AIエージェントを全面に押し出した象徴的なイベント
Google Cloud Next '25は、AIエージェントを全面に押し出した象徴的なイベントとなった。Googleといえば、検索エンジンやGmail、Google Workspacesといった実用的なWebサービス群または開発プラットフォームを思い浮かべるだろう。しかし、今回のNextは全方位においてAIエージェントを中心とした戦略と製品展開が強調された。
従来のインフラや生産性ツールといった文脈は影を潜め、代わって登場したのは、AIモデル、AIエージェント、AIインフラといった、あらゆる業務・産業を再定義する可能性を秘めたAI中心のテクノロジー群だ。GeminiをはじめとするAIの進化は単なる補助的機能ではなく、すでに企業活動の中核を担う段階に達していることが強く印象づけられた。
Google Cloud Next '25を理解するには、「クラウド」や「検索」といった従来のキーワードだけでは不十分と言える。今回のイベントは、Googleという企業がこれからの10年を「AIの企業」としての方向性を示すものであり、その強いメッセージが全セッションとプロダクトに一貫して表現されていた。
AIを中心としたGoogle Cloudの戦略と展望
Google Cloud Next '25において、GoogleおよびGoogle Cloudは、AIエージェントを核とした企業戦略を明確に打ち出した。2024年には3,000を超える新機能・製品をリリースし、200万以上のビジネスユーザーにAIによる支援を提供した。旗艦モデルであるGeminiシリーズの進化は目覚ましく、1.5以降のモデルではマルチモーダル処理能力と長文コンテキスト対応が強化されたことで業務効率の大幅な向上に寄与している。
GoogleはAIを「最も重要な進化手段」と位置付け、10年以上にわたり研究開発を継続しており、今後はAIの民主化を推進するため、2025年に7,500万ドル以上のAIコンピューティングへの投資を実施する計画としている。これによりスタートアップから大企業に至るまで、AIの利活用がより現実的かつ効果的になると見込まれている。
また、AIによる産業構造の変革を支援すべく、Googleは製品群の統合と拡張を続けている。数百の導入事例を通じてAIの実用性を訴求し、同時にセキュリティやプライバシーの確保、規制対応にも力を入れている。これにより、単なる技術提供にとどまらず、業務変革のパートナーとしての役割を果たす姿勢が明確となっている。
AIインフラとTPU開発の進化
GoogleはAI処理に最適化された独自チップ「TPU (Tensor Processing Unit)」を継続的に進化させてきた。今回発表された第7世代のTPU (Ironwood)では、初代と比べて最大300倍の性能を達成し、AIトレーニングや推論において世界屈指の処理能力を提供している。
ハードウェア面での性能向上に加えて、Googleは統合型ソフトウェアスタックにより、モデル世代の移行を容易にし、コスト最適化と省エネ性も両立させてきた。さらに、次世代モデル用のインフラ整備も進んでおり、エンタープライズ用途でも柔軟にスケーリングできる設計になっている。これにより、AIの大規模導入が技術的・経済的に現実のものとなった。
Googleは専用チップの提供にとどまらず、ストレージ、ネットワーク、セキュリティ、オーケストレーションまで含めた包括的なAIインフラを提供している。この「フルスタック」アプローチにより、企業は複雑なAIワークロードを一気通貫で処理でき、導入・運用の障壁を大きく下げることに成功している。
Geminiの機能と企業導入事例
GeminiはGoogleが開発した最先端のマルチモーダルAIモデルであり、自然言語、コード、画像、動画、音声といった多様な形式の情報を横断的に処理できる特徴を持つ。長文コンテキストの理解、専門的なタスク遂行能力、高度な応答精度を持ち、現場での実用に耐える性能を実証している。
例えば、レストランチェーンでは業務データのリアルタイム分析にGeminiを活用し、オペレーションの改善と予測対応の高度化を実現している。金融業界では、顧客との対話履歴を統合し、対話型AIによるパーソナライズドな顧客支援を実施。これにより顧客満足度と業務効率が同時に向上したという。
GoogleはGeminiを「企業と消費者の双方が使える世界最高峰のAI」と位置づけている。AIをすでに導入している企業はもちろん、導入を検討している企業にも適応できる柔軟性と拡張性を備えており、ビジネス変革の推進力として期待されている。
AIエージェントが業務を支援する未来の姿とは
AIエージェントは、業務支援の中核を担う存在として注目されている。エージェントは記憶・推論・会話能力を備え、ユーザーの意図を理解して自律的に処理を進めることができる。Google Cloudでは、コード不要で誰でも業務に導入できるGeminiベースのエージェントが構築され、実用化のハードルが一段と下がった。
セールスフォースとの連携としては、営業活動やサポート業務においてAIエージェントが実装され、情報収集・提案・アクション実行を迅速かつ的確に行う仕組みが構築された。これにより人手に頼らないワークフローが実現し、効率性と顧客満足度が大幅に向上したという。
また、GoogleはAIエージェントを「企業全体の知的補佐官」として位置づけており、文書作成、データ分析、意思決定支援といった業務に幅広く適用できるよう設計している。クラウドベースの柔軟なアーキテクチャーにより、あらゆる規模の組織での展開が加速している。
映像生成やメディアへのAI活用
Google Cloudでは、AIによる高品質な映像生成を実現する新技術Veo 2を発表した。Geminiを基盤としたビデオ生成AIは、数分単位のシーケンスを構成可能であり、映像制作の迅速化とコスト削減に貢献している。クリエイターは動画の開始点と終了点を設定するだけで、自然な映像表現を生成することができる。
この技術は映画や広告制作、バーチャルプロダクションなど幅広い分野で応用されている。特に、有名映画スタジオとGoogle Cloudの共同プロジェクト(ラスベガススフィアでの『オズの魔法使い』リメイク)では、過去の名演技を再構成し、新たな作品として再生する実験が行われ、成功を収めた。AIが創造性を補完する形で、文化・芸術の保存と発展を支援している。
さらに、美容や小売などの業界では、商品画像の多様化や顧客ごとのプロモーション映像の自動生成といった応用も始まっており、AIは創造の支援者として定着しつつある。Googleは今後も、ジェネレーティブAIをメディア領域に展開し、創造の可能性を広げていくと明言している。
映像生成やメディアへのAI活用
Google Cloudは、AI時代に対応した包括的なセキュリティ基盤「Google Unified Security」を発表した。この新プラットフォームは、AIとクラウドを活用してリアルタイムでの脅威検知、対応、自動化を統合的に実現するものだ。特に、エンドポイントからクラウド、ネットワーク、アイデンティティまで一貫してリアルタイムに保護できる点が特徴といえる。
同基盤は特定の企業やシンガポール政府など、数千に及ぶ組織にすでに導入されており、AIによる調査・対応の迅速化が評価されている。セキュリティオペレーションの自動化により、対応時間の短縮と人的リソースの最適化が可能になった。Vertex AIと連携することで、AI駆動の高度なセキュリティ分析が可能となり、ゼロトラスト環境の実現が促進されている。
Google Unified Securityは、AI活用に伴うセキュリティの複雑性を克服し、規模を問わずあらゆる業種に適応可能なフレームワークとして構築されている。今後はさらなるパートナー連携と業種別ソリューションの拡充を進め、グローバルなデジタル防衛インフラとしての地位を確立していく方針だ。