「ジョブ型はグローバルで勝つための手段」NECが取り組む人的資本経営

人材の〝適時適所適材〟を

「〝ジョブ型〟による柔軟な人員配置によって成果が出始めている。当社にとって、ジョブ型はグローバルで勝つための手段の一つ。目的は変化にスピーディーに対応し、グローバルで勝ち続ける企業になること」

 このように語るのは、NEC執行役コーポレートEVP兼CHRO(最高人事責任者)の堀川大介氏。

「退職者は裏切り者ではない」住友商事の『アルムナイ』活用戦略

 NECが職務内容に応じて賃金を決める「ジョブ型」人事制度を本格導入して1年。グローバルでの成長に向け、従業員と会社双方が互いに〝選び・選ばれる〟対等な関係を構築しようとしている。

 NECでは2018年度から、段階的にジョブ型へ移行するための基盤整備に着手。23年度には統括部長以上へ、ジョブ型人事制度を導入した。24年度からは全社員約2.2万人へジョブ型を適用。この1年間で約5千人が会社側・従業員側双方にとって〝適時適所適材〟のポジションについているという。

 この間、NECは個人のパフォーマンスを最大化できる組織の形をデザインして、求める人材像を明確化。それぞれのジョブに応じた人材教育プログラムを拡充し、競争力と職務の大きさに応じた報酬制度を整えた。

 その結果、2018年度に19%だった「エンゲージメント(働きがい)スコア」は、24年度に42%まで上昇。目標とする25年度の50%に向けて順調に伸びており、堀川氏も「自ら新しいポジションに挑戦しようという従業員も増えてきている」と手応えを感じているようだ。

 ただ、この数字も裏を返せば、まだ50%以上の従業員が自らの置かれている状況に対し、満足していないということ。

 このため、ミスマッチが起こっている従業員に対して改善プログラムを課したり、リスキリング(学び直し)などの人材育成制度の拡充は引き続きの課題になる。25年度以降にはAI(人工知能)を活用したキャリア相談窓口も設置する予定だ。

【著者に聞く】『リスキリングが最強チームをつくる』パーソルイノベーション Reskilling Camp Company代表・柿内秀賢

「パフォーマンスが十分に発揮できていない人には、よりマッチングしたポジションに移すことをルール化している。一人ひとりに対して適切なコンサルティングを行うことで、一部の方には社外へ転籍していただくことも含めて、リソースの最適配置を進めている」(堀川氏)

 2025年度からは本体を含めたグループ6社、約4.8万人を対象にジョブ型を拡大。グループ全体で人材流動化を加速し、人材の〝適時適所適材〟を推進することで持続的な競争力強化を目指す。

 こうした取り組みの中で、すでに入社6年目、27歳の女性ディレクター(一般的な部長クラス)も誕生している。気候変動適応領域の事業開発チームをけん引する存在で、20代の管理職は同社にとって初めてだ。

「まだ若くて経験が少なくとも、自ら積極的に変化を起こす、挑戦する習慣をつけていってもらいたい。ジョブ型への移行によって、年齢や社歴、性別、国籍に関わらず、能力と意欲がある人材を登用していく」(堀川氏)

 NECが注力するDX(デジタルトランスフォーメーション)人材の獲得競争は、世界的に激しくなるばかり。このため、25年度は約7%の賃上げを実施する他、従業員を対象とした新たな株式報酬制度を導入する。統括部長などを中心とした約400人を対象に業績非連動型の株式報酬を付与。株価に対する従業員の意識を向上させることが狙いで、今後は本体を含むグループ従業員6000人以上に対象範囲を拡大していく方針だ。

「大切なのは、 変革の歩みを止めないこと」

 近年、日本でも終身雇用・年功序列を前提とした「メンバーシップ型」の働き方を改め、欧米型で一般的とされる、職務の内容を定めて賃金・雇用形態を決める「ジョブ型」へ移行する企業が増えている。ソニーグループや日立製作所、KDDI、三菱ケミカル、資生堂などで、各社に共通するのは、グローバルで戦う上で、従来の雇用システムでは競争力の維持が難しくなってきたからである。

 NEC同様、ジョブ型を導入する富士通は、26年度以降の新卒一括採用の廃止を決めた。必要な職務を担う人材を通年で採用し、若手社員により専門性や付加価値の高い仕事を担ってもらい、その仕事に見合った報酬で処遇することが狙いだ。

 ある人材サービス企業関係者は「多くの日本人にとっては、これまで自分たちのキャリアは会社が決めてきた。それが、ジョブ型では自らがキャリアを決めなければならず、自らを律することができないと厳しい時代になった。大企業病で会社におんぶにだっこの社員はもういらないということ」と指摘する。

 ジョブ型の導入は、企業側の変革だけでなく、従業員にも意識改革が求められる。

 NECは25年3月期の業績を上方修正。調整後営業利益2600億円(前年同期比16.3%増)、当期利益は1820億円(同2.3%増)となる見通し。年明けから時価総額も4兆円を超え、前述したエンゲージメントスコアも着実に上昇していることから、堀川氏を含めた経営陣も改革に一定の手応えを感じているようだ。

 それでも市場では「森田隆之社長の言葉や真の思いを理解して、実行できる中堅クラスの人材はまだまだ足りない。本気でグローバルを目指すなら時価総額が4兆円くらいで満足するな」という声も聞こえてくる。

 そうした中、「大切なのは、この変革の歩みを止めないこと。 変わり続けることを変えないこと」と語る堀川氏。

 従業員と会社双方が 〝選び・選ばれる〟関係をいかにつくっていくか。そして、従業員のやりがいや働きがいをジョブ型でどう実現していくのか。NECの取り組みはまだ始まったばかりだ。

人口減少、人手不足の時代をどう生き抜くか? パーソルHD・和田孝雄の社会課題克服論