと見ます。
対日交渉の担当者はスコット・ベッセント財務長官ですが、為替も議題になると思います。かつての「プラザ合意」のように、全ての国の通貨をドルに対して切り下げることはしないでしょうが、貿易赤字の大きい日本や中国に対しては、要求してくる可能性があります。
イェール大学の縁でベッセント財務長官と親しいイェール大学名誉教授の浜田宏一氏は、1ドル=120円が適正水準だと言っていますから、ここに向かう可能性もあります。こうなると、日本の株式相場は厳しい局面を迎えるかもしれません。
今後は底値形成、日柄調整に入っていくと思いますから、個別物色相場になります。関税、円高で輸出関連企業は厳しいですから、有望投資テーマとしては上がる可能性があるのは内需・消費関連です。
注目は建設、不動産、外食・食品などです。資産インフレ相場の中では、それほど株価は上がっていませんが、以上のセクターで企業業績の見通しが良いモノが狙い目となります。
今回のトランプ関税ショックで日経平均は大きく下落しましたが、不動産、建設の大手企業の株価は、他の銘柄ほど下がっていません。
こうした銘柄には新NISAからの資金が入ってきたり、これまで米国のハイテク株に投資されていた資金が向かってくる可能性もあります。個人投資家としては、PBR(株価純資産倍率)1倍割れで業績がいい銘柄を狙うことも戦略の1つです。
慎重に行くならば、日本株がトランプショックを織り込んで、底入れするまで「動かざること山の如し」ですが。
考え方としては、トランプショックは、内需・消費関連を含め、有望な銘柄を買う絶好の機会だとも言えます。