Specteeはこのほど、「未来をつくるサプライチェーン・レジリエンス」をテーマにしたオンラインカンファレンス「SFX - SUPPLY CHAIN FUTURE EXPERIENCE」を開催した。本稿では同イベントの中から、Spectee 代表取締役CEOの村上建治郎氏とDATAFLUCT 代表取締役 CEO 久米村隼人氏の対談の模様をレポートする。
対談テーマは「データプラットホームで実現する次世代サプライチェーン・マネジメント~AI・IoT時代における可視化と最適化~」。久米村氏は対談の中で「スタートアップとDX(デジタルトランスフォーメーション)は実は相性が悪い」と語っていた。その真相とは。
2019年に創業したDATAFLUCTは、企業内に眠るデータの分析・活用を通じてアルゴリズムを実装し、需要予測や自動発注など業務の効率化を支援するスタートアップ。配送ルート最適化やダイナミックプライシングなど、サプライチェーンを支援するサービスも手掛ける。
大企業のDXが進まない要因は?
村上氏:「データ活用」や「データ分析」のサービスは、顧客企業への説明が難しいと感じる場面が多いです。DATAFLUCTはどのように営業活動していますか。
久米村氏:当社はもともと中小企業向けに営業していましたが、現在は大手企業のお客様も多いです。大手企業は社内にデータサイエンティストを抱えるなどデータ活用に注力している会社と、そうではない会社に分かれます。当社のメインとなるお客様は後者です。
したがって、営業活動の際は「お客様の手元のデータは本来こんな価値がありますよ」「今は宝の山を捨てているようなものですよ」と伝えるようにしています。
村上氏:これまでデータを活用してこなかった企業は、新たにデータを使い始める過程が非常に大変ですよね。当社もお客様のサプライチェーンのデータを活用するサービスを開発していますが、サプライヤー拠点の住所を例にとると、半角・全角や算用数字・漢数字の表記のゆれなど、そもそもデータを分析するまでの道のりが長い経験があります。
久米村氏:当社もお客様のデータを見ると、9割ほどは整理されていません。そうすると、当社のデータサイエンティストはデータのテーブルを作り直したり表記ゆれを直したり、業務の半分くらいはデータの整理と前処理に費やしています。
村上氏:この問題こそ、DXを阻む原因の一つでもあります。データは蓄積されているものの、実際に活用できる状態ではない。
久米村氏:データがオンプレミス環境にあってリアルタイムで集計できない場合や、担当者のPCだけに蓄積されている場合もありますね。これらのデータをクラウドに移行して分析できる状態にするだけで3~4カ月かかる場合もあります。この工程自体は価値を生み出しませんが、実は重要な作業です。
村上氏:別のセッション(早稲田大学ビジネススクール教授 入山章栄氏との対談)では、需要予測の精度が大切という話がありましたが、データをきれいにすることで予測精度に影響はあるのでしょうか。
久米村氏:とても影響があると思います。需要には、中長期的なトレンドや季節性の変動、月次や週次の変動、競合他社の動きなど、複雑な要素が絡んでいます。よって、全く同じ需要の状況は起こり得ません。今この瞬間の需要を適切に予測するためには、最新のデータに更新し続ける必要があります。
スタートアップのDATAFLUCTが大手企業に営業活動する秘策とは?
村上氏:これまでデータを活用してこなかった大手企業が、DATAFLUCTのメインのお客様だという話がありました。そういった企業は独自のExcelファイルを使ってベテラン社員の経験と勘で運用されているなど、スタートアップのサービス導入が難しいような気がします。ここをどのように打ち破っているのでしょうか。
久米村氏:話をする順番がカギだと思います。当社の場合はまずはDXや変革の担当者と仲良くなって、それから現場の方に話をします。相手は大手企業のサプライチェーンのプロですが、当社がデータ活用について話をすることで、最初にリスペクトしてもらい一緒に始めやすい状態を作ります。DX担当者と現場の方に手を組んでもらい、それから上司を説得してもらう流れです。
まずはトライアル期間で失敗や成功の経験を積んでから、決裁者に報告してもらうようにしています。特にすごいことをしているわけではなく、何度も足を運んで現場の信用を勝ち取るのが良いと思います。ただしこの方法では、経営層がどこかから見つけてきた他社の採用が決まって、急にはしごを外される場合もあります。
最近では当社も事例が増えてきましたので、新しいお客様を紹介してもらう機会も増えました。リファラル採用のような感じです。成功体験は経営層よりも現場から発信してくれた方が影響が強いので、やはり現場でファンを増やす方が良いですね。
村上氏:そうですね。現場にファンを作っておくと、一度失注しても数年後に改めて声をかけてもらえる場合もあります。
「スタートアップとDXは相性が悪い」の真意は?
村上氏:SpecteeもDATAFLUCTも、製造業や物流などサプライチェーンが事業のターゲットです。両社はいわゆるスタートアップですけど、DATAFLUCTにはスタートアップならではの戦略や思いはありますか。
久米村氏:いろいろ仕掛けていることはありますが、大前提としてサプライチェーンはスタートアップが勝負すべき領域ではないと考えています。日本のサプライチェーンは2~3年で変わるものではなく、10年は必要です。そもそもスタートアップ向きではありません。その大前提の下、3つの仕掛けを考えています。
まずは、データ分析の予測精度を上げて自動発注を実現するなど、プロアクティブな業務効率化を目指しています。2つ目は、定常商品ではなく季節商品やキャンペーン商品など、限定品の予測を正確にできるようにすることです。
3つ目は、製造と販売のデータ連携です。当社のお客様には卸も小売りもメーカーもいますが、それぞれデータ連携がされていません。メーカーは小売店のPOSデータを知りませんし、小売りはメーカーの製造状況を知りません。この壁を取り除くことができれば、無駄な生産が減って効率化できるはずです。
村上氏:スタートアップにとって10年という期間はとても大切ですよね。多くの場合、ベンチャーキャピタルのファンドは組成から満期が10年です。投資先の選定に数年かかりますので、スタートアップはおおむね7年以内に上場かM&Aなどイグジットを考えなければいけません。
久米村氏:スタートアップとDXは、実は相性が悪いですよね。数年でそんなに簡単に現場の業務は変わりません。投資家は「AIがあれば数年で変革できるでしょ」と思っているかもしれませんが、商慣習を変えるのは一筋縄ではいきません。
一方で、当社を応援してくれる投資家やファンドは、江戸時代から続くような大企業のお客様も多いです。竹中工務店も当社に投資してくれています。「私たちは10年単位でビジネスを考えていません。100年先に必要だからビジネスをやっています」という言葉をもらうほど、マインドや価値観が似ていると感じます。
村上氏:10年間というスパンの中で、DATAFLUCTの今後の戦略を教えてください。
久米村氏:これまで通りに大企業向けのDXのパートナーとしてビジネスは続けます。それに加えて、昨今のAIエージェントの流行の波に乗ったプロダクトを開発中です。しかも格安で提供しようと思っています。数千億円や数兆円規模のお客様ならば、これまで通り当社のデータサイエンティストが稼働するソリューションでも良いのですが、数億円や数十億円規模のお客様にもDXを進めていただくために、導入しやすい価格帯のツールを提供したいです。
生成AIの登場は当社にとっても朗報です。AIがPythonのコーディングなどを自動化してくれれば、当社のデータサイエンティストの稼働が減ります。これによってコストも下げられるでしょう。お客様との要件定義もAIによって効率化できます。
村上氏:それは反対に競合が参入しやすいことを意味するのではないですか。
久米村氏:そうではありません。サプライチェーン業界は大手や老舗の企業が多く営業が大変です。何度も現場に通って信頼やリスペクトを勝ち取る手順が必要です。