現実世界にデジタル映像を重ね合わせるAR(拡張現実)メガネを薄く軽くする技術を東京大学などのグループが開発した。光の進む方向を制御する回折光学素子と透明な導光板を利用し、顔の向きが変わってもプロジェクターで投影した映像を目の前に安定して映し出す。ARメガネが軽くなると、運動時や長時間の使用による疲労が低減し、用途の広がりが期待できる。
ここ数年、VR(仮想現実)に用いるVRゴーグルやVRグラス(メガネ)とともに、ARメガネの普及が進む。スマートフォンを風景にかざすとキャラクターが表れるゲームの「ポケモンGO」も一種のAR。マイクロソフトのホロレンズやメタが試作モデルを発表したオリオンなどが実例だ。
しかし、デジタル映像の光源やバッテリーをメガネに内蔵させると重くなる。東京大学大学院情報学環の伊藤勇太特任准教授(情報科学)によると、現状のARメガネは通常のメガネが50グラムを下回るのと比べると2倍程度の重さとなっているため、装着感や性能向上には限界がある。プロジェクター技術を応用して、外部環境からメガネに映像を投影すれば、バッテリーなど電源が不要となり軽量化できると考えた。
ただ、外部から映像を投影する方法では、顔を動かすと投影像が遅れてついてくることや真正面から角度が5度以上ずれると見えなくなるという問題が生じる。この問題については、メガネの位置や向きに合わせて投影方向やピントを合わせる球体の目印を用いた。目印の動きに応じてレンズと反射鏡の角度を動かす仕組みにした。
また、メガネに厚みがあると装着感が悪い。伊藤特任准教授はメガネで映像を受け取った回折光学系の機器がメガネの横側から投影映像を送り出し、光を特定の方向に効率良く伝えることができる透明導光板に映し出す技術を開発した。顔が20~30度ずれても見えるという。
伊藤勇太特任准教授は、外部から映像を受け取ることで軽量化した薄型ARメガネによって、「プロジェクター数台を外部環境において映像を送り出すことで、既存のARメガネでは疲労のために長時間行うことが難しかった、メガネをかけて動きながら作業することが可能になる」と話す。
具体的には、工場で手順などガイドをみながら作業をしたり、手本を見ながらフィットネスなど運動をしたり、美術館などで解説を音声ガイドのように見ながら作品を鑑賞したりするといった用途が想定できるという。
研究は、大阪大学やVRサービスのクラスター(東京都品川区)メタバース研究所、英ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンと共同で行い、3月に開催したVRやARを扱う国際学会「IEEE VR 2025」で発表した。